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  • 論点
  • Photo by Yuya Tamai (CC BY 2.0)

選挙で白黒をつけること自体、現代の状況にそぐわない

  • 浜辺陽一郎 (青山学院大学教授・弁護士)
  • 2017年10月17日

自民党が過半数を大幅に上回るという予想が現実化するならば、「勝ちは勝ち」「負けは負け」という単純な話にされてしまい、当面の諸問題が整理されてしまいそうだ。もはや『安倍信認選挙』となった状況で、信認することが何を意味するかの確認をしてみたい。

第一 森・加計の禊

まず、「加計・森友の禊は済んだ」ということになる。その責任追及をしていた野党は支持されなかったとの「民意」は、この問題をもう追及する必要なしと「解釈」され、これまで行われてきたことを問題とすることが難しくなるだろう。

民間企業ではコンプライアンスや利益相反問題への取り組みが進んできたのに、政権周辺は除外されているようで、悪い見本を見せつけられた。しかし、それらもすべて不問となるのだ。


Photo by Chairman of the Joint Chiefs of Staff (CC BY 2.0)

同時に、最高裁判事の国民審査でも、加計学園監事だった木澤沢克之氏の「異例の抜擢人事」についてお墨付きが与えられることになろう。最高裁判事までお友達人事に染まっていることについて、「違法でなく、何も問題もなく、承認した」との国民の総意が表れたものだと解釈されよう。その他、様々な疑惑は、すべて雲散霧消したものとして幕引きだ。

第二 北朝鮮

また、北朝鮮の脅威に対しては、「対話よりも圧力」という方針が国民的支持を得たということになる点で、日本への攻撃の口実を与えかねないか懸念される。しかし、北の武力行使はないという「読み」から、日本に着弾などあるわけがないとか、「戦争になれば日本が勝つに決まっている」といった類の楽観的な考え方なども重なって、対外的にも「圧力」路線を是とする国民世論が認識されるのだろう。


Photo by Michael Day (CC BY 2.0)

第三 憲法

憲法問題については、野党の主張も様々なので、結局、どちらに転んでも、いずれ何らかの改憲論議をすること自体に国民の異論はなさそうだ。そもそも、この選挙で国民が意思表示できるような形で改憲論議は具体的な話に煮詰まっているとは言いにくく、この論点が選挙行動を左右するものにはなりにくい。


Photo by Ryo FUKAsawa (CC BY 2.0)

第四 消費税

消費税引き上げの是非については、国民にとっても目先の懐具合に影響を及ぼす事項なので、その意向についてのアンケート調査程度の意味くらいしかない。これに対して、その使い道については、必要なお金を、国の財布のどこから出すかは、テクニカルな問題にすぎず、国民に問うような論点ではなかろう。結局、与野党において、税制をどうするのか、公平な税負担のためにどういう具体策を推進するかの本質的な議論が明らかになっておらず、やや枝葉末節的な議論に陥っているように見える。


Photo by Ryo FUKAsawa (CC BY 2.0)

第五 高等教育無償化

同じく、高等教育の無償化も、基本的には与野党の争点とはなりにくいものだ。もっとも、細かい部分には多くの争点がある。特に大学教育の無償化は、大学教員が目の当たりにする大学の現実に照らせば、無条件で賛成とはいえない。

確かに苦学生も多いし、まじめに勉強をしている学生も多いが、他方、大学に来ている基本的な意味が理解できない学生や、カンニング等で楽をして単位を掠め取ろうとする学生も、決して少なくはない。「単位さえ取れれば良い」という学生は、将来どうなるのだろうか。意外と社会で成功するかもしれない。「選挙に通れば良い」という政治家とダブって見える。本当は、そうであってはならないはずなのだが。


Photo by Jen. Y (CC BY 2.0)

第六 経済政策

アベノミクスをどう評価すべきかは、難しい問題だが、コーポレートガバナンスコードなど、旧民主党時代と比べれば、自公政権の方が期待できる。結局、経済政策で野党がめぼしいものを打ち出せていない点で、全体のパッケージとしてみた場合に、野党の劣勢がさらに浮き彫りとなり、野党には日ごろの不勉強が祟っているという感じだ。


Photo by MIKI Yoshihito (CC BY 2.0)

チャレンジャーの自滅

国民にとって、今回の選挙が難しいのは、「安倍政権を信認しない」という投票行動が難しい点にある。

国民にとって、今回の選挙が難しいのは、「安倍政権を信認しない」という投票行動が難しい点にある

安倍政権にチャレンジするはずだった野党の一部議員(といっても、かなりの数)の無節操さ、定見のなさが露呈し、野党の分裂状態を加速させる悲劇が加わった。結果として、どんなに安倍政権がいやでも、それに代わる者がもっと悪ければ、相対評価で、まだ安倍政権の方がマシだと有権者が考えて自公政権を勝たせるのも無理からぬところである

現在の国会議員の仕事をみるにつけ、なかなか普通の感覚で政治家になるのは難しい状況だ。そのため、何らかの「やや偏った思想」の人たちがどうしても多くなり、国民と政治の間に大きなギャップができてしまうのは必然のようだ。

どうも、こうした選挙で白黒をつけさせること自体が現代の状況にそぐわなくなってきている

どうも、こうした選挙で白黒をつけさせること自体が現代の状況にそぐわなくなってきている。いくら人物を見よ、人柄を判断しようといっても、なかなか外から見ているだけではわからない。その人間性がわからない人々がいきなり出てきて「選べ」と言われても、選べるわけがない。せめて、米国の大統領選挙とまでは言わないが、もう少し長い時間をかけて選挙期間を取ってくれる等の工夫もあってよいのではないか。

こういう現在の政治の仕組みを抜本的に改めない限り、その場しのぎで、運が良ければすべて良しという、行き当たりばったりの政治が続くしかなさそうだ。

著者プロフィール

浜辺陽一郎
はまべ・よういちろう

青山学院大学教授・弁護士

青山学院大学大学院法務研究科教授。1987年弁護士登録。1995年ニューヨーク州弁護士登録。都内の渉外法律事務所等を経て現職。現在、弁護士法人早稲田大学リーガル・クリニックにおいて弁護士として活動し、多数の企業法務等に携わる。主な著書に・「図解でわかる新民法(債権法)」(清文社)、「執行役員制度−運用のための理論と実務(第五版)」(東洋経済新報社)、「図解 コンプライアンス経営(第4版)」『執行役員制度(第5版)』「経営力アップのための企業法務入門』(東洋経済新報社)、『個人情報・営業秘密・公益通報 Q& A』(労働法実務相談シリーズ㉂、労務行政)などがある。

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