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【総選挙2014】官僚主導でも政治主導でもない、民間が実行する政治を〜復興政策と衆院選〜

  • 藤沢烈 (一般社団法人 RCF復興支援チーム 代表理事)
  • 2014年12月14日


Photo by Yuichi ShiraishiCC BY 2.0

私は、復興支援団体の代表です。被災住民、支援企業、NPO、行政による復興業務を企画調整する復興コーディネーターという仕事をしています。

復興の視点から、各政党の復興政策をながめました。与党・野党を問わず、書かれている内容は現場で求められている課題ばかりです。しかし、こうした政策を推進するだけでは復興は実現しないと考えています。

その理由は何か。私たちが政治を選ぶ基準とは何か。復興現場からの声をあげたいと思います。

復興政策の優先順位が下がった方が、復興が進む理由

各党の復興政策は、「行政が何に取り組むか」という視点で作られています。住宅再建支援、避難支援、産業復興のいずれにおいても。

行政が税金をどこに投じるかを監視する役目として、政治家を選ぶのが選挙の目的

行政が税金をどこに投じるかを監視する役目として、政治家を選ぶのが選挙の目的です。公約に行政が何をするかが書かれているのは当然ですが、復興を進める観点では問題があります。

新潟県を震度7の大地震が襲った中越地震から、今年で10年目でした。人口減少地域における復興の事例として、東北は中越を常にウォッチしています。震災後、中越では人口減少と高齢化は進みましたが、望ましい復興はできたとされます(『復興「おおむね望ましく」』<新潟日報、2014年10月15日>)。

過去の震災復興を通じて分かったのは、「被災者が復興に参画することで、復興感が増す」ことでした(『生活復興感が低い被災者はどのようなタイプか?』<復興の教科書>)。被災者が復興に関われる環境を提供できたからこそ、中越の被災者は復興感をもつことができ、人の出入りが絶えない持続的で活発な地域が実現できています。

東北では、政府が復興に強く関与したことで大きな予算がついた一方で、被災住民が復興に関わりづらい構図ができています。被災自治体が決められる幅が少ないために、被災当事者のニーズに対応した事業が作りがたいのです。

重要なのは、東北沿岸の老若男女が復興に関われる環境を整備すること

2013年の参院選に比べて、今回の選挙では復興政策の優先順位が下がっています。メディアは批判していますが、実は私はそれでかまわない、と考えます。国が復興政策をトップダウンで考えていては、被災当事者が復興に参画する機会をさらに奪うことになるためです。重要なのは、東北沿岸の老若男女が復興に関われる環境を整備することです。

官僚主導でも政治主導でもなく、「民間による実行」へ

では、政治に何を期待すればよいのでしょうか。

地域資源を活かして付加価値の高い小さなビジネスをつくり、補助金に頼らない産業を成り立たせること。弱まった地域社会の代わりに、よそ者も含めて新しいコミュニティをつくること

民主党政権では「政治主導」との言葉で、官僚ではなく政治家による意思決定を進めました。私は、ここに大きなミスがあったと考えています。復興の現場からすれば、何をすべきかは明確です。地域資源を活かして付加価値の高い小さなビジネスをつくり、補助金に頼らない産業を成り立たせること。弱まった地域社会の代わりに、よそ者も含めて新しいコミュニティをつくること。過去の震災を調べてみても、今後5年10年で取り組むべきことは、見えています。

意思決定よりも、行動が重要です。しかし復興事業を行政が進めることがまだまだ多いため、被災当事者が復興に関わることはできておらず、仮に行政が適切に事業を進めることができたとしても、復興感が高まらない状態が続きます。いかに民間が行動しやすい環境を用意できるかが、少なくとも復興においては最大の論点なのです。

政治家を選ぶ基準は、実行を見据えているか。そのために真に民間を巻き込もうとしているかにあります。その観点では、どの政党の復興公約も十分とは言えません

「支援」してはならない

民間を巻き込む政治・復興を進めるうえで、二つポイントをあげます。

一つは、支援しないこと、です。民間の動きに補助金をつけると、固定費があがり、支援金が途切れた瞬間に事業が止まります。何より、現場ではなく資金提供者の方を向いた仕事の進め方になります。規制緩和を通じて、健全な競争環境をつくること。地域での社会ニーズを広くあまねく情報提供すること。間接的に環境を整えることで、民間の動きを活性化させることが必要です

いま一つは、ビジョンを共有すること、です。コミュニティの話で言えば、避難者に長く支援を続けるということがゴールではありません。避難者の移住先や帰還先で、不自由なく暮らせる環境を提供することがゴールとなります。水産業では、支援の継続ではなく、東京や海外でも売れるように水産業が成熟すること。観光では、京都や石川がそうしているように、海外からのインバウンド需要に応えることです。

まとめれば、

  1. 民間が動きやすい環境整備

  2. ビジョンの共有

こうした視点での取り組みを訴える政党・政治家を見極めていくことが、被災者が主体となって復興を実現するために必要になるのです。

Ask not what your country can do for you; ask what you can do for your country.
「国家が自分たちに何をするかではなく、あなたが国家に何ができるかを考えてほしい」

民間による実行が必要なのは、経済・教育・地方創生といった政策テーマでも同じはずです。ジョン・F・ケネディが大統領就任演説で語った、この言葉を念頭におきながら、衆院選の投票先を考え続けたいと思います。


Photo by Yuichi ShiraishiCC BY 2.0

著者プロフィール

藤沢烈
ふじさわ・れつ

一般社団法人 RCF復興支援チーム 代表理事

1975年京都府生まれ。一橋大学卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て独立。NPO・社会事業等に特化したコンサルティング会社を経営。東日本大震災後、RCF復興支援チームを設立し、情報分析や事業創造に取り組む。文部科学省教育復興支援員も兼務。共著に『ニッポンのジレンマ ぼくらの日本改造論』(朝日新聞出版)、『「統治」を創造する 新しい公共/オープンガバメント/リーク社会』(春秋社)。

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