ポリタス

  • 視点
  • illustrated by トヨクラタケル

【総選挙2014】僕は、映画のポスターをデザインするように 選挙の投票をする

  • 浅井隆 (アップリンク社長/webDICE編集長)
  • 2014年12月12日


© iStock.com

僕は、浮動票の有権者である。選挙のたびに投票する政党や候補者を変える未確定な票を持った有権者というわけである。また、僕は、あらゆる原理主義から最も遠くにスタンスをとりたいと思っている。

例えば、アメリカの大統領選でミュージシャンや俳優が自分が支持する候補者を熱狂的に応援する姿をよく見るが、そういった行動も僕にとっては距離を置きたいと思うものの一つである。僕が投票する場合は、自分の1票が"死に票"にならないように、選挙の素人なりに状況を分析し戦略的に投票したいと思っている。

先日、渋谷のユーロスペースで『三里塚に生きる』という映画を観た。上映後、鎌田慧さんのトークがあり、こう語っていた。

選挙は勝たなければいけないのです

「選挙は勝たなければいけないのです。沖縄は仲井真さんが県民を裏切ったので、翁長さんが勝つ事はわかっていました。そこで、何票差かが問題だった。結果10万票差で圧勝しました。歌を唄っている人(喜納昌吉さん)は沖縄の人はみんな好きだけど今回、県庁前で彼が唄っていても誰も聞いてませんでした。都知事選で私は細川さんを応援しましたが、"さよなら原発”ではなく、"さよなら鎌田”といわれましたね」

どんなに喜納昌吉さんのファンでも、彼に投票すれば死に票になることを沖縄の人はわかっていたので、保守革新という対立ではなく、選挙で勝てる候補に投票したということを、鎌田さんは言いたかったのだろう。

今年2月の都知事選で僕も、小泉首相が原発反対に転身するきっかけとなったといわれる映画『100,000年後の安全』をYouTubeで無料公開し細川候補を応援し、彼に投票した。

言っていることに個人的にシンパシィを感じたのは原発反対派の宇都宮候補(共産党、社民党、緑の党、新社会党推薦)だった。しかし、前回の都知事選の得票数からみて、彼は絶対に勝てないとふんでいたので、元首相の細川候補が当選という、まさかの大番狂わせの可能性に賭けたわけだ。

配給会社アップリンクの仕事で苦労するのは、映画のポスターのデザインである。特に洋画の場合は、限られた素材のなから使える写真を選びデザインする。デザイナーがイメージする写真を新たに撮り下ろす事は出来ない。選挙は映画のポスターをデザインする事に似ている。自分の主義主張に一致する「この人なら」という候補者は見つからず、誰にも投票したくないと思い、結局棄権をする。

ただ、映画のポスターは、イメージ通りの写真がなくても限られた写真を使い、完成させなくてはならない。選挙もいい候補者がいないからと棄権するのではなく、手持ちの写真=候補者の中で最善のデザイン=投票をするというのが僕の選挙のスタンスだ。

リベラルな浮動票有権者が、誰に投票するかを表明する事は、棄権を減らし、浮動票有権者に投票を促す上で重要

僕のような浮動票有権者が、その時の支持政党や候補者を公言しにくいのはよくわかる。なぜなら、それは今回の選挙に限っての事なので、その政党や候補者の絶対的な支持者であると誤解されたくないからだと思う。ただ、選挙を大きく左右するリベラルな浮動票有権者が、誰に投票するかを表明する事は、棄権を減らし、浮動票有権者に投票を促す上で重要なのではないかと思う。

そこで、今回の僕の投票デザインの方針を述べておこう。まず僕の小選挙区である渋谷7区では、前回の選挙で民主党の長妻昭候補が自民を押さえて勝っているので、長妻候補に投票する。比例区は、都知事選では共産党推薦候補である宇都宮候補に票を入れなかったが、自民党と最も遠い政策を打ち出している共産党に投票する。社民党でもいいのだが、今回の選挙では野党としても大きな力にならないのではないか。デザイン的に青や緑よりも赤を多くしたい。

ただ、ここで誤解しないでほしいが、先程述べたように僕は民主党支持者でも共産党支持者でもない。あくまで、今回は僕はそこに投票するという、自分自身の投票デザイン行為を行なっているまでである。

なぜ、自民党を支持しないかは以下の理由による。


オマール、最後の選択』ハニ・アブ・アサド監督 アップリンク配給により2015年公開

アップリンクで2015年に『オマール、最後の選択』というパレスチナ映画を配給する。この作品は初の100%パレスチナのみの出資により作られた映画で、2014年のアカデミー賞の外国語映画部門にパレスチナ代表として出品されノミネート5本の中に選ばれた。国連でのパレスチナ問題の扱いをみてみると、2012年11月に国連でパレスチナを「非加盟オブザーバー国家」に承認する決議に日本は賛成している。アメリカとイスラエルは反対していた。そして今年7月の国連人権理事会でアメリカだけが反対した「イスラエル非難決議採択」で、日本は棄権をしたのだ。棄権は日本、韓国、イギリス、ドイツなど17国。前者は民主党の野田政権時、そして後者は自民党安倍政権時の日本の国連での投票行動だ。

「人権」という概念は、政治や宗教的主義主張より上位に位置する

「人権」という概念は、政治や宗教的主義主張より上位に位置する。圧倒的兵力の差によるイスラエル軍のガザ空爆は、民間人を巻き込み明らかに大量虐殺であるにも関わらず、日本はそれを非難する事も、非難に反対する事もせず、国家として全くプライドのない棄権という投票行動をとる。

緒方貞子さんが国連高等弁務官事務所の代表だった頃、「人道支援はただ人の命をつなぐだけで、根本的な解決にはつながらない。政治問題を解決できるのは政治だけです」と言っていたと聞いた。ならば、今回の総選挙で誰も問題にしないパレスチナ問題を、僕は問題にしたい。国連で「イスラエル非難決議採択」で賛成を投じる政府を選びたい。

国際社会でアメリカの顔色をうかがう行動しか取れず、それでいて4月に武器輸出三原則を撤廃し、7月に集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更を閣議決定、そして12月に特定秘密保護法を施行した自民党政権に反対したいと思う。


朝日新聞社提供

著者プロフィール

浅井隆
あさい・たかし

アップリンク社長/webDICE編集長

1955年大阪生まれ。1974年演劇実験室天井桟敷に入団し舞台監督を務める。1987年アップリンクを設立。デレク・ジャーマン監督の『ザ・ガーデン』『エドワードII』『ヴィトゲンシュタイン』『BLUE』の4作品の共同プロデューサーを努める。また国内では黒沢清監督『アカルイミライ』、シュー・リー・チェン監督『I.K.U.』、矢崎仁司監督『ストロベリーショートケイクス』などの映画をプロデュース。2014年は伝説の監督アレハンドロ・ホドロフスキーの新作『リアリティのダンス』とホドロフスキー主演の未完のSF大作"DUNE"についてのドキュメンタリー『ホドロフスキーのDUNE』を配給する。現在、宇田川町で映画館、イベントスペース、ギャラリー、カフェレストランが集まったスペースを運営。ウェブマガジン『webDICE』の編集長も務める。

広告