ポリタス

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  • Photo by 岩本室佳

「それでも選ぶ」必要はなかった

  • 佐々木敦 (批評家)
  • 2017年10月16日

10月15日、期日前投票に行ってきた。

たぶん誰もそう思ってはいないだろうが、私は自己認識としてはリベラル、というよりも端的に左翼、というか改革主義者、いや革命主義者なので、かつて長らく種々の選挙においては「現在の体制を変え(られ)ること」を最重要の判断基準として自らの一票を投じてきた。


Photo by 岩本室佳

「今」とは違った状況が訪れること、変化変革それ自体が、まずは望ましいことだと、かつての私はなかば無条件で考えており(と言うとすぐさま「じゃあ悪い方向に変わってもいいのか」というツッコミが入りそうだが、そもそも何を「悪い」とするのかは相対的であり、そしてそれらは常に現実的な条件の内にある。何なんでもいいから変わればいいと私は言ってるわけではない。私の認識の範疇で「良く変わる」方がいいに決まっている)、すなわちたとえ「現在の体制」に不満がなくても与党には入れない、ということになるのだが、与党に不満がなかったことなど過去に一度もないのでこの仮定には意味がないのだった。「変える」と「変えられる」が入り混じっているのがポイントで、頑張れば今にも「変えられる」と思えた時と、たとえ死に票になってもいいからそれでもいつか「変える」可能性に与する場合と、その都度の情勢によって投票先は変わることもあった。


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ところで、この数年で、変えること、変わること、の内実は大きく変わってしまった。そもそも日本人は「変わらないこと」を望み歓び尊ぶ傾向が強いとは思うが(そして私は何よりもそれに抵抗したいと思っているのだが)、それとは別に、変えるように見えて、変わるように思えて、その実まったく変わらない。というか、むしろ変えないために、変わらないためにこそ、変えるよ変わるよ、と嘯くひとびとが続々と現れてくるようになったのだ。変えないために変える、変わらないために変わる、とぶち上げる逆説的な詐術が、至るところで罷り通っている。だから今では「現状を打破する」とか「現政権を終わらせる」という勇ましい言動にこそ警戒しなくてはならない。


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このたびの選挙でも、私のスタンスは基本的には変わらない。私は自民党にも公明党にも入れない(というか私はこの二党に票を入れたことはこれまで一度もない)。私の、理屈抜きの信条と言ってもいい「方針」を抜きにしても、今やますます現体制に続いてもらうわけにはいかない。いやアベノミクスは成功してないまでも他の経済政策よりマシなのだ、とか言われるかもしれないが、たとえそうでも他のマイナス面が多過ぎる。経済立て直しのために犠牲にしなくてはならないことが多過ぎるだろう。


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そして、ひとつ前の段落で言ったことだが、希望の党に希望を賭けることも私的にはナンセンスだと思う。実際のところ今度の選挙でおそらく「安倍政権は終わる」だろうが、むろん真の問題は、それでも本質的には何も変わらなかったり、より悪くなったりする可能性の方である。希望の党の場合は、自民党と同じように、その頂点に位置する者への毀誉褒貶がやたらと取り沙汰されているわけだが、問題はむしろ党首以外の構成員たちの品性と、組織としてのあり方だと思っている。


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ポリタスからの問いは「衆院選2017――それでも選ぶとしたら」なのだが、というわけで私としては「それでも」感は特に全然ない。むしろ今回は近年にも増して悩む必要がなかった。ほとんど「選ぶ」ことさえしなかったと言ってもいい。最初にも言ったように、とにかく私は「現在の体制を変え(られ)ること」を力点に考えている。とすれば、ここでわざわざ明記する必要がないほどに、今や答えははっきりしていると思う。私は今回も、いや今回はますますもって、いつかこの国と社会のあり方を大きく、そして望ましく変える可能性が高い方に賭けた。


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著者プロフィール

佐々木敦
ささき・あつし

批評家

批評家。著書多数。近刊として『筒井康隆入門』(星海社新書)と『新しい小説のために』(講談社より10月下旬刊行)がある。

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