ポリタス

  • 論点
  • illustrated by トヨクラタケル

【総選挙2014】私たちはなぜ袋小路へはまり込んでしまうのか?――白熱政治をとりもどそう――

  • 遠藤薫 (学習院大学法学部教授)
  • 2014年12月14日


撮影:初沢亜利

1. なぜ圧勝が予想されるのか――人々はそれを望んでいるのか?

あわただしく選挙戦が始まった。選挙序盤から、新聞もテレビも評論家の皆さんもこぞって、自民圧勝予測を大々的に報じている。

まるで選挙は、始まる前に終わってしまったみたいだ。

そんなに民意は明らかなのか?

2年前、確かに自民党はブームといえるほどの支持を集めていた。民主党政権に対する失望が、人びとを自民党への期待へと駆り立てたのだ。

しかし、2014年秋の時点で、安倍内閣への支持率はゆらゆらと下降を続けている

かつての勢いはない。にもかかわらず、なぜ、自民党は圧勝するというのか?

小選挙区制ではある閾値を境に圧勝か、惨敗の二択しかない

おそらくそこには、「小選挙区制のマジック」が介在している。小選挙区制では、わずかな差でも各区で当選すれば、全体として大きな議席差となる。ある閾値を境に、圧勝か、惨敗の二択しかないのだ。

その意味で、支持率がきわどいラインまで落ちてきたこのタイミングで解散・総選挙に打って出た安倍政権の戦略は、まさに絶妙というしかない

2. 袋小路に向かう奇妙なループ――アベノミクスと消費税

その一方、人びとの政策に対する心理が、奇妙なループをたどって、安倍政権支持に回収されてしまっている可能性も無視できない。

図1を見てほしい。これは、筆者が公示直前に行った世論調査(インターネットモニター調査、全国の20歳~79歳の男女(県別、性別、年代別の人口割合を適用)、回答数5497)から集計した政党支持の理由である。一目で明らかなように、「景気対策」と「消費税問題」が群を抜いて関心を集めている。眼前の経済問題が最重視され、やや長期的な問題である「原発」や「社会保障」がやや後方に退いている。人びとが生活の苦しさを実感しているためだろう


図1 政党支持の理由(%)

人びとの生活実感は、同じ調査による「アベノミクス評価」にもはっきりとあらわれている。それぞれの項目について、賛成は青棒、反対は橙棒、賛成の割合から反対の割合を引いた値をグレー棒で表している。

「アベノミクスが成功」「まだ成果は出ていないが将来に期待」は反対が多く、「物価が上昇して生活が苦しくなった」「格差が拡大した」などには賛成がきわめて多い。つまり、人びとは、「アベノミクスによって、生活経済は悪化している」と強く感じているのだ


図2 アベノミクスをどう評価するか(%)

アベノミクスは失敗していると感じ、生活が苦しくなっていると感じる人びとは、いま以上に生活への負担が大きくなるだろう消費税増税に対しては回避的である。

図3は、やはり同じ調査で消費税について尋ねた結果である。これによれば、人びとは「消費税増税先送り」に賛成している。いや、そもそも「消費税増税に反対」である。「社会保障のために増税」はやむを得ないかもしれないが、できれば「復興財源は法人税でまかなってほしい」し、消費税をどうしてもあげなければならないならば「軽減税率」を適用してほしい、と感じている。もう切羽詰まっているのだ。


図3 消費税先送りをどう評価するか(%)

図2や図3に顕れている感覚は、とても理解できる。

そしてその感覚は、必ずしも安倍政権を圧倒的に支持するものではないことも明らかだ。

しかし、図2と図3の感覚が組み合わさったとき、不思議な化学反応が起きて、アンチ・アベノミクスが、プロ・アベノミクスに転換しているのではないか

図4はそのメカニズムを示したものである。

現政権は、「景気回復」を政策の表看板としている。(本当はその陰に別のさまざまな政策もあるのだけれど)。ただ、残念ながら、人びとの実感レベルでは、アベノミクスはうまくいっていない。物価は上がり、富裕層は豊かになったかもしれないが、中間層の生活は苦しくなっている。すこしの出費も抑えたい。消費税増税なんて耐えられそうもない。

だから、「消費税増税先延ばし」はありがたい。できればずるずる増税をやめてほしい。社会保障は心配だけれど、明日のことは明日考えよう。とにかく今は、消費税増税を棚上げにし、景気対策を重点化してほしい。(そのためには、原発問題も、秘密保護法問題も、集団自衛権問題も、後回しするしかない)

とすると、「景気対策」を最も前面に打ち出しているのは、現政権だ。現政権支持だ。(あれ?)

アベノミクスに対する失望感がなぜか、安倍政権支持につながる

アベノミクスに対する失望感が、なぜか、安倍政権支持につながる不思議な袋小路ループが、こうして形成されているのではないか。(これは、「依存症」のループでもある)


図4 袋小路のループ

3. なぜ、ループから抜け出さないのか?――政治をほめて育てよう

こんな袋小路のループに、人びとが気づいていないわけでもあるまい。

だったら、なぜ抜け出さないのか?

「受け皿がない」と答える人がいる。「野党が頼りにならない」とぼやく人がいる。

確かにね

たとえば、下の表を見てほしい。今回の衆院選の各政党のキャッチコピーである。どれがどの政党のものか、わかるだろうか? 昨年の参院選の時もそうだったが、この問題に対する正答率はものすごく低いだろう。具体性もなく、まるで政党の顔が見えないコピーばかりだ。(答えは自分で調べてね)。

唯一わかる人が多いのは、自民党のキャッチコピーだろう。(たくさんCM打ってるしね)。

しかし、だからといって、「野党はだめだ」「代替案がない」と嘆いてみても仕方がない。もし、政治に多様な選択肢を求めるなら、自己表現のへたくそな野党についても、面倒だがマニフェストを読んでやろう。政見放送を聞いてやろう。そして、よいところがあれば褒めてやろう。彼らにできることを私たちが具体的に教えてやろう。

そして彼ら/彼女らにも、私たちの求めることを実現するよう努力させよう。

政治がうまくいかないことを政党や政治家のせいにするのはやめよう。政治の主体は政党じゃない。私たち自身なのだから。

クイズ「キャッチコピーの政党はどこ?」(画像をクリックすると答えが見られます)

4. 「この道しかない」、はずはない――白熱政治をとりもどそう

自民党を頭ごなしに否定するつもりはない。自民党にもいいところは色々あるはずだ。

私たちの前方には、さまざまな「道」がありえる。どの道を選ぶかは、私たちに任されている

ただ、言いたいことは、「この道しかない」ってことはありえない、ということだ。

私たちの前方には、さまざまな「道」がありえる。そしてどの道を選ぶかは、私たちに任されている。しかも、もし道を間違えたと気づいたなら、私たちはいつだって引き返すことができるし、別の道を選び直すこともできる

僕の後ろに道は出来る」とさえ、むかしの詩人はうたっている。

どの道は破滅に至る道なのか。
どの道は希望につながる道なのか。
政治家も含めて、侃々諤々の議論をしよう。いつまでも終わらない議論を続けよう。
白熱議論が続く限り、政治は誤らないはずだ。
白熱選挙をとりもどそう。白熱政治をとりもどそう。

著者プロフィール

遠藤薫
えんどう・かおる

学習院大学法学部教授

学習院大学法学部教授。専門は社会学(社会システム論、社会情報学)。主な著書に、『グローバリゼーションと都市変容』(編著、世界思想社、2011)、『メディアは大震災・原発事故をどう語ったか』(東京電機大学出版局,2012)、『廃墟で歌う天使』(現代書館,2013)、『間メディア社会の〈ジャーナリズム〉』(編著、東京電機大学出版局,2014)、『ソーシャルメディアと〈世論〉形成』(編著、東京電機大学出版局,2016.9刊行予定)その他多数。

広告