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雇用が一番重要
政権を何で評価するかについて、いろいろな意見がある。筆者はかつて小泉政権と第一次安倍政権で官邸等勤務した経験があるが、政権運営としてもっとも重要だったのは、国民に職を与えられるかどうかだった。
雇用の増加は、自殺率の低下、強盗率の低下、生活保護率の低下などの社会環境面での好影響にもつながり、波及効果が大きい。このため、ここさえ押さえておけば、経済だけではなく社会政策でも利点になってくる。
雇用について、筆者は就業者数のデータを注目している。これは、毎月末、総務省から公表される「労働力調査」で知ることができる。
就業者が増えていれば、経済政策運営はまず及第点だ。逆に減っていれば、かなり問題だ。この観点から見ると、下図に示すように民主党政権と安倍政権の差は歴然としている。
傾向線でいえば、民主党政権時代に50万人弱減少したが、安倍政権では逆に100万人程度増えたのだ。これに対して、民主党などは、非正規が増えたので正規でないという。まったく反論になっていない。正規でも非正規でも職があるほうが、無職よりいいのは自明だ。それに増加に転じる時には非正規がまず増える。この意味で良い方向であることは間違いない。今の政策を続けていけばいいという根拠でもある。
雇用政策は金融政策
就業者数はどのような政策によって影響を受けるのだろうか。このことが、今の日本のマスコミには決定的に欠けている。
アメリカで、マスコミは雇用問題を政府の中のどこの役所に聞いているのだろうか。かつて筆者の知人であるマスコミ関係者に聞いてみたところ、ほとんどの人が労働省と答えていた。これは間違いであり、答えはFRB(連邦準備制度理事会)だ。きちんとした法律上根拠もある。FRBの法的責務には「物価の安定」だけでなく「雇用の最大化」も書かれている。
金融政策が雇用政策であるという事実は、現代経済学の英知が詰め込まれている。だからこそ、労働経済学の大家であるイエレン女史がFRB議長になるのだ。
要するに、一番重要な雇用政策が金融政策と同義である以上、各党の金融政策を比較すれば、どの政党の経済パフォーマンスが優れているかが推測できる。
以下の表は、各政党の金融政策の比較であるが、本来雇用重視の左派政党が国際レベルから見るとお寒い状況だ。かろうじて国際レベルなのが自民党だけではちょっと政策論争しようにもできないだろう。
就業者数の比較で民主党政権と安倍政権で差が出てしまうのと同じ現象であるが、企業倒産でも両者の差は明白になっている(下図)。
それでも、民主党は、金融政策について株価を釣り上げる手段くらいにしか思っていない。現に株を持っている金持ち優遇という言い方をする。金融政策は広範な分野に効く、強力な政策手段である。金融緩和は、株価上昇も就業者増加も同時に起こしてしまう。
その証拠が、以下の図だ。これは、日経平均が6ヶ月先の就業者数をかなり予測できることを示している。
金融緩和で株価が上昇すると、半年後には金融緩和は就業者数も増やしているのだ。これは、金融緩和は、金持ちだけでなく、職のない弱者にも恩恵を与えていることを示す。
繰り返しになるが、政権運営としてもっとも重要なのは、国民に職を与えられるかどうかだ。
それは経済政策であり、同時に社会政策である。