自民党は圧勝する
第47回衆議院議員総選挙は、自民党が圧勝するだろう。
改選前の衆議院は定員480議席。与党は、自民党295議席と公明党31議席を加えて326議席。過半数ラインは241議席。この圧倒的多数は、衆議院の3分の2の320議席も越えていたので、「衆議院の優越」によって思い通りの立法が可能だった。
今回の衆議院選挙では「0増5減」で定員が475議席となり、3分の2は317議席になる。趨勢が前回と大筋で変わらないとすると、2つの攻防がある。
(1)与党が「衆議院の優越」の3分の2である317議席を維持できるか
(2)自民党単独でその317議席が獲得できるか
私は、自民党単独で「衆議院の優越」を得るだろうと見ている。そうなると、自民党の歯止めとなっていた公明党の意義も失われる。公明党の「生活必需品には軽減税率を」という主張も自民党は反故にできる。
そこまで自民党が圧勝するだろうか。票の動向に関連しそうな支持政党の動向を見よう。NHKが12月1日に発表した支持政党の調査によると、「自民党が41.7%、民主党が9.6%、維新の党が1.9%、公明党が5.3%、次世代の党が0.2%、共産党が3.5%、生活の党が0.6%、社民党が0.6%、『特に支持している政党はない』が29.6%」だった。
現与党の自公の支持が多いが、「支持政党なし」も少なくない。次項でも述べるか、今回の選挙はなんのための選挙なのか国民の大半が理解していないので、当然、投票率も低くなる。仮に「支持政党なし」を抜くと自公の優位が圧倒的になる。
浮動票は各政党に流れる。低く見て3割が自民党に流れるとする。また、民主党支持の2割くらいが自民党に流れるのではないか。民主党支持者であっても経済政策としてはアベノミクスを支持する人がいるからだ。それを2割と仮定してみる。
意図的に調整したわけではないが、浮動票の流れを想定した図は、改選前の与党勢力とかなり一致する。
「選挙には関心がない」という国民の意思から、自民党が圧勝する
政党支持率は比例区の推定にはつながるが、小選挙区はそれぞれの区域の状況で異なる。それでも公明党を除けば、概ね小選挙区でも政党支持が反映するし、むしろ小選挙区では勝利党の総取り的な傾向が進み、自民党が有利になる。
まとめると、「この選挙の意味がわからないし、消費税増税に反対するわけでもないので、選挙には関心がない」という国民の意思から、自民党が圧勝するだろう。
解散の大義はある
今回の衆議院選挙をもたらす解散に「大義」はあっただろうか? 首相は、消費税のさらなる増税について国民に問うというのだが、その必要性はあったか?
私は、ない、と考えていた。なぜなら今回の増税については、消費税増税の根拠となる「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」に基づくものだが、これには当初から「施行の停止」が附則第18条として盛り込まれているからだ。
第十八条 消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成二十三年度から平成三十二年度までの平均において名目の経済成長率で三パーセント程度かつ実質の経済成長率で二パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。
2 この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第二条及び第三条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。
消費税増税の停止は、この規定を使えばすむ話である。それは行政の権限の一部だろうと私は考えていた。しかし、私は誤解していた。
「その施行の停止を含め所要の措置を講ずる」の主語は行政ではない。国会である。また「所要の措置を講ずる」とは立法を指している。参院法制局のコラム「見直し条項」に説明がある。
法律には、その附則において、「見直し条項」とか、「検討条項」というように呼ばれる条項が置かれることがあります。これは「政府は、~について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」といった形で規定され、その法律の制定時に積み残した課題やあるいは将来の状況の変化に対し、立法措置も含め適切な対応をとることを確保するために設けられる規定です。
つまり、消費税増税を停止するには、国会の審議を通して立法化が必要になるということだ。
ここで今回のような首相独走による、いわばヤケクソ的な解散の前例として、誰もが小泉元首相による2005年の郵政解散を想起するだろう。あのときは参議院本会議で郵政民営化関連法案が否決され、衆議院で押し通すこともできなくなり、首相が国民に意思を問うかたちで解散された。これを踏まえて今回の安倍首相による消費増税解散を見ると、消費税増税停止法案が国会で否決されたという経過はない。ではどういうことか?
私の推測だが、衆議院で圧倒的な勢力をもつ与党を率いる党首でありながら、安倍首相には消費税増税停止法案が国会に提出できない、という事情が国民の見えないところで発生していたのだろう。
正式な手順からすれば、安倍首相が与党を介して、消費税増税停止法案を国会に提出すべきである。しかし、与党内の勢力構造でそもそも法案提出ができないか、あるいは予期されていた来年、2015年10月に間に合わないという判断があったのだろう。
以上のように考えると、形式的には消費税増税解散に大義はない。しかし現実問題として、消費税増税停止の法案が国会に問えないとする認識に私は同意する。これしかなかったということを認めてよい。
アベノミクスで日本経済は好転する
アベノミクスは成功するか? すると私は考えている。
まず、アベノミクスとはなにか? 安倍首相は「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間の投資を引き出す成長戦略の『3本の矢』でデフレ脱却と過度な円高を是正していく」こととしている。しかし、本人がどのように主張しようが、彼がこれまで主導した経済政策が結果的にアベノミクスである。その意味では、2014年4月の消費税増税も「アベノミクス」であり、それが失敗したことは明白である。
しかし、「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間の投資を引き出す成長戦略」はそもそも消費税増税は適合しない。いずれ日本は消費税増税を実施しなければならないが、消費税法の附則第18条にあるように「名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度」でなければ、日本経済は耐えられない。今回の選挙後に本来の趣旨でのアベノミクスが推進する前提が整う。
「デフレ脱却」とはインフレ社会になるということ
アベノミクスについては3本の矢が強調されるが、根幹は「デフレ脱却」であり、そのために金融政策を基本に成長戦略が追う形になる。重要なのは、「デフレ脱却」とはインフレ社会になるということだ(過激なインフレではない)。金融政策で人為的に下げられたお金の価値に対して、物価が上がっていくので、お金を貯め込んでいると実質的に目減りする。給料や年金も微増であれば目減りする。お金を貯め込んでいると損になるから投資をしなければならないし、労働者はもっとも賃上げを要求しなければならない。
そんな社会が好ましいのかといえば、逆を考えればよい。デフレ社会であれば、お金を貯め込んでいるだけで実質に増えていき、また安定した給料や年金を貰っている人は、デフレで物価が下がる分だけ得をする。社会的に守られた人にとっては、好ましい社会であるが、そこからはずれた人や若い人にとってはきびしい。
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問題は、こうした金融政策が社会に影響し、人々が「これからインフレ社会が来る」ということを前提に経済活動をするまでの変化には時間を要することだ。4年くらいの道のりだろう。次期安倍政権が終わるまでに、その兆候が見えるかというくらいの時間がかかる。
では結局、私たちは何が選べるのか?
私たちはこの選挙で何が選べるのだろうか? 実はほとんどない。
イデオロギー的な問題に関われること自体、デフレ下で切迫した生活にある人にとっては、生活からかけはなれた趣味
この選挙の争点はアベノミクスではない、という主張もある。例えば、「特定秘密保護法」「原発再稼働」「集団的自衛権」が争点だという主張もある。それはそれでよいだろう。しかしおそらくそれらは、日本の市民社会の潤沢さを守るという意味で、守られる潤沢さの条件である「デフレ脱却」に依存している。偽悪的な言い方をすれば、イデオロギー的な問題に関われること自体、デフレ下で切迫した生活にある人にとっては、生活からかけはなれた趣味に近い。あるいは、「デフレ脱却」の手法と合わせて問われるべきものだろう。
そういう観点で現在の野党を見たとき、実質的に選択の余地がない。自民党に劣ってすらいる。民主党内にも「デフレ脱却」のためのマクロ経済に詳しい議員もいるし、解党したみんなの党もそれに近かった。しかし選挙の選択肢としては上がってこない。
問題はおそらく、アベノミクスの表層的な成功の裏で始まる。例えば、アベノミクスの成功に並行して、税の捕捉と社会保障のための国民番号制が実施される。それをどのように実施するのが私たちの社会にとって好ましいのか、そのことについて私たちはプランを持つべきだろう。その意味では、現下のイデオロギー的な対立よりも、20年先の日本社会を見渡せる議員が一人でもいてほしい。もし自分の選挙区にそういう若い芽がいたら、現在の1票の信託よりも、今後の選挙の活動を通して育てるようにしたい。