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【沖縄県知事選】いま求められる「沖縄の尊厳」とはなにか

  • 藤井誠二 (ノンフィクションライター)
  • 2014年12月3日


【撮影:初沢亜利】

◆沖縄への「裏切り」が大差の選挙結果をもたらした

沖縄知事選の直前に沖縄の友人や知人の何人かと連絡を取り合っていた。彼らは支持政党もなく、政治には無関心という、いわゆる「浮動票」的な人達で、前回の知事選は経済政策を優先する知事に入れたという。が、今回だけは逡巡し、翁長氏に投票したと皆が口をそろえた。だから、相当の差がついて翁長氏が勝つのではないかと私は予想でき、蓋を開ければ、やはりそのとおりになった。沖縄の「保守」が分裂し、「保革」の壁が溶けたようなかたちで繰り広げられた選挙戦は元那覇市長の翁長雄志氏の圧倒的勝利で終わった。「辺野古」をめぐる争いに10万票の差がついたことは日本政府も、もちろんアメリカも無視をしてはならない。

友人・知人たちと話していて感じたことは、彼らの怒りは「仲井真弘多」という個人に向けられたことだ。県選出の沖縄国会議員が自民中央に跪かされ、それと歩を合わせるように仲井真氏が「転び」3000億円以上の交付金の約束させ「これでいい正月が迎えられる」とのたまった「仲井真弘多」という個人をどうしてもゆるすことができないということだった。そういう怒りが「浮動票」を翁長氏に向けさせた。仲井真氏が悪びれることなく、何の釈明も説明もなく、再び知事に立候補してきたことに対して憤りは彼らだけではなく、広く沖縄で共有されたのだと思う。沖縄はカネで転ぶと思われても仕方がないような仲井真氏の振る舞いに対する、恥ずかしさと悔しさが入り交じった感情だという。


【撮影:初沢亜利】

だから、もし自民党が支持した候補者が仲井真氏ではなく、別な人物であったのなら、仮に翁長勝利であったとしても票差は今回ほどつかなかった可能性もあるし、五分五分の可能性もあったのではないか。仲井真元知事の公約違反という沖縄への「裏切り」に対して釈明を加えながら、それでも苦渋の選択を訴えたならばどうだったのだろう。

そもそも、しゃあしゃあと仲井真氏が立候補しても負けることは、彼を「転ばせた」当の自民党幹部たちが何よりわかっていたことだ国会議員を屈伏させた石破幹事長は仲井真氏に立候補を思い止まるように説得したが、聞き入れられなかったことはすでに大きく報じられている。仮に仲井真氏が不出馬をのんだとしても、他に妥当な候補者がいたかどうかもわからないし、票田の那覇に強い、沖縄自民党県連の元重鎮たちの多くは翁長氏についてしまっていたから、時すでに遅しだったのだが。

◆大田元知事が見ていた沖縄の未来

私は保守政治家の翁長氏の言動や、氏の勝利の様からずっと連想していたのは、いまなお沖縄の「革新」勢力のカリスマである大田昌秀元知事である。昨年末に仲井真知事が埋め立て容認をおこなったとき、大田昌秀元知事は、沖縄はカネをつめばなんでも言うことを聞くと全国に受けとられてしまうと嘆いた。1990年1994年の知事選挙で大田昌秀氏が選ばれ、長らく沖縄は「革新」県政だった。1990年時では3万票差だったが、1994年の知事選では12万票という大差で大田氏は勝利している。大田氏はさまざまな彼ならではのプランを打ち出し、軍用土地強制使用手続きの代理署名拒否や、「米軍基地整理・縮小」や「地位協定の見直し」についての県民投票(結果は48万票が賛成、4万票が反対という圧倒的な差がついた)、基地返還後のプランなどを次々に打ち出した。米軍基地負担に苦しむ県民たちからすれば、「保守」も「革新」も関係なく「希望」ベースの大田氏の政策に期待をしたはずだった。


【撮影:初沢亜利】

当然、政府からの締めつけで沖縄経済は下降し、経済界から引きずりおろされるようにして1998年の選挙で稲嶺恵一氏に破れるのだが、それでも4万票しか差がつかなかった。私は2期目の13万票差という数字や、負けても4万票差という数字を重視するべきだと考える。それは「希望」べースの具体的政策に加え、「ヤマト」やアメリカに毅然とモノを言う、大田氏の「沖縄の尊厳」を貫く姿勢が沖縄県民に評価されたと思うからだ。政界引退後の大田氏にインタビューさせていただいたことが2度ほどあるが、政策や「闘い方」のアイディアの塊のような方という印象を強く受けた。「沖縄の尊厳」を政策というかたちにして、「ヤマト」やアメリカと渡り合う知恵を出し、さらにそれらを県民に理解してもらうためにはどうしたらいいかということを一貫して練り続けておられるのだった。


【撮影:初沢亜利】

◆翁長氏圧勝の背景にあるもの

翁長氏の辺野古に新基地をつくらせないという主張は「革新」的なにおいがするが、政治的スタンスは大田氏とは違う。翁長氏は日米関係を根本的に見直して、沖縄からすべての米軍基地は出て行けと言っているわけではなく、辺野古の自然を守ること、米軍基地を「内地」も相応に負担してほしいということを訴えていた。新基地はつくらせないという意思は表明しながらも、方法は具体的には提示しなかった。守れない約束はしないという、ぎりぎりのラインで彼は発言を続けていたのだと思う。彼は沖縄の自民党のど真ん中を歩き続けてきた真正保守政治家だ。

しかし、何よりも沖縄はカネでなびくというふうに思われている状況を変えたいという、まさに「沖縄の尊厳」に訴えかける翁長氏の言葉が県民に届いたのだと思う。真の保守とは親米とか中央=補助金に尻尾をふることではなく、郷土を守り、県民の尊厳を守るためこそある。そのまっとうな考え方が氏の「沖縄のアイデンティティー」という言い方になったのだと思うし、それは政治イデオロギーこそ違えど大田氏が貫こうとした「沖縄の尊厳」とつながるはずだ。


【撮影:初沢亜利】

ネガティブキャンペーンは双方に見られたが、仲井真氏側が苦し紛れに打ち出した「内地」から有名評論家を招き、デマ情報をもとに翁長陣営を攻撃したことに嫌気がさした人も多いだろう。在沖縄のヘイトスピーチ団体(個人に近いと思われるが)や、辺野古などに大挙して押し寄せたネトウヨ団体のヘイトスピーチも、「仲井真に入れたら沖縄はどうなってしまうのだろう」という沖縄の人々に危機感を抱かせたに違いない。


【撮影:初沢亜利】


【撮影:初沢亜利】

◆試される翁長新知事、試される沖縄

仲井真元知事は昨年末に辺野古沿岸部の埋め立てを承認し、工事はすでにはじまっていて、国は年度内にも埋め立てを始めたいと考えている。翁長氏は就任後すぐに仲井真氏の承認の経緯を検証するだろう。そして瑕疵があれば撤回や取り消しに動く。しかし瑕疵がない場合は、行政法の専門家たちの間ではひっくり返すの極めて難しいという意見が強い。国相手の裁判闘争になっても、瑕疵がないとすればとうぜん不利な条件となってくる。翁長新知事が国に協力しないのであれば、とうぜん埋め立て工事は停滞することになる。


【撮影:初沢亜利】

今後、政府からのすさまじいプレッシャーがかけられる中で、翁長新知事も仲井真元知事のように公約を変えるのではないかと思っている人は少なくないと思う。一方で普天間基地の固定化とも闘わねばならない。その茨の道をどれぐらいの人々が関心を持って共に歩んでいくか。翁長カラーをどれぐらい具体的に打ち出して、そこに参加していける仕組みをつくっていくか。党派や政治イデオロギーにのっとられることのない、知事と車座で議論できるような「場」がつくられることを期待したい。その「場」が翁長氏に一票を投じた人々をつなぎとめる機能を果たしてほしい。

師走に衆議院選挙がおこなわれる。10万票の差は重たく、選挙のときは「仲井真派」だった首長たちは真正面から翁長批判をすることを避け、お手並み拝見といった姿勢に転じている。しかし、宜野湾市や浦添市など人口が多い自治体の長が仲井真氏の応援団として態度を表明したことは事実上、「建白書」=オール沖縄は崩れてしまったことになる。無理にノーサイドとしたら、県民は混乱するだけだ。「建白書」が元の鞘におさまることは困難だろう。禍根を残したまま、自民党は辺野古問題のことを口にできず選挙戦が繰り広げられる。野党が批判するアベノミクスの恩恵を受けている実感が最もない地域が沖縄だと思うが、沖縄の人々が衆議院議員候補者のメッセージをどうとらえるのか注視したい。

著者プロフィール

藤井誠二
ふじい・せいじ

ノンフィクションライター

1965年愛知県生まれ。 『大学生からの取材学』、『アフター・ザ・クライム──犯罪被害者遺族が語る「事件後」のリアル』、『殺された側の論理』、『「壁」を越えていく力』、『体罰はなぜなくならないのか』など、著書・共著書多数。

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