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【総選挙2014】安倍自民党に「お墨付き」を与えるわけにはいかない

  • 宮崎学 (作家)
  • 2014年12月13日


Photo by Toru WatanabeCC BY 2.0

2014年11月、急に吹いた解散風はうちわで煽いだから……というのは冗談にしても、国内はほとんど混乱せず、むしろ有権者の間ではあきらめムードが広がっている。メディアが連日「自民圧勝」「低投票率」などと早い段階から報じているのだから、やる気がなくなるのも当然である。

海外の主要メディアは早くからこの解散劇を分析しており、たとえば11月11日付けの米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、安倍が解散総選挙を行う理由として①消費増税「10%」に対する信任、②野党を選挙で忙しくさせて閣僚のスキャンダルを探す時間をなくさせる、③野党側が準備できないうちに選挙をして議席を維持する、の3点を挙げている。ほぼ国内の見方と同じであり、筆者も同感である。

すなわち安倍が強調する「解散総選挙でアベノミクスの信を問う」というのは、後づけの屁理屈に過ぎない。野党が対応できない状態で選挙を行い、「選挙をやった」=「安倍自民に対する全面的な信任を国民から得たのだから、もう何をやってもいいのだ」というアリバイづくりのためのものだ。

「戦争への道」はアホな正義で埋まっている

あきらめムードが先行し、選挙もまったく盛り上がっていないが、かといって国民は解散を受け入れたわけでもない。

解散時に行われた記者会見では、安倍は国民を納得させることができず、世論調査でも「解散に納得できない」という声が多かった

与党内からもブーイングが出ていると聞いている。特に15年春に統一地方選を控えている地方議員にとっては、「これから自分の選挙なのに手伝ってなんかいられない」というのが本音であろう。

問題は、自民党どころか安倍の周辺だけの都合で行われた解散に対する批判が、投票行動に結びつくかどうかだ。

消費増税、円安による物価高、非正規雇用の増加、放射能など環境の不安、社会保障制度の改悪など問題は山積で、国民は明日のことを考える余裕はない。投票をしてもムダだとあきらめている

これに対して、安倍自民党は低投票率を無視して、「国民の全幅の信頼を得た」とばかりに、暴走を加速させるだろう。キーワードは「戦争」だ

2014年7月に集団的自衛権の行使を容認する閣議決定がなされ、今後は欧米諸国とともに多国籍軍として戦争に加担することになる。武器の輸出入も増えるだろう。アメリカのように戦争による消費でしか国家が成り立たなくなる日も、そう遠くはない。

安倍自民党により、日本の経済格差はさらに拡大し、若者を戦地に送らなくてはならなくなる。

しかし、「今どきの日本の若者たち」がアルカイダと戦って勝てるだろうか? 

大勢の若者が戦死することで、日本は国の存在自体が危うくなる

私は、だいぶ前に『地獄への道はアホな正義で埋まっとる』という本を書いたのだが、現在の地獄とはすなわち戦争のことである。「国民の信頼」という強引でアホな正義のために、日本は死屍累々となる。

滅びへの道を進まないためには

ここで思い浮かぶのは、「右翼小児病」という言葉だ。

レーニンの造語「左翼小児病」とは、何事も観念的に考える妄信的な教条主義者を指すが、「右翼小児病」はアジア諸国に対して排外主義を掲げながら、アメリカには極端に追従する妄信的な極右のことだ。

こうした傾向は、日本の良心的な保守の思想である軽武装・経済重視とはまったく異なり、もはや保守とは言えない。大多数の日本人に幸福をもたらすことはない。

日本は、戦後アメリカの占領を受けながらも、奇跡的にアメリカと同じ戦争経済への道を進まずに済んできたが、これからは違う

今回の選挙で、日本が崩壊への道に歩を進める可能性は、残念ながら否定できない。

しかし、まだ時間はある。

それを阻止することも、また不可能ではないと思う。

「火事は最初の3分、選挙は最後の5分」と言われる

まだ時間はある——。


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著者プロフィール

宮崎学
みやざき・まなぶ

作家

1945年京都生まれ。2015年に古希を迎えるが、取材テーマは一貫して社会の周縁に関することと、権力の批判。近著は『現代ヤクザの意気地と修羅場現役任侠100人の本音』『異物排除社会ニッポン』(以上双葉社)、『突破者 外伝――私が生きた70年と戦後共同体』(祥伝社)など。

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