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【総選挙2014】予告された衆院選の記録:それでも私たちが投票所へ向かうために考えたいこと

  • クロサカタツヤ (経営コンサルタント)
  • 2014年12月12日


朝日新聞社提供

衆院選のことをポリタスに書いてよ、と津田さんから久々にメールをもらいました。いまどきメールってところがお互いロートルな感じでイイなと思って、二つ返事でお引き受けしました。

そして約束の日の朝を迎えたので、この記事をしたためるべく、ポリタスを改めて見ているのですが、気になる記事をいくつかピックアップしただけでも、割と悲壮感たっぷりなので、どうしたものかな、と思っています。

投票率が低そう、自民党が圧勝しそう、安倍政権は引き続きイケイケでブイブイになりそう……概ねこんなところでしょうか。いずれもごもっともな懸念である上に、実際にも「たぶんそうだろうね」という感じなので、なんとも反論のしようがありません。

確かに投票率は期待できなさそうです。投票日には日本列島に寒波到来の予報が出ていますし。大雪等の被害が警戒される地域の皆様には本当にお見舞い申し上げる次第ですが、もしほんの少しでも心にゆとりがあってお時間が許すなら、期日前投票へ向かっていただければ有り難い限りです。でも、命より大事な選挙は、少なくとも日本にはないですからね

現在の与党の圧勝も、概ね確実そうです。これは、投票率が低調だと組織票を持つ公明党や共産党が有利であり、それによってしわよせを受けるのが現在の野党の側である、という経験的な予測に基づきます。「しわよせはどっちに転ぶか分からんよ」という議論もありますが、だって現在の野党の側に投票したい人って少ないじゃないですか。これも正直本音だと思います。

もちろん、いま生活に苦しんでいる方たちの味方になってくれるのは、野党なのかもしれません。あるいはより正確に言えば、与野党というより、リベラルであることに対しての意識がある候補者、でしょうか。実際、ゴリゴリの極右マッチョな候補者って、むしろ与党じゃないところにいますもんね。そのへんはちゃんと見極めたいものです。

さておき、そうして生活に苦しんでいる人たちは、毎日をしのぐことにあまりに忙しすぎて、特に国政のことなんか構っていられないと思うんですね。その方たちが必要とする施策って、5年後や10年後の話よりも、今日や明日のことであり、地方議会の方が近いはず。だから来年の春に予定されている統一地方選こそが本番なのではないでしょうか。

現時点である程度の安定をもって、毎日を生活できている人の多くは、アベノミクスから間接的な恩恵を受けている

一方、現時点である程度の安定をもって、毎日を生活できている人の多くは、アベノミクスから間接的な恩恵を受けているはずです。たとえば、堅実な経営者の下で働いているからこそ給与所得者として日々が安定しているのだとすれば、そういう経営者は割と保守的に為替を予約していたりするので、いまは円安の恩恵を受けて会社の経営状態は悪くないはず。これはホワイトカラーとブルーカラーの如何を問いません。

そして堅実な経営者ほど、為替が水物だということも分かっているので、そう簡単に給料は上がりませんが、それでも「会社が落ち着いて仕事できる状態にある」ということは、なんとなく感じているはず。そういう理性的で落ち着いた、余裕のある状態だからこそ、「直接は自分と関係ないけどせっかくだし国政のことでもちょっと考えてみようか」という気分になって、投票に向かうわけです。その人たちが誰に投票するかは、むべなるかな、という感じですね。


Photo by pika1935CC BY 2.0

私たちの社会はとても複雑です。ポリタスを読んでる理知的な私たちは、ついうっかり「政策で選ぼう」みたいなことを言ってしまいます。特に国政で扱っているようなテーマは、たとえるなら漢方薬みたいなもの。社会のいろいろな機構やプレイヤーの意志を経由しながら、じわじわ時間をかけて、自分たちの手元のところに届きます。だから、政策よりも候補者の「人となり」で選ぶのが合理的だと思います。

さて、ここでやめると、大体1500字。どうしようかな……続けます。

そんな、ポリタスを読んでる理知的な私たちなので、いくら「人となり」で選ぶのが合理的だと言われても、「政策を考えたい!」という気分は拭えないはず。なので、自民党大勝後に何が起きるか、政策面から少し考えてみましょうか。

まず、【アベノミクス】。野党からは、第1の矢と第2の矢の失敗が指摘されていますが、あれはマクロ経済(つまり世界を含めた社会全体の金まわり)という軸で評価すべきであって、私たちの懐が暖まって「1日3食サーロインステーキどーん!」みたいな話ではありません

一部では、資産効果(保有する株や土地の含み益が上がってメシウマということ)でカネを持ってる人の消費どーん! が期待されたはずなのに、大したことなかったじゃないか! みたいな議論もあります。でも、たかだかアベノミクスの資産効果でちょっとウハウハになる程度の小金持ちって、大体はケチで堅実なんです。資産効果を脳内で確認してから、やはりユニクロを買うわけですよ。だって縫製いいんだもん。

その上で、まだ結果は出ていないというのがアベノミクスの正しい評価であって、それをもって「失敗した」と言われれば「そうですね」と棒読みするしかないのですが、とはいえこれ以外の方向性では打ち手がないのも事実。しかも増税先送りしてプライマリーバランス改善は夢のまた夢になりそうですから、公的部門からの財政出動ではなく、民間部門で実需を作り出すこと、つまり第3の矢でどれだけのことができるかが大事となりましょう。デフレというマクロ経済的な意味での地獄から抜け出すには、それしか道がないと思います。

そういう意味では、マクロ経済政策の意味を正しく理解しながら、第3の矢というミクロ経済政策を正しく考えられそうな候補者を、選びたいですね。たとえば私なら、通信や放送という、いわゆる情報通信産業のお手伝いをしている人間として、そうした分野がより活性化するような人を国政に送り込みたいです。実際日本は、インターネット先進国だと言っても、コンプガチャに飽きたあと、ツイッターで糞リプ投げ合って、LINEで疲れてるだけですからね

ここで大事なのは、デフレでメシウマな人が、日本にはそこそこ存在するということです。たとえるなら、資産、生産手段、消費への欲望、社会貢献、そういったものを何も持たないような人たち。社会全体が経済成長せずに、みんなで沈んでいけば自分もハッピーというような考え(と生活実態)の持ち主です。

デフレ克服というと「みんなの願い」っぽいんですけど、政策面での最大の争点は、このデフレ既得権者とどう対峙していくか、ということだと思います。ポリタス読者の多くにとっては、そんな人たちこそが政敵でしょうから、闘うべきところです。

自民党の出している憲法改正案は「落第寸前の学生が書いたレポート」レベル

あと、与党じゃなくて自民党が圧勝すると、【憲法改正】が一気に進むのでは、という懸念もあろうかと思います。ただ、自民党の出している憲法改正案って、私の近くにいる法曹家の共通した見解は、「落第寸前の学生が書いたレポート」レベルだって仰るんですね。そう言われて、私が直接仕事で関係している分野を読んでみましたが、確かにツイッターの床屋談義レベルでした。

自民党の中には、谷垣禎一幹事長をはじめ、法曹家としてのバックグラウンドを持つ重鎮が少なくありません。なので、さすがにアレをそのまま進めるってことはない、と信じたいです。それでもどうしても心配という方は、公明党へ投票するのがいいのではないかと、割と本気で思います。信教の自由は何にせよアンタッチャブルだと考えれば、それ以外の憲法の領域に関して、学術面も含めて、彼らはかなり真っ当な仕事をしていると、私には思えます。

与党圧勝で個人的に一番気にしているのは、【選挙制度改革】です。そもそも違憲状態と言われたまままた選挙に入ってしまったので、最高裁から据えられるのは、おそらくお灸以上のものだろうと容易に想像できます。私も、スーパーモデル並みにフワフワと軽い一票を持っている側なので、「いい加減にしろよ」って思いはあります。

ただし、ここで区割りの見直しではなく選挙制度改革と書いたのは、これから縮んでいく日本社会において、名前も分からないような政党が乱立する中、いまの小選挙区比例代表並立制の継続が本当に妥当なのか、という問題提起の予感がするのです。

おそらく早いところでは、来春の統一地方選の前後で、そういう議論は出てくると思います。そもそも地方どうするんじゃいというのが政権の重要なアジェンダであることは変わりませんし。あるいは、名前も忘れてしまったような政党を出身母体とした首長が、その周辺のカネの問題で辞任に追い込まれるという観測も、すでに一部では取り沙汰されていますね。どこかの新聞で記事にもなったはず。リンクは張りませんけど。

中選挙区制に戻した方がいい

平たく言えば、中選挙区制に戻した方がいいんじゃないか、という話です。安倍さんは、次の次の選挙で、そこに手を突っ込むのではないかと、なんとなくぼんやり思っています。すでに最高裁から「ふざけんな」という声が出ている以上、そのあたりをどう考えるかは、有権者として意識しておいていい話です。

税と社会保障の問題が、増税とともに先送りされてしまった

以上で本稿は大体終わりますが、冒頭で「ポリタス誌面は悲壮感たっぷり」と書きました。でも本当に悲壮なのは、選挙結果がどうこうというのではなく、少子高齢化が激しく進行するわりに、政府の財政状態がヤヴァイという、税と社会保障の問題が、増税とともに先送りされてしまったということです

でも、先送りされてしまったことは仕方ないので、この問題を正しく解いていくことを明るく目指しましょう。そのためには、問題をさらに腑分けすることが必要で、おそらく前述した3つの政策課題は、そういう文脈でさらに整理されていくべきでしょう。

本来であれば、そうした問題の構造や本質がクリアになったところで、解決の道筋をつけてくれそうな候補者を応援したいのですが、今回の選挙ではそこまでたどりつくことは難しそうです。だとしたら、問題の構造や本質をクリアにしてくれそうな候補者を選ぶのが、私たちの責務といえましょう。

著者プロフィール

クロサカタツヤ
くろさかたつや

経営コンサルタント

慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修士課程修了。学生時代からネットビジネスの企画設計を手がけ、卒業後は三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティング、IPv6やRFIDなど次世代技術の推進、国内外の政策調査・推進プロジェクトに従事。2007年1月に独立、現在は株式会社企(くわだて)代表取締役として、通信・放送セクターの戦略立案や事業設計を中心としたコンサルティングや、経営戦略・資本政策などのアドバイス、また政府系プロジェクトの支援等を実施している。経済産業省IT融合フォーラム有識者会議委員、OECD日本政府代表団員、 国立競技場将来構想ワーキンググループ部会委員、等。

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