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【総選挙2014】各党の公約に見る原子力政策

  • ポリタス編集部
  • 2014年12月6日

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本稿では、今回の衆議院選挙で各政党が発表したマニフェストにあるエネルギー政策のうち、各党ともほぼ同じ方向性を示している再生可能エネルギーの推進と電力システムの自由化に関する部分などを除いた、原子力政策に関する部分に絞って比較します。

まず、自民党は昨年の参議院選挙のマニフェストには見られなかった「再稼働を進めます」という表現を用い、積極的に原発の再稼働を進める方針を示しました。また、将来の原子力政策については、原発の依存度を「可能な限り低減」としながらも、原子力を「重要なベースロード電源との位置付けの下、活用」と、一定程度維持する方針を示しており、新増設にも含みを持たせています。

自民党と連立政権を組む公明党は、再稼働の推進については自民党と足並みをそろえていますが、将来の原子力政策については「新設を認めず、原発の40年運転制限制を厳格に適用」としているなど、将来的な脱原発の方針を明記している点などに自民党との違いが表れています。

民主党は、原発の再稼働について、自民党などと同じく「原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ、再稼働とする」という方針を示しています。その上で、現在各自治体が策定を行っている原子力災害時の避難計画について、「責任ある避難計画がなければ、原発を再稼働すべきではありません」として、「国の責任を明確にする」ことを条件に加えています。また、将来の原子力政策については「40年運転制限制を厳格に適用する」「原発の新設・増設は行わない」ことによって、「2030年代に原発稼働ゼロ」を目指すとしています。これらの方針は民主党政権時の2012年9月に野田佳彦内閣が決定した革新的エネルギー・環境戦略 の内容をほぼ踏襲したものです。ただ、当時の枝野幸男経済産業大臣は、建設中の電源開発の大間原発(青森県大間町)、中国電力の島根原発3号機(島根県松江市)、東京電力の東通原発1号機(青森県東通村)の三つの原発は新増設にあたらないという解釈を示しており、この解釈と「2030年代に原発稼働ゼロ」という方針が矛盾するのではないかという指摘 もありました。

維新の党は、原発の再稼働の条件として「核のゴミ」の最終処分の解決を挙げています。また、将来の原子力政策については「使用済燃料の総量規制」をルール化するとしており、この点には発生する使用済燃料の上限を設けることで原発の発電量を決定するという日本学術会議の提言が反映されていると考えられます。また、「既設原発は市場競争に敗れ、フェードアウトへ」としており、2016年に予定されている電力小売りの全面自由化後、既設の原発はコスト競争に敗れるという見方を示しています。しかし、同党の前身となる日本維新の会が昨年の参院選で示したマニフェストで明記していた「2030年代までにフェードアウト」のような、年限についての具体的な言及はありません。

次世代の党は、公約では再稼働についての言及がありません。将来の原子力政策については「電源構成の多様化による脱原発依存体制の構築」「世界最先端の原子力技術(次世代型原子炉、廃炉及び安全確保等)の維持」を、それぞれ進めていくとしています。平沼赳夫党首は今年12月1日に行われた党首討論会で、与党の原子力政策を支持すると表明しており、一定程度の原発の維持を目指しているものと考えられます。

共産党、社民党、生活の党、新党改革の各党は、再稼働そのものに反対で、かつ即時原発ゼロという立場を明確に示しています。

このように、各政党のマニフェストにおける原子力政策は大まかに、維持・推進、段階的脱原発、即原発ゼロ、という三つの立場に分かれます。連立与党内でも、自由民主党が原発を今後も維持する方針を示す一方で、公明党は将来的な脱原発を目指すなど、差が見られます。また、公明党のほか、民主党、維新の党も将来的な脱原発を目指す方針を示していますが、脱原発まで至るプロセスは三党それぞれ異なっています。

衆院選後の原子力政策の見通し

国内の原発の状況に目を向けると、関西電力は福井県高浜町に立地する高浜原発1、2号機について、40年の運転期間の延長を原子力規制委員会へ申請するために特別点検を実施する方針を示し、今年12月1日に特別点検に着手しています。この特別点検の実施による運転期間の延長は、民主党政権時に発足した規制委の方針に従うものですが、この方針と公明党、民主党がともに公約に掲げている「40年運転制限制を厳格に適用する」が整合するかどうかの明確な言及はありません。また、民主党政権で枝野経産大臣が新増設にあたらないとした大間原発については電源開発が稼働開始に向けた審査を年内にも規制委に申請する方針を示しています。

また、今年4月に政府は新たなエネルギー基本計画を決定しました。その中では原発を「安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付けていますが、エネルギーに占める原発の割合に関する具体的な記述は見られません。 しかし、来年12月には地球温暖化対策などについて話し合う国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の「第21回締約国会議(COP21)」が控えています。日本政府として具体的な温室効果ガスの削減量を示すためには、エネルギーの方針を明確にする必要があり、 宮沢洋一経済産業大臣は今年11月の記者会見で、来年夏までにはエネルギーミックス(電源構成)を決定するとしています。

さらに、経済産業省総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会は、今年11月に将来的な原子力政策のあり方に関する中間整理を示しましたが、委員からは新増設・リプレース(建て替え)についての文言を入れるべきという意見も出ています。

このように、今後のエネルギーについての方針は、早急に決定する必要に迫られている状況です。今回の総選挙、そして来年5月に行われる統一地方選の結果は、これらの原子力政策に大きく影響を与えると考えられます。

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ポリタス編集部
ぽりたすへんしゅうぶ

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