◆島の若者と基地問題の空気感
2004年に沖縄国際大学に米軍ヘリが落ちたとき、正直すぐには事の重大さを理解できなかった。「また米軍絡みの事故か〜」みたいにさらっと流してしまった自分がいた。多くの島の若者もまた、無関心だと感じた。
そのことについて友人に指摘され、麻痺してしまっていた自分の感覚を恥じ、同じく声を上げない沖縄の若者に対して自戒の意味も込めて「民のドミノ」という曲を作った。
ヘリ墜落を受けて1970年のコザ暴動の時のように怒りで爆発していく沖縄、本当はそうなってもおかしくなかったはずの沖縄をフィクションで描き、冷ややかな現実に当てつけた。
僕らは狭い島のしがらみの中でうまく生きていく為に基地の話題をタブーにし、この状況をずっと放置してきたんだと思う。どうしたら島の若者が政治や社会について関心を持ち、自由に語り合い、参加していく空気を作れるか。そのためにミュージシャンである自分が音楽でできることは何か、ずっと模索している。
◆島のミュージシャンは何を歌う?
今回、知事選に向けたアクションとして、基地・環境・戦争・平和・アイデンティティなどをキーワードに、青い海青い空だけではない沖縄の歌をまとめたサイト【沖縄メッセージソングまとめ】を11月5日に公開した。
民謡やフォーク世代には沖縄戦や基地問題を歌った歌がたくさんあり、ある程度一般的認知もされているが、実はヒップホップ、レゲエ、ロック、ポップスなどのローカルインディーズシーンにも社会問題を歌った曲は多く存在する。まずそこにスポットを当てたくて、90年代以降に発表された作品に絞ってまとめてみた。
その結果11月12日の時点で約50アーティスト70曲以上を紹介することができた。こんな曲があるよという情報提供も届いており、おそらく今後100曲程度まで増えるのではないかと思われる。良くも悪くも、「一地方」の音楽シーンでこれほど多くの若いアーティストが地元の社会問題を歌っている地域はそうそうないのではないか。同世代の沖縄のミュージシャン達が島の問題についてどのように感じ、迷い、怒り、憂い、歌ってきたかに触れることで、一人一人が沖縄の問題を自分自身のこととして考え、投票に行ってほしい。あくまで特定の候補者や政党や団体を支持するものではないと明記した上で、このまとめサイトを出発点に、複雑に見える沖縄の社会問題を整理してみたい。
◆「沖縄問題」とは一体何なのか
一口に社会問題と言っても色々な切り口があると思うが、今回は「基地・環境・戦争・平和・アイデンティティ」という5つのカテゴリーに大別してみた。どの要素をどういうクローズアップするかで表現は変わってくるが、これらは全て「沖縄問題」というひとつの大きな問題の一側面であり、すべてはつながっている。
複雑に絡み合う「沖縄問題」とは一体何なのか。ざっくり説明すると、時は約400年前の薩摩藩による琉球侵攻まで遡る。琉球王国という国家が日本という国家に植民地支配され、明治政府による琉球処分で国家を解体された。言語・文化・アイデンティティーを上書きされ、太平洋戦争では日本本土防衛の為の捨て石として戦場にされ、戦後はアメリカの統治下におかれた。1972年の日本復帰後も国内の米軍基地の74%が集中し、米軍による飲酒運転やひき逃げ、レイプ暴行、ジェット機やヘリ墜落、騒音などといった被害に常に悩まされ続けている。
そしてその「見返り」として毎年沖縄振興予算が降りそそぎ、公共事業や開発で山を切り開き、海を埋め立てて必要のない箱モノを作り続けていかないと島の経済が回らない——沖縄はいわゆる「シャブ中」状態にされている。その公共事業の利益は一旦沖縄を経由しているだけで大部分は本土の大手ゼネコンがかっさらっていき、結局沖縄は県民所得や失業率が日本最下位の経済状態に置かれ続けている。過去から現在につながるそのような「日本が沖縄に強要し続ける理不尽な構造的差別」を私たちは「沖縄問題」と呼ぶ。
◆「日本」とのバランスをとる為に
こうした歴史的背景を踏まえて見ると、沖縄県知事選というのは一地方の首長を決めるという意味にとどまらず、「沖縄」というアイデンティティーを代表して「日本」と交渉していく代表を選ぶ重要な選挙であることがわかる。沖縄の「県益」と日本の「国益」は必ずしも一致しないのだ。日本の中で多数決をしても、人口の1/100にしか満たない沖縄の意見は絶対に通らない。
「沖縄のマスコミは偏っている」そんな言葉をネットで目にした人も多いだろう。本当にそうなのか。「報道の中立」という言葉の「真ん中」とは一体どこにあるのか。シーソーが最初から圧倒的に傾いている以上、沖縄の政治家やメディアが、沖縄の利益や立場を代表して行動・情報発信するのは当然のことではないか。選挙の結果、沖縄の基地問題に対する態度が決まったとして、それでも日本の中では1/100の少数意見でしかなく、決定権もない。本来日米地位協定や安保条約の是非、国防や抑止力は国家全体で議論する問題のはずなのに、沖縄の声は圧倒的に無視されたまま、ここまできてしまった。
沖縄問題を一地方の問題として矮小化することなく、国民みんなが沖縄の声に耳を傾け、構造的差別から脱け出せる日を沖縄は望んでいる。