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【沖縄県知事選】沖縄の若者と「政治」との距離

  • 河野嘉誠 (ライター)
  • 2014年11月15日

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10月31日から11月3日まで沖縄を取材し、大学等に足を運んで若い世代の意見を聞いた。日本の選挙は概して老高若低の傾向があるが、沖縄もその例外ではない。沖縄県の資料によると、2010年の前回知事選における20歳から24歳の投票率は38.4%で、年代別で最も低くかった。

各選対関係者は「若者の取り込みは課題」と口を揃えるが、何らかの結果を出せているとは言い難い。

いま沖縄で、若者と政治の間に距離があるのはなぜなのか——インタビューを通して見えてきた、若者の姿をリポートする。

◆普天間の高校生

総面積480ヘクタール、東京ドーム約103個分の広さを持つ普天間基地は、宜野湾市の中心部を楕円形にくり抜いたようにして存在している。沖縄戦の最中に米軍によって接収されるまで、この土地には佐真下・宜野湾・神山・中原・新城といった字(アザ)があったという。

飛行場の入り口周辺、国道330号線沿いに張り巡らされた高さ2メートルほどのフェンスには、赤・黄・白のカラーテープで作られた「出て行け」「NO BASE」などの文字が踊る。基地内の米兵に向けてか、鏡文字になっているものもあった。

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フェンスの前ではメガホンを持った人のかけ声に合わせ、15人程の中高年が拳を突き上げている。毎朝抗議活動をしているという60代の男性は、「建白書の精神が重要だ」と語った。

基地沿いの道路で写真を撮っていると、向こうから制服姿の男子高校生が歩いてきた。半袖の開襟シャツに黒いズボン、灰色のショルダーバックを肩から下げている。明日から11月だというのに、沖縄の気温は26℃まであがっていた。ブレザーやカーディガンはまだはいらない。

声をかけてみると、市外の高校から帰ってきたところだという。受験生だという彼は、飛行場に隣接するアパートに住んでいた。

「僕らは上の世代に比べると全然で、知事選とかはわからないです。近所には反対運動している人もいますね。両親からは、日米安保がどうとか聞いたことはありますが、基本は生活重視なので。友達と飛行機が落ちた時は危ないという話をしたことはありますけど」

アパートの屋上から滑走路が見えるというので、案内してもらうことにした。彼に続き、肌色の塗装がところどころ剥がれ落ちたアパートの階段を昇りきると、5メートル四方の屋上に出た。

「通った小学校は基地周辺でした。朝から昼にかけて5回くらい飛行機がきたこともありましたね。授業中に来るとうるさいなと思いましたが、慣れてしまいました」

鬱蒼と生い茂る木々の向こう側に、夕日に照らされた滑走路がまっすぐ伸びていた。赤い航空ランプが4つ、一列に並んで光っている。飛行機が上空を通過し、ブーンという轟音が鳴り響いた。

「いまのは普通の飛行機ですから、たいしたことないんですよ。戦闘機だと窓を閉めてても机がガタガタ鳴ったりするんです。オスプレイだからどうというのじゃなくて、戦闘機はうるさいですね」 

「僕の家は二重窓とかクーラーの防音対策をしてもらっていますが、同じ地域でもしてもらえない家があるそうです。そういうのは問題かなと思います。沖縄はユニークだから、危険性なんかよくわからないまま基地があるという感じは少ししますね」

基地の方面から、子どもたちの元気な声が聞こえてきた。ゲート4エリアの市民グラウンドで、少年野球の練習がおこなわれているのだという。

階段を下りたところで、高校生にお礼を言った。

「いえいえ。僕も暇だったんで」

でも、受験生は忙しいはずだ。

「沖縄の受験生はこんなもんですよ」

彼はいたずらっぽく笑い、「じゃあ」と言って自宅へ帰っていった。

◆北中城村の大学生

もともとは基地に反対だったという北中城村に住む大学生のS君(18)は、複雑な感情を吐露する。

「県民がどんな声を上げても、移設は強行されてきました。過激な暴動などに発展する前に、容認してしまう方が平和なんじゃないかと感じています。若い世代は基地の危険性よりも、過激な反対運動の様子に目がいってしまって、基地問題をなかなか受け入れられないんじゃないですかね」

沖縄に来て複数の学生にインタビューをした。だが、その中に「知事選に関心がある」と答えた者はいなかった。理由を聞いてみた。

「基地は選挙でどうにかなる問題ではない——」

「誰が知事になっても同じ——」

彼らの知事選への無関心は、政治への無関心ではなく、沖縄をめぐる政治状況そのものに対する忌避感なのだろう。

その一方で「基地問題を他人事のように扱っている」として本土世論に対する不信感を露にする声もあった。本土世論は基地問題を沖縄のローカル問題として矮小化する。沖縄の若者はこのことを肌で感じており、だからこそ彼らにとってメディアの描く対立構造や政治家のスローガンには実感が伴わないのだ。

新卒内定者率が70%を切るなど厳しい雇用状況がつづく沖縄だが、多くの学生が県内での就職を希望していたのも印象的だった。政治も、メディアも、沖縄の若者たちの達観した視野からしてみれば偏狭的過ぎるのかもしれない——沖縄の若者の選挙への関心が高まらない理由はこの辺りにありそうだ。

著者プロフィール

河野嘉誠
かわの・よしのぶ

ライター

1991年東京生まれ。私立武蔵高校卒業、早稲田大学政治経済学部に在学中。東京都知事選、台湾・ひまわり運動などにおいて若者の政治活動をテーマに取材。THE PAGE(ザ・ページ)などに寄稿している。

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