史上最多の21人が立候補している2016年夏の東京都知事選。でも、群雄割拠というムードは全く感じられません。その大きな原因は、テレビや新聞の選挙報道にあります。「主要3候補」という言葉を使って、鳥越俊太郎、増田寛也、小池百合子の3人(届け出順)にフォーカスした報道を展開しているからです。
他の18人の候補者は、まるで刺身のつまのように、都知事選のニュースの最後にちょっと名前を紹介されるだけ。マスメディアによって、「主要3候補」とその他の候補の間に太い線がクッキリと引かれてしまいました。
「主要3候補」の報道だけで十分なのか?
これが、17日間の選挙戦を通じて、有力な候補者が徐々に絞り込まれていったということであれば、まだうなずけます。しかし、ほとんどのマスメディアは7月14日の告示日から「まじめに報道すべきなのは3人だけだ」と決め込んで、「主要3候補」報道を続けてきました。
でも、21人も立候補しているのに、たったの3人。全体の「7分の1」の候補者しかまともに報じないというのは、いくらなんでも少なすぎませんか?
仮に、鳥越、増田、小池の3人に投票したいと考える人が選挙前から多かったとしても、その公約や実績をじっくり検討するために、比較対象として他の候補者の情報は有益なはずです。
また、選挙というのは、有権者が政治のことを真剣に考える良い機会です。各候補者の主張を見たり聞いたりすることで、いまの東京都にどんな課題があって、どんな対策があるのかを知り、都政への理解を深めるチャンスとなりえます。
ところが、マスメディアが報道する範囲を最初から「7分の1」に絞り込んでしまえば、そのような有権者と政治の接点を不当に狭めてしまうことになります。
このようなマスメディアの報道姿勢は、選挙に立候補する側から見ても問題です。
実際、「主要3候補」以外の候補者たちは「不公平だ」と異議を唱えています。特に、民放各局が「主要3候補」ばかりを取り上げているのは放送法違反だとして、立花孝志、マック赤坂、中川暢三、山口敏夫、上杉隆、七海ひろこの6候補が、放送倫理・番組向上機構(BPO)に審議を申し立てました。
実は、民放とNHKでは若干違いがあり、NHKは、山口敏夫、上杉隆、中川暢三の3候補の主張もあわせて報道しています。しかし「誰が首都のリーダーに?~密着・東京都知事選〜」と題した7月28日の「クローズアップ現代+」では、鳥越、増田、小池の3候補の政策や選挙運動の様子が圧倒的に長く放送されました。民放ほどではないとしても、「主要3候補」が優遇されている点は変わらないのです。
テレビ・新聞はもっと「ネット報道」に注力を
たしかに、テレビや新聞には放送時間や紙面の枠という物理的制約があるため、21人の候補者を平等に扱うと、1人あたりの情報量が極端に少なくなってしまい、視聴者や読者に十分な情報を伝えられないという問題が生じる可能性があります。
テレビや新聞しかなかった時代は、「3人に絞り込んで報道するほうが有権者の利益に資するのだ」という言い分が通用したのかもしれません。
しかし、いまやテレビ局や新聞社はどこも、インターネットでニュースを報じています。そして、ネットには放送時間や紙面のような物理的制約はありません。その気になれば、いくらでも候補者の情報を掲載し選挙報道を展開できるわけです。
もちろん、テレビ局や新聞社も取材する記者の人数には限りがあるので、21人の候補者全員について詳しい報道をするのは難しいでしょう。とはいえ、詳しく報じる「主要候補」が3人だけというのは、あまりにも少なすぎます。
全体の「3分の1」を伝えてほしいという希望は、けして贅沢なものではない
有権者に十分な判断材料を与えるという意味で、せめて7、8人の候補者については、その政策や選挙運動の様子をネットで具体的に報じてほしいものです。全体の「3分の1」を伝えてほしいという希望は、けして贅沢なものではないはずです。
報道機関としてのテレビ局や新聞社に期待するのは、「ネットの選挙報道」の強化です。
選挙報道も「続きはウェブで」
たとえばテレビの報道番組は、すべての候補者について十分に報じることができなかったとき、ニュースの終わりに「各候補者の政策や動向のより詳しい情報は、ウェブでご覧ください」とアナウンスすることが考えられます。選挙報道も「続きはウェブで」にしてほしいのです。
マスメディアの代替としてのネットメディア
ただ、今回の都知事選は投開票日がもう目前に迫っています。テレビや新聞に報道の改善を要望しても、残念ながら間に合わないでしょう。その代わりとして役立ちそうなのが、ニコニコ動画の公式生放送による東京都知事選特集です。
ニコニコでは、12人もの候補者の街頭演説「第一声」が動画で見られるほか、増田、山口、小池、上杉、中川の5候補が登壇した「ネット討論会」の様子も録画されています。
圧巻なのは、7月28日夜に六本木のニコファーレで実施された「ネット演説会」です。登壇したのは、全候補者の8割にあたる17人。4時間以上にわたる長丁場の演説会ですが、各候補の人柄などを知るには好都合ではないかと思います。録画では、各候補の演説時間が示されているので、時間がない人は、気になる候補を選んで見ていくといいでしょう。
別に津田大介さんをヨイショするわけではないですが、このポリタスによる全候補者の「街頭演説第一声」や「政見放送」の全文書き起こしも、短時間で各候補の主張を知るのに役立ちます。
それから、全21候補の主張をざっと一覧したいときには、「選挙公報」が意外と有用です。選管のウェブサイトで見ることができるので、こちらをざっと見たあとで、自分が興味を持った候補者について、ポリタスの書き起こしを読んでみたり、ニコニコの演説動画を見てみたりするのが良いと思います。
きっとこの記事をご覧になったみなさんはすでに、「選挙報道はウェブで」と思ってらっしゃることでしょう。