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【総選挙2014】教育は票にならないというのは本当か?

  • 藤原和博 (教育改革実践家/杉並区立和田中学校・元校長/元リクルート社フェロー)
  • 2014年12月14日


© iStock.com

論考というのではなく、「政治」に対する思いを書くだけなので少々荒っぽいが勘弁してほしい。

若者を代表する政党よ、いでよ!

まず、なんで「若者」(といっても子供から50代までの、所謂「団塊の世代」より若い層)を代表する政党が現れないのか、不思議でしょうがない。

与党が最大多数をキープするために、老人に耳障りのいいことしか言えないのは当たり前だろう。野党が同じようなことを言っても存在価値はない。

信用ならないのは「福祉の充実」「医療や教育の無償化」「基地無くせ」「原発即時ゼロ」などの「べき論」「机上の空論」を声高に主張する輩だ

人口減で働き手が少なくなり、企業も海外展開する(投資が内需ではなく外需に向かう)中で税収が上がるはずはないのだから、あれもこれもが実現不可能なことは小学生にも分かるはずだ。票を呼び込むためだけに無理矢理やろうとすれば、国債を刷り、これから生まれる赤ちゃんにもお金を借りてバラまくしかない

もう、こういう高度成長期の古い手法はいい加減卒業して欲しいと思う。

誰が信用するに足るか

私が信用するとすれば、次の3つの問いかけに真面目に答えてくれる政治家だ。

(1)社会保障費をどう削って1000兆円の借り入れを減らすのか?
(2)日本は移民を受け入れるべきか、否か? 促進するならどういう方法で?
(3)原発を含めたエネルギー源をいつまでにどのようなバランスに変えるのか?

キッチリ答えてくれる人に、私はまだ巡り会っていない。

これらの難問に答えた上で、明確に、若者と子どもたちの未来を代表する政党が現れて欲しいのだ。民主党はそうではなかったし、維新もそういう利害を代表するのかと思いきや、絞り込めていなかった。

老人を舐めるな

おそらくどの党も「団塊の世代」以上のお年寄りを敵にするのが怖いのだろう。

しかし、私の実感を言えば、毎週のように地元でテニスをご一緒している60代から80代の元気なシニアたちは、「福祉! 福祉!」と要求する人たちではない。

むしろ孫たちの将来を本気で心配しているから、子どもたちの未来を担う政党に加担する。産業界もやがてそちらにつくだろう。

お年寄りを舐めてはいけない

この衆議院選挙のあと、統一地方選までの間に「子どもたちと若者の未来」を代表する政党が出てくれば、まともなお年寄りも必ず味方に付いてくれるはずだ。

義務教育をどうしなければいけないのか

私自身は教育改革実践家として「義務教育改革」を本職にしているので、教育政策についても述べておこうと思う。

まず、どうならなければいけないかを先に言う。

学校現場の「正解主義」「前例主義」「事勿れ主義」の呪縛を解くことである。

「正解主義」を少し緩めて、学校をインプット重視からアウトプットの場に変えていくことで、21世紀型の「思考力・判断力・表現力」を養成できる。

そのためには学校を開いて、政治や経済を含めた社会的課題を日常的に考える教育が行なわれなければいけない。正解を当てるのではなく、自分の意見を言える子を育てるためである。そうでなければ、自分のアタマで考える子は育たない。

義務教育の真の危機を理解している人は少ない

あと、1つだけ日本の義務教育界を襲う地殻変動について述べよう。

現在の学校現場は、教員全体の3割を占める50代のベテラン教員によってマネジメントされている。きめの細かい学習指導やイジメへの対処など、多様なノウハウを蓄積しているこの層はあと10年でいなくなる。団塊の世代も多かったから、現在30代、40代の教員の層は薄い。だから新規採用数が増えている。

ところが、とくに都市部の自治体では教職は不人気なので、応募採用倍率が著しく低下しているのが現状だ。このことが何を意味するか、分かるだろうか。

教員の質が確実に低下していくということ。個々の教員の努力とは無関係に、構造的な要因で下がっていくのだ。

核家族化と少子化、それに経済格差の拡大で「家庭」の教育力は数十年間下がりっぱなしだ。地域社会も崩壊に任せていたため、「地域」の教育力も後退している。そして、ついに「学校」の教育力が下がり始めているのだ。

ICTというよりはビデオ動画授業の高度利用が鍵

これを食い止めるにはICTという道具を使って若手の教員を武装するしかない。

すでに佐賀県武雄市でチャレンジが始まっているが、鍵は、タブレットを家庭に持ち帰らせて知識のインプットを動画で行ない、学校に来たらその復習から入って「思考力・判断力・表現力」を鍛えるビデオ予習型(反転)授業だ。

その背後で、家庭で予習したり授業の導入に使う魅力的な動画をオンラインで提供するプラットフォームの構築も始まった。若手の教員でも容易く「正解が一つではない」思考力養成型の授業運営を可能にするサポートである。

読者にイメージをつかんでもらうために、一例として私自身がリクルート社の「受験サプリ」に提供したビデオ授業の一端をご覧いただこう。

全体のオリエンテーションをしているTED風導入編(10分)はこちら。

「稼げるようになるにはどうしたらいいか」「付加価値とは何か」「お金との付き合い方」というキャリア教育的なものから、「自殺や安楽死の是非」「イジメはなくせるか」「赤ちゃんポストや出生前診断の是非」「少子化対策を考える」などのディベート教材まで、全51タイトル(経済編/学校編/仕事編/社会編/起業編)が、12月10日から公開になった。

こうした大胆な試みを実現させるには、政治家の決断と覚悟が必要なことは言うまでもない。

「教育は票にならない」というが、この常識が崩れることを強く望んでいる。

著者プロフィール

藤原和博
ふじはら・かずひろ

教育改革実践家/杉並区立和田中学校・元校長/元リクルート社フェロー

1955年東京生まれ。78年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、93年よりヨーロッパ駐在、96年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。08年~11年、橋下大阪府知事の特別顧問、14年~佐賀県武雄市の教育政策特別顧問に。 キャリア教育の本質を問う[よのなか]科が『ベネッセ賞』、新しい地域活性化手段として「和田中地域本部」が『博報賞』、給食や農業体験を核とした和田中の「食育」と「読書活動」が『文部科学大臣賞』をダブル受賞し一挙四冠に。 また、「地域本部」という保護者と地域ボランティアによる学校支援組織を学内に立ち上げ、土曜日に補習を行なう「土曜寺子屋(ドテラ)」や進学塾と連携した夜間塾「夜スペ」など、学校を開いて外部機関と連携する手法は、全国8000カ所に普及した。 著書に『人生の教科書[よのなかのルール]』『人生の教科書[人間関係]』(ちくま文庫)など人生の教科書シリーズがあり、「人生の教科書作家」と呼ばれることがある。ビジネス系では『リクルートという奇跡』、情報編集力の本質を和田中での改革ドキュメントとともに解説した『つなげる力』(ともに文春文庫)。教育系では『校長先生になろう!』(ちくま文庫)、共著に40万部超のベストセラー『16歳の教科書』(ドラゴン桜公式副読本/講談社)も。 人生後半戦の生き方の教科書『坂の上の坂 55歳までにやっておきたい55のこと』(ポプラ社)は12万部を超えるベストセラーに。最新刊は『もう、その話し方では通じません』(中経出版)で、コミュニケーションと対人関係が苦手な全ての日本人に「一対一の会話」の手引きが誕生。本作はコミュニケーション技術上達のための究極の教科書。 日本の職人芸の結晶であるブランドを超えた腕時計「japan」(左竜頭/文字盤漆塗り)を諏訪の時計師とファクトリーアウトレット方式でオリジナル開発。ネットを使えば個人新聞社や個人放送局だけでなく個人マニュファクチャラー(生産者)も可能になることを証明した。第5弾、文字盤に有田焼の白磁を使った「arita」まですべて完売。第6弾女性用「arita ism」を好評発売中。 さらに、「藤原和博のデザインワーク」(Curio Design工房)として、コーポラティブ方式のマンション開発やシェアハウスの開発を支援するほか、自転車通勤族や会社帰りにテニス/ジョギング派待望のハードシェル型リュック「大人のランドセル EMU」を通販のリンベルや日経BPから販売開始。 本業は義務教育改革で、教育界に蔓延る「正解主義」「前例主義」「事勿れ主義」を仮想敵として「一斉授業」を超える新しい教育の仕組みづくりに奔走中。モデルとして、佐賀県武雄市に2015年開校する官民一体型学校をプロデュース。ビデオ予習型授業(反転授業)の素材となる最高の先生の授業をWebに集結させるべく、MOOCsやカーンアカデミー日本版ともいえる「最高の授業net」を主宰している。 高校時代はバスケット部だったが、弱くてもっぱら強い女子バスケ部の相手をさせられた。いまはテニスに一所懸命。3児の父で3人の出産に立ち会い、うち末娘を自分でとり上げた貴重な経験を持つ。

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