天下分け目の沖縄知事選である。どちらに転んでも、沖縄の今後の行く末を決定的に左右する。また、これで辺野古基地建設反対派が勝てなければ、沖縄の基地反対運動は終わりだとさえいわれる選挙である。
私は、新外交イニシアティブ(ND)の活動を通じ、ワシントンを軸に、米国がこの問題をどう見るか、ワシントンにこの問題をどうやって伝えていくかという視点から、沖縄の基地問題に関わってきた。「沖縄」がどの様な選択をするかというのは、東京に対してはもちろんのこと、米国に対しても極めて重要である。鳩山首相が普天間基地の県外移設を主張してから、県内全市町村長による建白書をはじめとする文字通りの「オール沖縄」での辺野古基地建設反対となった。しかし、昨年秋、この島ぐるみの体制に、中央による圧力がかかり沖縄選出の自民党国会議員が辺野古埋立を容認、そして、昨年12月末の仲井真県知事による埋立承認となった。
ワシントンでは普天間基地問題を巡り多様な意見が存在し、特に鳩山政権時代とその直後には、さまざまな角度から議論が活発化した。例えば、日米同盟の守護神と言われ、保守派で知られるリチャード・アーミテージ氏なども、辺野古案以外を検討するべきとの発言を繰り返し、国務省・国防省内でも実現可能性の低い辺野古案以外の案の検討を真に求める人々が現れていた。また、連邦議会内にも辺野古案を否定する声があがり、例えば、レビン、マケイン、ウェブ氏ら有力米上院議員らは現在の計画は「非現実的、実行不可能かつ財政的に負担困難」とする声明を出している。
しかし、ここ1、2年、尖閣問題や歴史問題、TPPなどにワシントンの日本専門家の意識が移るにつれ、沖縄米軍基地の議論は停滞し、話題に上る頻度も低下した。新外交イニシアティブで訪米の企画・同行を担当した本年5月の名護市長の訪米では、「(このような訪問は)こういう声が存在することを私たちに思い出させる」との声まで聞かれた(リチャード・ブッシュ・ブルッキングス研究所東アジア政策研究センターディレクター)。ワシントンの友人からは「現在、普天間問題についてワシントンで話がされることはほとんどない。」と聞く。また、仲井真知事の辺野古埋め立て承認により、辺野古案に反対していた「知日派」にも辺野古推進に回る者が出始めている。この夏にはボーリング調査が着工されたが、にもかかわらず、知事選で変化がなければ、既に終わった問題とされつつあるこの問題が、米国の中で再考されることは極めて難しくなる。
もちろん、この知事選で辺野古反対派が圧勝しても、直ちに米国政府が政策を変えることはないだろう。しかし、まずは、この選挙の結果がなければ、何も変わらない。選挙で沖縄の人々の意思を強く示し、その上で、東京の政府にはもちろん、ワシントンの政府にも沖縄の声を伝えていく。米国においても、連邦議会の上院軍事委員会,歳出委員会等への訴え、また、各シンクタンクとの連携、さらなる人員の受け入れを可能とする基地を有する米各州・地方自治体への働きかけなど、取り組むべき課題はとても多い。
なお、ワシントンと交渉する際には、安全保障政策の観点から物事を語らねば、聞く耳を持ってもらえない。この点、日本政府は、「抑止力」の観点から海兵隊の沖縄駐留を理由づけるが、海兵隊をどの場面で用いることを前提に「抑止力」を述べているのか。中国からの攻撃か、北朝鮮か、台中関係か。そのときに海兵隊はどの様に役立ち、なぜ海兵隊は沖縄にいなければならないのか。このような分析を細かく行っていくと、抑止力の観点から見ても,米海兵隊が沖縄にいる必然性はないことがわかる(詳細は書籍『虚像の抑止力 沖縄・東京・ワシントン発安全保障政策の新機軸(ND編・旬報社)』)。このような視点からの分析をワシントンの安保専門家と共に深めていくことも重要である。
なお、新外交イニシアティブからの強い働きかけもあり、ワシントン沖縄オフィスの開設を公約にしている県知事選候補もいる。知事選後のあらゆる取り組み、日本政府への働きかけ、そして、オール沖縄での継続的な米国への働きかけに期待したい。新外交イニシアティブではそれを全面的にサポートしていく。
沖縄には基地「賛成派」はいない。辺野古についても、「条件付き容認派」しかいない。100年後の将来を見据えてなお,沖縄に基地があるべきという人は一人もいないのである。そのためには今何をすべきか、沖縄の方々と共に、私たち本土の人間も考えていかねばならない。