◆沖縄県知事選の争点と構図
全国的に注目される沖縄県知事選が間近に迫った。今年行われた滋賀県知事選、福島県知事選に次ぐ、日米両政府や霞が関、永田町にも多大な影響を与える重要選挙だ。特に今回の県知事選は辺野古に近代装備を備えた新基地ができるかどうか、県民意志を問う最後のチャンスでもある。
沖縄県知事選には4人の候補が出馬している。仲井真弘多前知事は昨年末の仕事おさめの日に辺野古の埋め立てを承認した。公約を破棄しての「転向」である。県民の7割以上が新基地建設には反対であることからもわかるように、埋め立て推進派の仲井真氏は不利な選挙戦を強いられている。それでも、自民党や官邸、霞が関が総力をあげて支援している。いわば、日本国と沖縄県の戦いでもある。辺野古に新基地ができれば耐用年数200年といわれており、「沖縄の基地負担軽減」どころの話ではない。明らかに基地機能の強化である!
仲井真前知事は、普天間基地の5年以内の閉鎖を求めているが、在日米軍の最高司令官は「夢みたいな話」と一蹴している。安倍政権や政府も米国側と交渉している事実はなく、あくまでも県知事選向けのエサであることは明白だ。
仲井真前知事の有力な対抗馬は、前那覇市長の翁長雄志氏だ。もともとは自民党沖縄県連の幹事長を勤めたり、前回の県知事選では仲井真氏を応援してきた保守系の候補だ。しかし、仲井真氏とは埋め立て承認以降は一線を画し、建白書を政府に提出したり、辺野古新基地建設やMV22オスプレイ配備にも反対している。そのため、今回はオール沖縄の県民党の立場を鮮明にしている。これまで野党系といわれた社民党、沖縄大衆党、日本共産党、生活の党などの支援を受け、自民党那覇市議の除名組から金秀グループやかりゆしホテルグループなどの経済界の支援も受けている。沖縄は長い間、保守対革新の一騎打ちの構図が続いてきたが、今回は保守の分裂である。中央政府と対抗するためには、沖縄県民が一致団結するこでしか活路は見いだせないという動きでまとまったのである。他に、辺野古新基地建設を県民投票で決めるべきと主張する下地幹郎元衆議院議員や辺野古埋め立て承認の撤回を主張する喜納昌吉も立候補しているが、官邸が極秘で進めている世論調査でも翁長有利は動いていない。
◆沖縄県知事選の結果が安倍政権にもたらすもの
問題は保守、革新、経済界でまとまった今回の県知事選に勝利して以降の沖縄政界の勢力図である。これまでの県知事選は基地か経済かという二項対立だった。こうした分裂選挙は時の政権を利するだけだった。沖縄県民にとっては基地の負担軽減と経済の活性化はともに両立できるものだ。今回の県知事選に勝利することで、沖縄の生きる途が見えてくるのではないか。その意味では今回の県知事選は岐路であり、その試金石にもなるのではないかというのが筆者の見立てである。
ここにきて安倍政権と官邸筋は年内解散総選挙を打ち出している。消費税増税、特定秘密保護法、原発再稼働、集団的自衛権行使などは国民世論も二分している難題だ。女性閣僚二人の辞任にもかかわらず、閣僚クラスの政治とカネの問題は続発している。第一次安倍政権が閣僚のドミノ倒しのような迷走を続けたあげく、安倍総理は潰瘍性大腸炎で退陣した。安倍総理の脳裏にはこの時の記憶が鮮明に記憶されているはずだ。第二次改造内閣で失点を重ねた安倍総理にしてみれば、長期政権に向けて仕切り直すにも、今がチャンスとも思いもあるのではないか。解散しても野党がバラバラのうちに総選挙をやれば、大負けすることはないという判断もあるはずだ。
重要なことは、安倍政権がすでに沖縄県知事選での敗北を見込んで先手を打っているということだ。敗北のショックを薄める作戦だ。その意味では11月16日は安倍政権と日米運命共同体の命運も左右する歴史的な県知事選でもある。