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アベノミクスの是非が問われた今回の総選挙ですが、政権交代の見通しが皆無で、共産党などの一部を除いては将来の増税自体は否定しているわけでもないという「争点なき選挙」になっています。当然、有権者の関心は高まらず、毎日新聞の世論調査(8日報道)では、投票に「必ず行く」と答えた人は65%と、前回(69%)を下回りました。政治に対する失望感、シラけた空気が漂う中、投票率低下の観測が強まりそうです。
各種の世論調査では、年金や医療、介護、子育てといった社会保障に有権者の一番関心があります。一方で、自民党は「景気回復、この道しかない」とアベノミクスの成果を前面に押し出し、逆に民主党は「今こそ、流れを変える時」、維新の党は「身を切る改革」と批判に終始しているように見えます。結局、国民からみて政策ニーズに合致した論戦となっていません。
社会保障の中で何を切って、何を残すか
そうなると、政治に特にシラけそうなのが若い世代です。毎日の調査で投票に「必ず行く」と答えた30代で55%、20代で46%。過去の投票率を勘案すれば、実際の投票率はこれを10ポイント程度は下回るでしょう。世界トップクラスの人口減少と高齢化がこのまま進めば、今の年金制度がとても持続可能ではないと分かっている。民主党政権時代に公共工事費を削減し、消費増税を決断しましたが、近い将来、私たちは「社会保障を切るか、減税にすべきか」という選択ではなく、「社会保障の中で何を切って、何を残すか」、具体的には「医療と年金のどっちを取るのか」「年金の中で何を削り、何を残すのか」という議論をせざるを得なくなります。しかしどの政党も正面切ってそのことに応えようとしないので投票に行くインセンティブが働きません。
若い世代が全員投票に行ったところで、多数派であるシニア世代の声にかき消されてしまう
そもそも、人数の少ない若い世代が全員投票に行ったところで、多数派であるシニア世代の声にかき消されてしまうことが分かっています。高齢化が進むほど、この傾向が強まり、ますます若者たちが政治にコミットしようという意欲が無くなるでしょう。見過ごせないのは小選挙区制度が、そうした状況に拍車をかけていることです。中選挙区のように複数の議席のある選挙であれば多少のポジショニングトークで差別化しても当選する可能性はありますが、小選挙区は1人しか当選できないので、できるだけ幅広い階層に訴求しなければ勝てません。いわゆる「メディアン・ヴォーター」の定理が示すように、小選挙区では中位投票者に合わせ最多得票を狙うことが最も合理的です。これでは「医療と年金のどっちを取るのか」等の"過激"で“不都合”な真実は論点になり得ません。
シニア世代の声ばかりが反映される「シルバーデモクラシー」の時代にあって、利害が対立する若者たちの政治参画を促すにはどうすればいいでしょうか。財政学の権威である、東大大学院教授の井堀利宏先生が以前から提唱する「世代別選挙区」は一つの解決法でしょう。そもそも地域ごとの選挙区というのは地域ごと、特に都市部と地方の利害が異なる中でそれぞれの代表者を出すという設計思想が根底にあります。利害の異なるグループの代表者を送り込むのが選挙区制度の目的であれば、地域だけでなく年齢で区切ることがあってもいいわけです。
『歴史の終わり』で知られるフランシス・フクヤマ氏は、米国政府が近年、議会の不毛な対立でデフォルト寸前に陥った事例等から政治制度の衰退を指摘しています。先進各国で社会の複雑化、価値観の多様化で利害の錯綜が複雑怪奇になって意思決定が鈍くなっていて日本も同様の事態に直面しつつあります。20世紀型の代議制民主主義がある種の"限界"に来ているのかもしれません。
その意味では、統治機構そのものの在り方を21世紀型に改良していくべきなのでしょう。世代別選挙区制度の導入はその一つの表れと捉えることもできます。さらに踏み込んで、都道府県から道州制に変えるような改革となれば、憲法改正も必要になります。日本で旧来型の憲法改正論議は「9条」といった安全保障の話にとどまりがちでしたが、この選挙が終わって以降、国の枠組みをどうするのか等、大局的視点に立った「新しい論憲」の始まりを期待します。