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【総選挙2014】「リベラル市場主義」をまとめる必要性に気づく選挙に

  • 渡邉正裕 (ニュースサイトMyNewsJapan編集長、ジャーナリスト)
  • 2014年12月13日

国政選挙のほとんどのアンケートで、国民は最大の争点を「景気や経済」だと答える。今回の総選挙は、一言でいうと、経済面でリベラル市場主義が結集するきっかけになってほしい。一目で分かるように、経済財政マップを作成しポジショニングした。右軸が「自由競争の度合」で、縦軸は「再配分の度合」である。

ポイントは、一枚岩なのは共産党公明党社民党くらいで、その他の政党は、個人レベルでずいぶん考えが異なるであろう、ということだ。つまり、再編が必要である。

普通のリベラル=リベラル市場主義

マップの右上は、ガンガン自由競争させて、勝者からガッポリ税金とって弱者に再配分するスタンス。僕はこの最も右上の考えを持っており、経営するニュースサイト『MyNewsJapan』もその立場で編集している。従って、維新の党旧みんなの党の政策には共感を覚えている。現状、江田さんと橋下さんはここだ。ヨーロッパでいう普通のリベラル、市場主義自由経済を理解したリベラルである。「リベラル市場主義」と呼ぼう。

普通のリベラル政府は、東電を救済しないで破綻させる

竹中平蔵氏がよく例にあげるように、北欧・スウェーデンは、自国の自動車メーカーのサーブが救済を求めた際に「弱い企業を助ければ、経済全体が弱くなる」と拒否した。これが普通のリベラルだ。普通のリベラル政府は、東電を救済しないで破綻させる。経済を強くし、経済成長させ、増えた税収を手厚い再配分にあてる(竹中氏は再配分には消極的なのでその点は異なる)。

日本の漁業や農業なども、ノルウェーオランダのように、工業化を進めて、大企業に参入させ、輸出産業化すればよい。日本はトヨタにせよ京セラにせよ、工場のノウハウがすばらしく蓄積されている。「一次産業二次産業化」である。これが、既得権の岩盤規制でできていない。リベラル市場主義者は、規制を撤廃し、競争を促進し、経済成長させて税収を上げ、敗者には再配分する

再配分にコストをかけてはいけない

規制が少ないということは、小さな政府ということである。再配分の金額が多いからといってお役所が大きい必要は全くない。役所組織はスリム化し、役人の裁量ではなく「自動的に」給付付き税額控除(負の所得税)などで、再配分をするのだ。再配分にコストをかけてはいけないので僕は紙のクーポン配布には反対である

このエリアに最も近い江田さんと橋下さんには、リベラル市場主義を貫き、頑張ってほしいと思っている。

リバタリアン

右下は、経済学者フリードマンが大好きな人たち。アメリカの共和党である。法人税を下げることを明言し、財務省のシナリオに抵抗し消費増税を延期した安倍さんは、ここである。ただし規制緩和には全く成功していないし本気にも見えないので、安倍さんは真性ではない。

現在、トヨタ自動車は円安で過去最高の2兆5千億円の営業利益を上げる見通しだが、そういった大企業が儲かって税収を納めても、それを弱者に再配分する姿勢は見せていない。そればかりか、法人税を減らして企業の利益をさらに増やしたいという。

これがアベノミクスの特徴で、したがって格差はどんどん拡大し、貧困者がどんどん増えている。

全体の雇用は100万人増えたが、非正規ばかり

安倍さんの2年間で、正社員が22万人も減った。これは致命的な問題だ。全体の雇用は100万人増えたが、非正規ばかりで、雇用の質が悪化した。

株が上がるのはよいことだが、投資家が儲かっても、貧困者には再配分されないため、格差が拡大した

安倍さんは本音では、「そんなの自己責任だろう」と思っているはずである。これは安倍さんの思想なのでどうしようもないし、違うと言うなら具体策を示さなければいけない。僕はそういう格差が拡大していく社会には反対である

財務省エリア

左下のエリアは、規制は守りたいし強化したい、再配分はなるべくしたくない――すなわち、財政再建を目指す財務省の役人エリアである。

次世代の党平沼党首「第3の矢」が足りないと述べているが、その中身は旧来型の官僚主導であり、規制緩和による自由競争ではない。マニフェストには「未来に向けた投資を国の基金200兆で日銀に設け…」と国家主義的な政策を打ち出している。

平沼氏をはじめ自民党の主要なメンツ(谷垣二階麻生伊吹)は、もともと昭和の時代に育ったので、自分で政策を考えたことがない。政策は官僚が考えて作るのが当然だと思っている。思想的なものも持っていない。野田さんも同じで、財務省の言うとおり消費税の増税法案を通した。

次世代には、ダブルヒロシ(中田宏山田宏)さんら新世代の改革派も含まれているが、これは外交面での右志向が合致していることに加え、関東での石原人気にあやかって成り行きで入ってしまったように見える。石原氏が今回、引退を決めたため、マップに従って、維新に合流すべきだろう。

国民は、外交よりも内政、なかでも経済を重視して投票するため、外交にこだわっていても民意はつかめない。

甘ったれリベラル

ここは、論外な人たちである。既得権層に再配分をたくさんしつつ、規制でも守り続けてあげて、自称弱者(競争しない農家や進化しない商店街、公共事業依存の土建屋…)にバラマキ続けましょう、という、甘ったれたちが支持している政党だ。だから僕は「甘ったれリベラル」と名付けている。

これは、人口が増え(人口ボーナスがあり)、経済が右肩上がりだった戦後の高度成長期に配分だけ考えていればよかった時代にしか成立しないモデルで、もはや無理だ。昭和時代の幻想である。

共産、社民、公明はこの急先鋒である。鳩山・菅・枝野の各氏が中心にいた民主党もここだ。民主党政権が何もできなかった理由も、この人たちが中心にいたからである。

この甘ったれリベラルたちに政権を任せると、あっという間に財政破綻に向かう。市場主義を理解していないため、経済成長せず、税収が増えないのに、支出だけは増えるからだ。実際、民主党政権時代は借金が増えただけだった。民主党の中心は、いまだにここにあって配分の仕方ばかり議論している。従って、民主党政権が今のカタチのまま政権に返り咲くことだけは阻止しなければならない。いったん解党して政党助成金を国庫に返し、党名も変えるべきだと思う。

7つのキーワード

民主党のなかでも、経済成長に理解を示す岡田さん前原さんが維新と合流し、次世代のダブル宏ら改革派勢力もとりこんで、普通のリベラル政党、リベラル市場主義を打ち出してまとまる――それしか、自民党への対立軸は作れないと思う。

リベラル市場主義の旗印でまとまるしかない

現在、最大勢力は「政党支持なし」で、64%もいる。今回の総選挙は、野党が大敗するとの予測がなされているが、このままでは永遠に負け続ける、リベラル市場主義の旗印でまとまるしかないのだ、ということが理解されるきっかけになってほしい。

キーワードは、以下7つだ(戦争と原発は経済を根底から破壊する要因なので、内政に含める)。僕は、サイレントマジョリティーをつかむクラスターは、ここにあるとみている。

「大企業の経営者株主ではない(非経団連)」
「大企業正社員ではない(非連合)」
「非共産主義」
「自由競争促進」
「再配分強化」
「戦争しない」
「原発いらない」

この7つの理念で、支持なし有権者の半分以上はまとまるだろう。つまり、自民党を抜いて、支持率30%超の第一党になれるはずである。誰がリーダーシップをとるかは大問題であるが、少なくとも有権者は、このマッピングを念頭において、投票行動をとっていただきたいと思っている。


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著者プロフィール

渡邉正裕
わたなべ・まさひろ

ニュースサイトMyNewsJapan編集長、ジャーナリスト

慶大総合政策学部卒、日本経済新聞社記者、日本IBMコンサルタントを経てニュースサイト「My News Japan」設立。著書『10年後に食える仕事、食えない仕事』『トヨタの闇』など雇用労働問題をテーマに多数。

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