日本のこころの動向に注目
今次参院選挙で個人的に注目しているのはいわゆる「右派系候補」の動向である。右派系、と一言で言っても様々な濃淡があるが、筆者の定義する右派系候補は2014年衆院選挙で「自民党より右」を掲げた次世代の党(現「日本のこころを大切にする党」)や、それに類似する候補のことである。各候補が一体どのような当落をたどるかで、日本政治のこれからを見通せるのではないか。
周知の通り、次世代の党は2014年衆院選挙で壊滅的打撃をこうむった。具体的には比例代表での当選者ゼロ、小選挙区で地盤のあった平沼赳夫氏(岡山)と園田博之氏(熊本)の2名にとどまった。現有19議席からわずか2議席に激減した次世代の党は、この選挙で最も大きく議席を減らした唯一の政党である。
次世代の党の不協和音はこの選挙の惨敗直後から始まる。2015年1月に入ると、はやくもアントニオ猪木氏が離党、「日本を元気にする会」に入党した。園田と平沼は2015年9月に自民党に復党して揃って離党。次世代の党は衆議院での議席を喪失した。
代わって党首になったのは中山恭子氏であり、同年12月、来るべき参院選を踏まえて党名を「日本のこころを大切にする党(以下日本のこころ)」に変更した。よって今次の参院選、旧次世代の党、現日本のこころは、中山体制で党勢の挽回に腐心することとなる。
日本のこころは今般の参院選に比例代表で5名、選挙区に10名を擁立している。注目したいのは比例代表で立候補している西村慎吾氏である。西村氏は2013年に「(日本や大阪には)韓国人売春婦がうようよいる」などと発言したことを問題視され、同5月に当時の日本維新の会から除名された。
代わって自らが代表となって「太陽の党」を復活させる(2012年11月に「たちあがれ日本」から改称後すぐに「日本維新の会」に合流したが、休眠状態で存在した)。2014年9月、ここに元航空幕僚長の田母神俊雄(現在は被告)も加わり、西村―田母神ラインが結成される。が、2014年11月の電撃的な衆議院解散と総選挙に合わせて、太陽の党は実質的に解党し、この両名は当時の次世代の党から出馬することになった。結果はすでに示した通り、西村―田母神両名を含む多くの候補者が落選した。
Photo by Asanagi
この時に太陽の党から旧次世代の党に合流した西村慎吾氏が、今次の参院選挙で比例区候補として出馬している。西村―田母神ラインの片翼のみが出馬しているのは奇観と言えるが、この間、大きな動きとして2016年4月14日、2014年の東京都知事選に絡む公職選挙法違反の疑いで田母神被告が逮捕され、同5月に起訴されるといういわゆる「田母神事件」が起こる(現在公判中)。
「田母神事件」の余波は、今次参院選における日本のこころの党勢立て直しにも、絶妙な影を落としている
田母神被告は2014年東京都知事選挙落選の直後から今次参院選挙への出馬意欲を公言しており、もし「田母神事件」が起こらなかったとしたら、西村氏と併せて日本のこころの公認候補として立候補していた公算が大きい。となると、「田母神」と書いて得られたはずの票、数千~数万を失ったことになる。「田母神事件」の余波は、今次参院選における日本のこころの党勢立て直しにも、絶妙な影を落としているのである。
「旧次世代の党落選組」のいま
一方、2014年総選挙における「旧次世代の党落選組」は今次参院選でも明暗を分けている。当時落選した人々はいま何をしているのか。
三宅博氏は落選後、おおさか維新に事実上復党し、今次参院選ではおおさか維新の比例代表候補として立候補している。一方、同じく落選した杉田水脈氏は、その後も著作の出版や講演会、右派系集会への参加・動画番組への出演など、在野の右派系人士として活躍している。元横浜市長の中田宏氏は落選後、2015年2月に同党を離党、相前後して下野して「日本の構造研究所」を設立する。同様に「中田宏チャンネル-今日も言っちゃいます-」なる動画IDを取得し、事実上ユーチューバーとして時事問題を語る動画をほぼ毎日投稿しているほか、テレビ出演、記事執筆などもこなしているマルチな活躍ぶりが目立つ。同じく落選した西田譲氏も同党を離党して千葉県佐倉市長選挙に挑戦したが敗北した。同様に、藤井孝男氏、田沼隆志氏などはこぞって現在まで、同党を離党し自民党に復党した。
このように、「旧次世代の党落選組」の現在は、在野で活動するか、自民党などに復党するか、あるいは独自に地方議会に挑戦するなど、様々な明暗がある。ちなみに元神奈川県知事の松沢成文氏は、参議院議員の身分で「旧次世代の党」に参加したので、2014年総選挙の落選組ではないが、2015年8月に「路線の違い」を理由に同党を離党。現在は無所属の参議院議員現職(2019年改選)だ。
さて、こうした中、特に興味深いのは「旧次世代の党落選組」の中でも今次参院選挙に自民党に鞍替えして立候補した元杉並区長の山田宏氏である。山田氏は「河野談話破棄」などを掲げる旧次世代の党きっての右派候補であったが、杉並区政の堅実な実績などを買われ、自民党が公認した格好である。
その山田氏は、2016年春に入ってにわかに注目されたいわゆる「保育園落ちた日本死ね」ブログに対し、「『保育園落ちた日本死ね』というような、まぁ、落書きですね。こういうものを振りかざして国会で質問しているようでは、私は野党はだめだと思う。この言葉自体も、私にしてみれば『生んだのはあなたでしょう』と、『親の責任でしょ、まずは』と言いたいところだ」(2016年3月31日、産経新聞)と自民党東京都連の会合で発言したが、同年4月に『週刊文春』で「隠し子」の存在を暴露される格好となり、その発言の整合性に疑問符が付くことが大きく報道された。
この山田氏の今次全国比例での当落も極めて注目されるところである。
右派系新人候補の挑戦
参院比例代表は、衆院と違って地方ブロックに分かれていないため、全国的知名度が勝敗を決する側面もある。そういった意味では、脆弱な党基盤しか持たない旧次世代の党、現日本のこころはのっけから厳しい戦いを強いられることは想像に難くない。特に、新人候補者の戦いは多難である。日本のこころは比例代表に新人で沖縄出身のボギーてどこん氏を擁立してるなどしている。
Photo by 熊本博之
ボギー氏は、沖縄県の普天間基地辺野古移設に賛成し、沖縄の反基地運動の参加者を「日当で動員されたプロ市民」(2015年12月1日、日本文化チャンネル桜)などの主旨の発言をして憚らない右派系人士であり、恵龍之介氏、我那覇眞子氏らと同様に「沖縄保守(沖縄出身)」の代表の一人として認知されている。
ボギー氏は、独立系放送局「日本文化チャンネル桜沖縄支局」のパーソナリティーを務めることでも知られ、一部のネット右翼(ネット保守)界隈からは熱烈な支持を受けるが、全国比例でどこまで得票を得られるのか、また地元沖縄からどの程度の票が出力されるかも、耳目の集まるところであろう。
東京都知事選には、すでに元在特会(在日特権を許さない市民の会)会長の桜井誠氏も名乗りを上げている。参院選と併せて、これらの右派系候補者がどれだけ、票を伸ばせるか。
都知事選では衆議院議員の小池百合子氏が名乗りを上げ、元岩手県知事の増田寛也氏の出馬も取りざたされ、「保保分裂」の様相を呈している。一方で、前述の桜井氏と参院東京選挙区に立候補した右派系市民団体「維新政党新風」の鈴木信行氏は、参院で鈴木、都知事選で桜井という「右右継続」とも観測でき、「エクストリーム・ライト」票をどの集めるのか(あるいは重複するのか)も見ものである。
日本政治の「右傾化」が叫ばれて久しい昨今であるが、ある種の政治状況のリトマス試験紙として、筆者はこれらの候補の動静を注意深く見守っている。