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【総選挙2014】安倍政権の医療政策を問う

  • 上昌広 (東京大学医科学研究所 特任教授)
  • 2014年12月14日


Photo by MIKI YoshihitoCC BY 2.0

衆院選挙の投票日が近づいている。あまりに唐突な解散に、多くの人々は驚くとともに、不満を抱いたのではなかろうか。私も、その一人だ。

今回、衆院を解散することで、消費税増税を延期することへの抵抗勢力を抑えることはできるだろうが、国民が得るものは少ない。今回、何を争点に有権者は投票すればいいのだろうか。

医療費をどうすべきか

私は内科医だ。同時に医療ガバナンスを研究している。その観点から、今回の総選挙の争点を論じたい。

最大の論点は、如何に医療システムを維持しながら、医療費を抑制するかだ。正確に言えば、公的負担を軽減するかだ。

「アベノミクスの成功」により税収は伸びたが、医療費は抑えた

安倍政権は公的医療費の抑制に熱心な政権である。その最大の根拠は、診療報酬改定だ。平成二十六年度の改定では、プラス0.1%と説明された。ただ、消費税が増税され、医療機関は存在問題を抱えるため、実質はマイナス1.26%の大幅なマイナス改定になる。平成25年度の税収は約47兆円当初の見積もりを1.6兆円上回った「アベノミクスの成功」により税収は伸びたが、医療費は抑えたことになる。

これと対照的だったのが、民主党への政権交代後の平成22年の診療報酬改訂だ。全体でプラス0.19%、金額にして700億円相当を引き上げた。実に10年ぶりのプラス改定であった。

注意すべきは、このときはリーマンショック直後で、税収が大幅に落ち込んでいたことだ。平成21年度の税収は38.7兆円に過ぎない。この中で、民主党政権は、医療に重点的に予算をあてがい、40万人以上の雇用を産みだしたと言われている。この過程で、民主党政権幹部は、財務省と全面的に対決した。

政治的な力量はともかくとして、安倍政権と民主党政権の医療に対するスタンスは大きく異なる。

混合診療解禁

ただ、私個人としては、安倍政権のやり方はやむを得ない側面が強いと考える。社会保障費を圧縮しなければ、いつの日か、我が国は破産するからだ。

しかしながら、医療費を抑制するだけでは、医療システムは破綻してしまう。公的医療費を抑制しながら、医療システムを破綻させないためにはどうすべきか——安倍政権に問われるのは、この点だ。

医療崩壊を防ぐには、医療システムに循環する資金を増やさねばならない。税金・保険料で補えないのであれば、民間の資金を活用できるようにしなければならない。現実的には混合診療を解禁するしかない。

では、安倍政権は、この問題に対して、どのように取り組んで来たのだろう。私は、安倍政権の姿勢には賛同するが、十分に成果が上がっていると言いがたいと考えている。

安倍政権は「岩盤規制改革」の象徴として、混合診療の解禁を唱っている。ところが、先月、厚労省が発表した案では、混合診療が実施できるのは原則として百程度の大病院に限定されるらしい。これでは、多くの国民が規制緩和の恩恵に預かることができず、また、大勢に影響はない。見事な骨抜きである

我が国の医療は、混合診療禁止という規制のもと、様々な既得権を生んできた。高止まりする公定価格のもと、一切の値下げ競争に曝されることはなく、開業医から製薬企業まで大きな利益を上げてきた。公定価格の決定権を持つ厚労官僚たちは絶大な権限を持ち、医療・製薬業界を支配してきた。

世界でもっとも高齢化が進み、しかも富裕層が多い我が国で、製薬業界が発達しなかったのは、規制のもと自由な競争ができなかったからだ。この結果、長年にわたり新薬を開発したことがなく、本来、市場から退場すべき製薬企業が、いまだに生き残っている

混合診療規制を緩和しようとすれば、彼らからの抵抗を受ける。混合診療規制の緩和は、政治的にはタフな仕事だ。さて、安倍政権は、どこまでやるだろうか。総選挙にあたり、安倍総理の覚悟を問いたい。


Photo by epSos .deCC BY 2.0

著者プロフィール

上昌広
かみ・まさひろ

東京大学医科学研究所 特任教授

93年東大医学部卒。99年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床研究に従事。05年より東大医科研探索医療ヒューマンネットワークシステム(現 先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。

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