ポリタス

  • 視点
  • Photo by Dick Thomas Johnson (CC BY 2.0)

国会議員の質問力

  • 上西充子 (法政大学キャリアデザイン学部教授)
  • 2019年7月18日

実際の国会質疑に注目した中での発見

筆者は2018年6月から、国会パブリックビューイングという取り組みを行ってきた。国会審議を実際の「やりとり」の形でそのまま切り取って解説つきで街頭で上映するものだ。

ツイッターアカウントは @kokkaiPV
YouTubeの国会パブリックビューイングのチャンネルに街頭上映映像あり

この取り組みを始めたのは、労働時間規制の強化と緩和を抱き合わせで盛り込んだ働き方改革関連法案の国会審議に問題意識を持ったのがきっかけだ。2017年の労働政策審議会の傍聴から関わり始め、2018年1月からは、国会における関連質疑をできるだけインターネット審議中継で追うようにしてきた。

野党の国会議員には、わかりやすく語る能力も大事だが、緻密な追及によって情報を引き出す能力や、答弁を引き出して確実に言質を取る能力も大事だ

その中でわかったことは、野党の国会議員には、わかりやすく語る能力も大事だが、緻密な追及によって情報を引き出す能力や、答弁を引き出して確実に言質を取る能力も大事だということだ。

社会の課題を訴え、世論を喚起する。政府が出してきた法案の問題を広く世に伝え、成立を阻止する――そういうときには、わかりやすい語り方や、心情に訴える語り方が効を奏する。しかし、国会議員の日常業務である国会審議では、別の能力があわせて必要となる。

不誠実な答弁姿勢にいかに切り込むか

表向きは「丁寧に説明したい」と言いつつ、その「丁寧な説明」とは、何を聞かれても同じ説明を繰り返すことだったりする

切り貼り編集されたニュースではない実際の国会審議をインターネット審議中継で見ればわかる通り、政府は問題の多い法案の質疑において、のらりくらりと野党の追及をかわそうとする。表向きは「丁寧に説明したい」と言いつつ、その「丁寧な説明」とは、何を聞かれても同じ説明を繰り返すことだったりする。

「朝ごはんは食べたのか」

「ご飯は食べておりません(パンは食べたけど、それは黙っておく)」

筆者が朝ごはんをめぐるやり取りにたとえたように、このようなわかりにくい形での論点ずらし(ご飯論法)も、頻繁かつ意図的に行われている。そうして審議時間だけを積み上げて、数の力で強行採決に持っていこうとする。

そんな不誠実な国会答弁と国会運営が行われている現状において、野党の国会議員には、緻密な追及によって情報を引き出す能力が必要になる。漠然と問うた質疑に対して、相手は丁寧に情報提供してくれたりはしないのだから。

緻密な追及で情報を引き出す

例えば2018年の通常国会で働き方改革関連法案から裁量労働制の拡大が削除されたが、これは野党各党の議員が連携して追及を深めていった結果だった。厚生労働省の調査によれば裁量労働制の労働者の方が一般の労働者よりも労働時間が短いという安倍晋三首相の答弁の根拠を求める中で、集計データに説明のつかない値があったことを手がかりに、立憲民主党の長妻昭議員や希望の党(当時)の山井和則議員らが、データに関する質疑を重ねていったのだ。

安倍首相が答弁を撤回した2018年2月14日の衆議院予算委員会で、安倍首相と加藤勝信厚生労働大臣(当時)は、精査が必要なデータであるとして答弁を撤回。データの不適切さを認めるわけでもなく、なおも精査中との言い訳を続ける中で、立憲民主党の枝野幸男代表は、「どういう精査をしたんですか」と問うた。それに対し、加藤厚生労働大臣は「今、その個々のデータ、約1万を超えるデータがございますので、そのデータの一つ一つにあたらせていただいております」と答弁した。

枝野代表はその言葉を聞き逃さず、「いい答えを一ついただきました」「データは全部残っているようですね」「そのデータを出してください」と要求。加藤厚生労働大臣は、調査票はなくなっていると答弁していたが、答弁で言及してしまった以上、残っている電子データを部分的に開示せざるを得なくなり、その電子データを野党議員らが仔細に吟味。すると、説明のつかない異常値が次々と見つかることとなった。そして、新たに調査をやり直して労働政策審議会に議論を差し戻すことを野党は求め、政府は裁量労働制の拡大を法案から撤廃せざるを得なくなったのだった。

答弁を引き出して確実に言質を取る

さらに、答弁を引き出して確実に言質を取る能力も大事だ。例えば、労働時間規制を適用除外し、残業代を払わずに労働者に長時間労働を求めることを可能とする高度プロフェッショナル制度の導入をめぐって、国会質疑で歯止めをかけた例を見てみよう。

高度プロフェッショナル制度を対象労働者に適用した場合、月に4日間さえ休ませれば、その他の日は連日にわたり24時間ずっと働かせることが法律上はできてしまうではないかと、日本共産党の小池晃議員は2018年3月2日の参議院予算委員会で問うた。それは、条文を読み込む中で見えてきた問題点だ。

加藤厚生労働大臣はのらりくらりとかわし、小池議員は「答えていない」「イエスか、ノーかで、はっきり答えてください」と何度も明確な答弁を求めた。そのような働かせ方を排除する規定は法案にないことを加藤大臣がようやく認めたのは、速記が止まる数回の質疑の往復のあとだった。しかし、加藤厚生労働大臣は、かわしつつ時間をつぶす過程で、そういう働き方は「法の趣旨」に合わないこと、そして法の趣旨を踏まえた指針を作っていくことを答弁していた。

この質疑を引き継ぐ形で、2018年6月5日の参議院厚生労働委員会では、日本共産党の吉良よし子議員が、高度プロフェッショナル制度の対象となりうる金融アナリストの方への独自のヒアリング結果を紹介。朝会に毎朝、出席しなければならないなど、自律的な働き方とは言えない実態があることを指摘し、そのような業務は高度プロフェッショナル制度の対象とはならないことの確認を求めた。これに対し、加藤厚生労働大臣は、省令で業務を規定する際に時間配分について制約を受けない旨を規定していくことを考えていると答弁した。小池議員に対する答弁内容との整合性を取ることを迫られた答弁だった。

こうして国会答弁で担当大臣から言質を取ったことにより、法成立後の省令においては、対象となる業務を規定する際に、対象業務に従事する時間に関し使用者から具体的な指示を受けて行うものは含まれないとの文言を盛り込ませることができ、高度プロフェッショナル制度が幅広い業務に適用される事態を、制度的に防ぐことが可能となった。


Photo by OIST (CC BY 2.0)

参議院の野党議員に求められる地道な質問力

このように、緻密な追及によって情報を引き出したり、答弁を引き出して確実に言質を取ってそれを省令や指針に生かしたりするためには、取り上げている問題に対する深い理解、法や制度に関する深い理解、そして、論理的な追及力が必要になる。限られた質疑時間の中での、臨機応変な対応力も必要になる。

特に参議院の場合は、衆議院を通過してしまった法案にいかに省令や指針、付帯決議などで歯止めをかけることができるかの力量が野党議員には問われる。地道な国会質疑を野党議員が積み重ねていることや、彼らがそこでどのように質問力を発揮しているかは、実際の国会審議を継続的に見ていく中でこそ、見えてくるものだ。

現職議員であれば、その候補者がこれまでどのようなテーマで質疑に立ち、情報を引き出したり言質を取ったりするためにどのような問い方をしてきたか

今回の参議院選挙で選挙区と比例代表の2票を投じる際には、現職議員であれば、その候補者がこれまでどのようなテーマで質疑に立ち、情報を引き出したり言質を取ったりするためにどのような問い方をしてきたかを、国会会議録のネット検索やインターネット審議中継などで、一度、見ていただきたい。また、新人候補であれば、どのようなテーマを担おうとしているのか、また、そのテーマについて上記のような質問力を高めていけそうかという観点も、念頭に置いてみてはどうだろうか。

新人候補であれば、どのようなテーマを担おうとしているのか、また、そのテーマについて上記のような質問力を高めていけそうか

著者プロフィール

上西充子
うえにし・みつこ

法政大学キャリアデザイン学部教授

1965年生まれ。法政大学キャリアデザイン学部教授・同大学院キャリアデザイン学研究科教授。国会パブリックビューイング代表。近著に『呪いの言葉の解きかた』(晶文社、2019年)。2019年2月26日に衆議院予算委員会中央公聴会にて、統計不正問題につき、意見陳述。

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