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【総選挙2014】日本の民主主義の危機ではないか

  • 佐藤哲也 (株式会社デザインルール 代表)
  • 2014年12月12日


投票日目前になって、この選挙をどう捉えるべきか戸惑うことばかりである。

まず、争点はよくわからない。景気悪化で延期という判断は当然で支持するのだが、それならば何故17年に必ず増税すると言い切れるのか。景気に対する配慮がなくても良いスタンスなら今回増税すればいいのではないだろうか。また、アベノミクスの評価といっても、実質金融緩和の一本槍に過ぎない。それに対しても、もろもろ異論や批判があることは承知しているが、2年前の経済状況でそれ以外の選択肢はなかったと思うし、少なくとも資産価格は上昇した点は一定の評価ができる。反対している民主党は他にどんな選択肢があったというのだろうか。

個人的に安倍政権は評価できると思う第一次安倍政権以降、長い間日本の国政はねじれと不安定さに嘆いていたことが嘘のようだ。この2年間、あるいは民主党政権下、野田総理の3党合意あたりから、それなりに政治は前を向いて進んできた。地球儀を俯瞰する外交もこれまでの不安定な政治状況では成し得なかったわけで、もっと国際的な日本のプレゼンスを確保できるよう頑張ってもらいたい。

今後の長期政権を確立させるためには、作戦レベルで最適なタイミングの解散だった

ある意味、評価できる安倍政権ならではの今回の解散劇だ。肯定的にいえば安倍政権の「強さ」を表していると感じた。選挙から2年、解散する大義も争点も満足にないが、今後の長期政権を確立させるためには、作戦レベルで最適なタイミングの解散だったと思う。野党も虚をつかれて、有力な野党の一部は解散させられてしまったという点を含めて、作戦的に成功だった。あたりまえのことをあたりまえにできる強さが安倍政権にはある。

あえて今回の選挙の価値を考えると、そんな安倍政権の「強さ」に対する審判ができることなのかもしれない。民主主義という儚い理想の中で、政治本来の持つ冷酷さを体現する、そんな政権による解散だ。作戦的に成功だったということは、党利党略においては成功という意味であるが、長い日本の歴史上この選挙がどういう影響をもたらすのか? ということこそ、残り僅かなこの選挙戦で考えるべきことだと思う。

20年前の政治改革で導入された小選挙区制は、自民党に対向する野党をつくるための制度であったはずだ。2009年に一度は成功したものの、まだまだ道半ばと言わざるをえない。どちらかと言えば、自民党の独裁が復活するストーリーが透けて見えるのが現状である。どこかで設計ミスがある、と疑問に思わざるをえない。仮にもそれなりに健全な民主国家を標榜する我が国において、なぜ小選挙区制の中で一党独裁が継続するのか、その問を改めて考えてみたい。

かつての55年体制でも、自民党の長期独裁政権は成立していたが、その実態は派閥を中心とした政党内競争が行われていたことはよく知られている。つまり中選挙区制下の強い候補者と弱い政党執行部という関係で、候補者の政治的自由は保たれていたのである。表面的には自民党の独裁政権のように見えていたが、その内部では様々な派閥による権力闘争が行われていた結果、それなりに分散的な権力が存在していたと考えられる。

ライバル政党を持たない独裁政党の独裁者が誕生しうるのが今の政治のシステム

一方、21世紀の自民党独裁は違う。2005年の郵政選挙での小泉氏のように、候補者の公認権を持つ執行部が強く、相対的に候補者は弱い。つまり、政党内部での権力集中が発生しやすいシステムである。この制度は党首のリーダーシップが確保されやすいという点で、良い面もあるが、それは対向する野党が存在する場合である。扇情的に言えば、ライバル政党を持たない独裁政党の独裁者が誕生しうるのが今の政治のシステムである。

その自民党内の問題で思い出されるのは今から半年前の集団的自衛権の行使容認をめぐる出来事だ。憲法解釈のようなテーマこそ本来選挙で国民の信を問うべき争点であるようにも感じられるのだが、当時は保守的な野党の支持もあって比較的すんなり決まった印象がある(ちなみに私個人としては集団的自衛権に賛成である。ただ、その決め方の手続き論で疑問を感じている)。しかし、本来宏池会を始めとしてリベラル勢力を内包する自民党内には、様々な意見をもつ議員がいたはずである。その中で、自民党内で強く反対を唱えたのはただ一人村上誠一郎である。村上氏は愛媛2区選で当選9回目の実力者であるが、その長い政治経験がなければ、おそらく自民党内で執行部には対抗できないのではないかという印象を受けた出来事であった。

言うまでもなく、自民党は結党以来日本の戦後政治を支えてきた日本政治の主役である。その長い経験の中で、自民党の中には様々な政策的引き出しもあるし、官僚や関係団体とのネットワークも強いから、それなりの舵取りは任せてしまえば楽かもしれない。しかし、小選挙区制導入で目指した対抗勢力の確立に失敗している現状では、自民党に渡すフリーハンドは極めて大きいということもよく理解しなければならない。

その点で、健全な民主主義の確立にむけて、我々国民は息長く野党を育てていかないといけない。個人的には与党に優しく野党に厳しい政治文化であると思う。野党が調整すると野合といわれるが、もともと党内党たる派閥が強い自民党内部こそ多様性に富んでいる。また、小選挙区で勝利するためには野党間の候補者調整も必要になるため、必ずしも意に沿わない、事実上の選択肢が存在しない選挙区もたくさんある。しかし、だからといって政治に関心を持たず関与しないというスタンスでは、結果的に独裁政党の独裁者を生みかねない政治文化の助長をしていることにつながりかねないのがあられもない現実である。

結局のところ、2大政党制を標榜した小選挙区制の導入は、当初自民党にとって自らを相対化させる危険な選挙制度だったはずだ。しかし、20年経ってみて起きていることは、小選挙区制ゆえの対抗勢力の不在がもたらす、自身の絶対化による独裁の復活である。土井たか子氏のお別れの会で、「小選挙区の導入が間違いだった」とお詫びをした河野洋平氏のコメントはその意味で私には納得できるものである。

2回の総選挙を大勝利した安倍総理は、歴史的に見て名総理たる資格がある。自民党内部でも、圧倒的な求心力をもつ政権になるだろう。もちろん、政権の安定は必ずしも悪いことばかりではないが、与えられたフリーハンドはかなり強力である。それに、前述したようにいまの政治制度では、政党内部での抗争が起きにくく、かつての小沢氏のような党内改革圧力は期待することは出来ない。粛々と「強い」政権が16年参院選まで続くのを観察することになるだろう。

著者プロフィール

佐藤哲也
さとう・てつや

株式会社デザインルール 代表

72年生まれ。東京工業大学大学院修了。元静岡大学情報学部准教授。現在は大学発ベンチャーで起業中。専門は社会情報学、ネット選挙、予測市場や政治における意思決定支援システムの研究。

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