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【総選挙2014】老人ホームと選挙の話

  • 高木成未 (特別養護老人ホーム・介護職員)
  • 2014年12月15日

今回のように選挙が行われる際、老人ホームで生活する80代、90代の入所者が、どうやって投票に至るのか、考えたことがある人はほとんどいないかもしれない。あるいは、自分が老人ホームに入って、入所者の立場だったら……、と想像するのは、もしかしたら難しいことかもしれない。けれど、今回の衆議院選挙に当たって何かしらの参考になればと思い、私が働いている特別養護老人ホーム(以下、特養)の投票を巡る状況について、介護員の立場から、分かる範囲で(あと、書ける範囲で)記してみたい。

1 投票の意志の確認

まず、選挙の公示日以降、生活相談員(以下、相談員)が、各ユニット=入所者が生活する場を回り、それぞれの入所者に、投票するかどうかを確認する。

相談員は、入所者に、どうするか尋ねはするものの、反応がなかったり、あいまいな様子だったりすると、そこを離れて、次の方のところに行く。入所者の中には、日中でも寝ている方もいるが、起こしてまで聞くのかは見たことがないので分からない。また、人によっては、一日の中で気分や体調の変動が大きい場合もあり、コミュニケーションがとりやすい時と、そうでない時がある。

例えば、入所者Aさんと相談員の間でこのようなやりとりがあった。

相談員:「こんにちは、Aさん。今度選挙がありますが、投票されますか?」

Aさん:「ああー」

相談員「分かりました(声の調子から、投票を希望すると判断した模様)」

(相談員は、同じユニットの他の入所者のところへ聞きに行った)
(その後しばらくして…)

Aさん:「行かない」「選挙行かない」

相談員:「分かりました」(同じユニットだったので、声が聞こえたようだ)

(相談員が別のユニットに移動して数分後)

Aさん「選挙に行きます」「選挙に行きます」

この時は、たまたま、Aさんの近くにいた介護員がそれを聞いていて、隣のユニットに移動していた相談員に伝えたので、Aさんは投票する機会を得られた。

日常的に入所者と接している介護員からすると、入所者の調子が良く、会話が通じそうな時に聞けばいいのにと思う。その時の状態によって、投票機会を得られるか、そうでないかが決まってしまう。私の知る限り、相談員が意向を確認するのは一度だけだった(言うまでもないが、この時、相談員は丁寧にコミュニケーションをとっていた)。

では、入所者の状況を把握している介護員がサポートすればいい、あるいは、介護員が直接聞けばいい、という意見もあるかもしれない。個人的にはその方がいいと思うが、私が働くユニット型特養の場合、介護員は1ユニットに1名の配置となっていて、既に業務に手一杯であるということ。それから、相談員が聞くということが今まで行われてきた中で、介護員の立場で、あえてそうしたことを口に出すことへのためらいがある。

当施設全体をみると、まず、意思表示ができない方は投票機会から除外されていた。次に、意思表示があいまいな方は、投票する方と投票しない方に分かれていた。最後に、意思表示が明確な方でも、この段階で、投票する方と投票しない方に分かれていた。

今でも印象に残っているが、最も自立度が高く、判断力があると思う女性入所者が、「私は何も分からないから」と投票を断るのを目の当たりにしたこともあった。

2 どうやって選挙についての情報を得るのか

マスメディアなど

まず、テレビが一番手近といえる。実際、政見放送が流れていることがあったが、これは入所者に見てもらう目的ではなく、ただつけっ放しにしていて、時間になったから放送されただけだと思う。むしろ、もっと面白そうな他のチャンネルに変えることもあるかもしれない。また、ニュース番組や情報バラエティ番組での選挙報道もある。

ただ、そもそもユニットのリビング(入所者が集まって過ごす場所)にテレビが一台しかない。自分の部屋にテレビがある方は、こうした報道を見たいし、見ていることもあるかもしれないが、リビングから部屋まで行くのに介護員の介助や付添いが必要な方もいる(希望があれば、もちろん対応する)。

新聞は、取っていない人の方が多い。また、新聞を購読していても、他の入所者が、自分のものと勘違いして読んでいる場合もある。介護員が声をかけても、これは自分のものだと強く主張される場合もあり、時間をおいてから対応することもあった。ラジオは、持ち込む人はほとんどいない。あっても、操作の仕方が分からなかったり、体が動かなくて自分で操作できない人もいる(いずれも、介護員に言ってもらえば対応する)。雑誌は、以前、まれに家族が持ち込まれることもあったが、最近は見かけない。

インターネットについても、そもそもパソコンやタブレットなどを持ち込む方が今のところいない。入所時に携帯電話を持っている方でも、しばらくすると家族が解約する場合も多い。

それぞれの家に配られるような、政党や候補者のチラシやマニフェストなどが、入所者の手元にあるのも見たことがない(新聞を取っている人がいれば、折り込みで入っているかもしれないが、それが入所者の目に入るかは分からない)。

施設の外に出ないとアクセスできないもの

入所者が、特養の外に出て、候補者のポスターや街頭演説を見に行くこともないし、選挙カーに遭遇することもない。テレビで、老人ホームらしきところに候補者があいさつしに来る場面が映ることがあるが、そうしたことも今まで経験したことがない。

選挙公報

こうした中で、施設から明確に指示があるのは、選挙公報を見てもらうことだけ。それも、口頭で言われるのではなく、関係文書の中でコメントとして載せてあるだけなので、最近でこそ慣れてきたが、それでもうっかりすると見過ごしてしまうかもしれない。

選挙公報は、毎回、人数分届いたことがない。なので、回し読みをしてもらうよう申し送られる。また、選挙公報が配られるのは、毎回、公示日から日数経ってからで、届いた翌日が投票日という時もあった。

選挙公報を配られても、読むことができない方もいる。例えば、長い時間座っているこどできず、食事とトイレとお風呂以外は、基本的に自分の部屋のベッドで横になっている方がいる。座って読むのは時間的な制約があって困難で、横になった状態でも、腕の力がないから読むことが難しい。判断力があると思う人でもそのようなことがある。

なお、こうした場合、介護員が付き添えば読めるかもしれないが、他の入所者の基本的なケア=食事介助や飲み物の介助、排泄介助などで手一杯で、そこまでする時間がないのが現状だ。

認知症があり、選挙公報を渡されても内容を理解できない方もいる。一度は手にとっても、いつの間にか放ってあったり、自分の部屋のタンスにしまいこんだり、なくしてしまったりすることもある。

入所者が選挙公報を見られたとして、どうやって候補者や政党を選ぶのか。入所当初であれば、見覚えがある地元の候補者がいるかもしれない。政党は、一部を除けば、見たことがない名前が並んでいることだろう。

現在、参議院の比例代表制では、政党名を書いても候補者名を書いてもいいことになっているが、全国単位で選ぶことになっており、候補者は膨大な数に上る。情報が限られている中、何を基準にして選ぶのか。選択肢があるのは一見良いことのように見えるが、実際に投票するまでの支援が担保されていないと感じる。

また、今のところ健常者の私から見ても、選挙公報は書いてあることに具体性がないし、内容も不正確なことがある。今回、ある候補者は、現政権で、介護職の処遇改善加算で月額平均3万円アップを実現したと記載しているが、当事者としてこれは事実とは言えない。

介護員の側の問題として、例えば、選挙公報が配られないまま置いてあるのを目にしたことがある。また、現在は、衆議院選挙でも参議院選挙でも、選挙区と比例代表の投票があるため、選挙公報も2部ある。しかし、投票方法が2通りあることを介護員が知らない場合、どちらか一方しか渡さないということも起こる可能性がある。こうしたことを防ぐために、施設から注意事項などが出たことはない。

3 投票当日

投票の実務は、前述の相談員をはじめ、普段は事務所にいる各職種や役職者など数人で当たる。各ユニットから投票場所(施設内に設置)までは、介護員が移動介助することもあるが、私個人は投票行為自体にタッチしたことがないので、実際どのように対応しているのか、どういう状況なのかは分からない。

また、不在者投票として扱われ、投票日の前に行われる。日曜日は、事務所の職員は出勤しない(施設によるかもしれない)。投票時間は、午前と午後に分かれ、最大2時間となっている。

入所者が投票場所に移動するまで、時間帯によるが、介護員は、食事や飲み物の介助、服薬対応、排泄介助、その他の対応(例えば、帰りたい希望への対応)を適時行っているので、例えば、当日に選挙公報を読んでもらうよう対応する時間は限られている。そうした時間が全くとれない場合もありうる。

いざ行く時になって、声をかけたところ、「行かない」と言われる入所者もいる。時間をおいて声をかけても、理由は不明だが、嫌がられて、そこから走り出した人もいた(転倒リスクがある方なので、介護員がすぐ付き添った)。「行った方がいいのでは」と声をかけたところ、その方を迎えに来た他の職種から、「本人が行きたくないと言っているから」と制されたこともあった。

前述したように、投票場面では、入所者に常日頃接しているわけではない介護員以外の職員が対応する。投票場所に行けたとしても、これも理由は不明だが、泣かれてしまい、投票しないで戻ってきた方がいるという話を聞いたことがある。また、ここにたどり着くまで、選挙公報をはじめとした媒体を見て候補者や政党を決めたと思った入所者でも、そのことを覚えていられるのか不明だ。入所者の中には、記憶が保持できず、例えば、同じ質問を1分間に数回繰り返す方もいる。

また、手に力が入らず、候補者名や政党名が書けないという声も聞いたことがある。

なお、知人から、「昔は理事長が候補者の名前を書かせたらしいが、今はどうなのか」と尋ねられたことがある。はた目で見ている限りは、複数の職員の目があるので、そうした不正は難しいのではないかと思う。

ただ、ポリタスでも紹介されているような外部立会人は今まで見たことがない。

【総選挙2014】不在者投票の外部立会人、活用は1割 周知進まず http://politas.jp/articles/233

なお、投票結果について、テレビや新聞を見ることがなければ、入所者が結果を知ることはないと思う。介護員として、そうした支援をしたことも、促されたこともない。

在宅の要介護高齢者の投票について

在宅の要介護高齢者の場合、体が動く方でも、例えば、足が痛いから投票所まで行けなかったという声を聞く。在宅では、どのような支援がなされているのか不明だが、例えば、デイサービス(通所介護)の職員という立場で、自身の利用者の投票行動を支援あるいは介助することはできないと思う。

また、成年後見人をされている人からは、本来であれば、不在者投票の手続きや投票所へ付き添うヘルパーの手配などをしなければならないが、そこまで手が回らないという話を聞いたことがある。

著者プロフィール

高木成未
たかぎ・しげみ

特別養護老人ホーム・介護職員

特別養護老人ホーム・介護職員

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