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  • 論点
  • Illustration by Edward Duncan

戦争を防ぐために必要な条件とは

  • 高橋洋一 (嘉悦大学教授)
  • 2015年9月11日

私たちは戦争について何を知っているのだろうか。私の親の世代は戦争体験があるが、私は話でしか知らない。誰から聞いても悲惨なものであるのは間違いない。ただし、その知識もせいぜい親の半径1メートルの世界であるので、世界の全体像はまったくわからない。

そこで、歴史の出番だ。いろいろな個別の話では興味が惹かれるが、それでも世界の全体の戦争の話はカバーできていない。長い間そう思っていたが、1998年から2001年まで米プリンストン大学に留学中、素晴らしいデータベースに出会った。そのデータベースには1816年からの世界中の戦争が収録されていた。

それらを整理すれば、1823年からの世界で起こった95の国家間戦争について、のべ337ヵ国が参加したことがわかる。それらの国の中で、最後の戦争から現在まで最も長く平和の期間を過ごしているのが、デンマークである。プロイセン王国とのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン戦争が1864年に終戦になってから、今日まで151年間も、平和を維持している。

アジアの国で、最も長く平和を享受しているのが日本である。第2次世界大戦が1945年に終戦を迎えてから、今日まで70年間も平和である。


Photo by ZengameCC BY 2.0

日本人として、この平和記録をもっと更新したいと思う。そのためには、何をすればいいのか。

ある人は、日本の平和憲法を世界に広めるべきという。私も留学中にそう思ったが、意外にも日本のような不戦憲法は世界の国では珍しくない。何より、国際政治のリアリズムからいえば、一国の憲法だけで世界平和が訪れるほど、甘くはないことをいやというほど聞かされた。

実は、この戦争のデータベースの分析から、答えは既にでている。もし独立国として生きるのであれば、一定の防衛力を備えた上で、

(1)同盟関係の強固
(2)民主化
(3)経済依存度向上
(4)国際機関加入

これらの条件を満たすことで、戦争リスクが減少することが定量的にわかっている。ちなみに、(2)~(4)は、哲学カントにちなみに「カントの三角形」として知られている。

防衛力と(1)同盟関係の強固は、自国でできることだが、(2)民主化、(3)経済依存度向上、(4)国際機関加入は周辺国がどうなるかという相手任せのところもある。

しかし、日本はなぜ戦後70年間も平和でいられたのか。条件を日本に当てはめて考えてみると

(1)日米安保条約
(2)一貫して民主国家
(3)経済主義で貿易立国
(4)国際機関への強い関与

このように、まるで絵に描いたように平和理論を実践したからであることがわかる。

もっとも、これらの条件を備えた日本だけが「アジアの例外」であり、アジアのほかの国では、(2)の民主化が実現されていない国も多く、平和基盤は脆弱である。

今話題になっている安保関連法案は、(1)同盟関係の強固を通じて、日本の戦争リスクを減少させる。また、アジアは成長途上なので、(3)経済依存度向上、(4)国際機関加入では、日本も十分にアジア諸国に貢献できる余地は大きい。

そして、アジアの民主化にも日本が貢献して、(2)民主化によって、アジアの平和を達成できれば、自ずと日本の平和の期間70年は記録更新されていくはずだ。


Photo by Pasu Au YeungCC BY 2.0

著者プロフィール

高橋洋一
たかはし・よういち

嘉悦大学教授

1955年、東京都に生まれる。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官などを歴任し、郵政民営化、政策金融改革を企画立案。その後、2006年から内閣参事官(官邸・総理補佐官補)。2008年退官。金融庁顧問等を経て、現在、嘉悦大学教授、(株)政策工房会長。著書に「さらば財務省!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)など。

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