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  • 論点
  • Photo by VIVADANÇA Festival Internacional(CC BY 2.0)

ヒップホップと教育で生まれ変わる日本社会

  • Kダブシャイン (ヒップホップMC)
  • 2015年8月13日

いまの日本では真実に基づく議論ができない。本音より建前が優遇され、それが一つずつ既成事実として重なっていく。都合の悪いことは見て見ぬ振りをする。これはなぜなら、占領によって日本の歴史が分断されたからだと思う。敗戦後、戦勝国から与えられた価値観により、本当の自分たちがどうだったのかを誤魔化し続けてきた。

GHQは占領下の日本に恐怖を植えつけ、過去を歪め、民族の誇りと文化を奪い、宗主国に尽くすよう仕向けた。アメリカに行ったとき、この事実と過去に奴隷だったアフリカ系アメリカ人との共通点を見つけ、彼ら黒人たちが自分たちの自信を取り戻した影響力を持つヒップホップが、日本でも必ず有効だと信じて、自分は今までやってきている。

ラップで世の中が変わるのを目撃した。過去の真実を知ることで、本来の自分を取り戻すことが、この日本でも可能だと思った。その上、格差が広がり、恵まれない子どもが増える将来、若者たちに希望を見せることもできる――。自分の立場を明確にし、相手の事情も理解して、社会を構築することがヒップホップ的コミュニケーションなのだ。


Photo by Cássio AbreuCC BY 2.0

70年代、荒れ果てたニューヨークの隅っこで若者たちが始めたこのカルチャーが、長年続いたギャングの抗争を終わらせ、仕事を増やし、いい音楽を生み、地域は前より平和になった。そして、これが今や世界のメインストリームで、全米から日本、アジアやアフリカ、中東にまで広がった。たとえ国同士がもめていてもラッパー同士は仲良くやれるのも証明済みだ。


Photo by AlexCC BY 2.0

ヒップホップがそうであるように、やはり「知る」ということが、自分を助けることになる。強大な経済大国になった現在、日本は新たな目標を立てるべきなのだ。

そこで、私、Kダブシャインは「教育大国」という形を提案したい。まさに兵器産業で儲け、軍事大国に向かっているかのような今こそ、別のオプションを用意しなくては安心して眠れない。


Photo by twitter.com/mattwi1s0nCC BY 2.0

教育大国になるためにはまず教育革命が必要なのだが、それは全体的に風通しのいい学校環境にするべきだと考える。実力のある子は飛び級もでき、6年生ぐらいから選択履修制を取り入れ始めれば、学級制度ではなく、カウンセラーと相談して、学問に自分で責任を持つ訓練にもなる。クラスに縛られず、交友関係も広く持てるので、いじめも軽減する。

レベルに合わせて、自分で自分の進路や方向性をデザインできるほうが、主体というものが成長するし、能力を若くして発揮できる。高校受験も望む人以外は廃止するべきだ。ちょうど成長期で、思春期で、怖ろしいスピードで心身ともに変わり、自らの変化すら理解できない時期に、半ば将来が決定するようなストレスを10代前半の子にかける必要はない。


Photo by Juliana CoutinhoCC BY 2.0

大学も編入、転校を自由にし、入りやすく出にくい、しっかり勉強しないと卒業のできない、社会に専門家を送り出すカリキュラムに変えたい。海外からの学生を大幅に受け入れ、交流をさかんにすることで、将来的に親日派を世界中に広げられる。日本で高レベルの教育を学び、それぞれが国に帰って重要な貢献をするのが理想だ。

もちろん国で海外留学の奨学金も増やし、日本の大学生の外国で学ぶ機会を多くしたい。いくら海外離れしてる最近の若者でも、徴兵制よりよっぽどマシだと感じるのではないか。数年、外国で日本人として生活し、異文化を体験することで、今までとは角度の違う視点を持て、自分を見つめる機会になるので、価値観や人生観を育む役に立つはずだ。

日本の自然資源は乏しいが、われわれには「自分たち」という優れた資源がある。日本で外国人とともに学習や研究を重ね、技術だけではなく、世界的な視野も身につけ、より社会を洗練させる原動力になることが、日本の美しい発展ではないか。最近のノーベル賞の受賞者にもやたらと日本人が多いというのが、この資質があることを暗示していると思う。


Photo by Solis InvictiCC BY 2.0

日本が世界最高レベルの教育を提供できる国になり、学問の場でも失われた歴史を修復するべきだ。過去を検証、総括し、真実を抽出して正確な認識を持ち、開かれた言論空間を担保できなければ、すべてが砂上の楼閣になってしまう。真実を率直に受け止め、現実的に議論しないことには何も積み重ならない。新しい教育で社会が変わることを強く望む。


Photo by Alan LevineCC BY 2.0

著者プロフィール

Kダブシャイン
けー・だぶ・しゃいん

ヒップホップMC

1968年生まれ。東京都渋谷区出身。KGDR(ex.キングギドラ)のリーダー。日本語の歌詞と韻(ライム)にこだわったラップスタイルが特徴。現在の日本語ラップにおける韻の踏み方の確立に大きく貢献したMCと呼ばれている。その作品は日本及び日本人としての誇りを訴えかける歌が多く、日本人MCとしては数少ない社会的なトピック(児童虐待/シングルマザー/麻薬/国家/AIDSなど)を扱うMCとして知られ、その洗練された文学的な韻表現と社会的な詩の世界は様々なメディアで高い評価を得ている。コメンテイターとしてもメディアに登場し、RHYMESTER宇多丸氏との『第三会議室』(スペースシャワーTV)は根強い人気を誇っている。また、音楽、政治、社会問題のテーマについて毎月コラムも執筆中。

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