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【沖縄県知事選】オスプレイと在沖海兵隊は「御守り」にすぎない

  • 佐藤学 (沖縄国際大学教授)
  • 2014年11月16日

◆在沖海兵隊が軍事的抑止力と言うけれど

今回の沖縄県知事選挙の中心的な争点は、米海兵隊普天間航空基地の移転先を県内・名護市辺野古とし、新たな基地を造るか否か、である。言わずもがなのことであるが。辺野古新基地建設が必要とされている理由は、中国の軍事的脅威の増大に対し、在沖海兵隊が「軍事的抑止力」であるため、とされていることも、改めて言う必要がない。更に、「革命的な新兵器」オスプレイMV–22が、長い航続距離・高い巡航速度で、尖閣諸島での対中国軍事衝突に参戦するという期待が、日本政府の高圧的な辺野古新基地建設の背景にあることは明らかだ。

◆オスプレイは革命的新兵器なのか:「南スーダン・ゲリラ銃撃・撤退事件」

オスプレイが尖閣での戦闘に加わる、離島防衛とか離島奪還とかの軍事作戦に、沖縄島から飛んで行くという作戦はない。その「事実」は、どれだけ知られているだろうか。

アフリカで3年前に独立した南スーダンで、昨年12月、新たな内戦が激化し、反政府ゲリラが支配する地域に米国人が取り残された。その救出に、米空軍オスプレイCV–22が3機向かい、反政府ゲリラの小銃に撃たれ、乗員4名が負傷、内2人が重傷を負い、救出作戦を中止し、撤退した。(この事件については、The New York Times, “Attacks on U.S. Aircraft Foils Evacuation in South Sudan”, 12.21, 2013およびThe New York Times, “Americans Evacuated from South Sudan”, 12.23,2013を参照して下さい)

救出作戦は、後日、反政府ゲリラに話を付けて、攻撃しない約束を取り、国連と民間の通常のヘリコプターをチャーターして完了した。

南スーダンの反政府ゲリラの小銃に追い払われる機種が、どのように中国軍と戦争出来るというのか。

この南スーダン銃撃・撤退事件には後日譚がある。オスプレイの脆弱性に懲りた米空軍は、オスプレイの装甲強化と火器搭載を計画しているという。しかし、搭載能力の低いオスプレイに、これらの改装を加えると、重量が増加し、飛行に支障が生じる。そのために、エンジン製造会社のロールス・ロイス社が、エンジン出力の増強をする、ということまで必要とされ、その予算の確保が問題となっている。(空軍オスプレイの改装についてはUS Air Force Special Ops Looks To Add Armor, Firepower to Ospreysを参照して下さい。この他、US Air Forces Osprey Added Armorで検索すれば、関連報道記事が見付かります)

もし、オスプレイを尖閣での戦闘に飛ばす意図があるならば、在沖海兵隊のオスプレイが真っ先に改装されねばならないが、海兵隊オスプレイの装甲強化・火器搭載という話は出ていない。それは、在沖海兵隊には、尖閣での戦闘に加わる意思も作戦も元々ないからである。海兵隊オスプレイは、地上兵員輸送機なので、搭載量を削ぐことが出来ない。ちなみに空軍仕様と海兵隊仕様は、同一機体である。念のため。また、機体の小さいオスプレイには、陸上自衛隊のパジェロ改造の小型トラックが積めない。

◆辺野古とオスプレイの「本質」

オスプレイは、搭載能力不足と脆弱性のために、商売として頼みにしていた陸軍が採用しなかった。今、日本中でオスプレイを飛ばしているのは、日本へのセールスのためのデモである。

海兵隊は、今後の米国戦略での必要度が低く、予算確保に苦しんでいる。兵員は大幅に削減され、老朽化している普天間飛行場の、本来の代替施設であるはずのグアムの基地整備に、米国議会は予算をほとんど付けていない。辺野古新基地建設は、自国政府の中では予算を取れない海兵隊が、既得権を維持するために、日本政府・日本国民を謀って、日本の税金で新たな基地を獲得しようとしている企てなのである。また、ボーイングとベルが、商売になっていないオスプレイの売り込み先として、自衛隊に買わせ、更に自衛隊に、海兵部隊の戦闘を教えるという海兵隊の新商売込みのパッケージ商法を展開しているのが、辺野古とオスプレイ配備の本質である。

海兵隊が、敵地に侵攻して、橋頭保を築くという、本来の作戦を行ったのは、1950年朝鮮戦争仁川上陸作戦が最後である。海兵隊は、空軍・海軍が敵を叩いた後での占領に行く、「第二陸軍になった」と批判したのは、ロバート・ゲイツ元国防長官本人である。(この2010年の演説書き起こしは、国防総省サイトで読めます)

在沖海兵隊も同様で、作戦遂行には、オスプレイと兵員を、佐世保米国海軍基地所属の強襲揚陸艦ボノム・リシャールに搭載して、上陸展開する近くまで持っていかねばならない。だから、沖縄にオスプレイを置いても、「尖閣に近い」などという軍事的意味はない。

◆まともな安保政策議論を

沖縄に、「実体は何だか分からないが、勇猛果敢だという海兵隊と、凄い新兵器らしいオスプレイを置いておけば、中国が攻めてきても大丈夫」という、御守りを買うようなことは止めたらどうか。1兆円近い金をこんなことに注ぎ込むのは、間抜け極まりないことではないか。

辺野古を造らなくとも、軍事的抑止力としての米空軍嘉手納飛行場は存続する。嘉手納閉鎖・返還は、政治的要求・日程には全く上っていない。その嘉手納だけで、飛行場と弾薬庫の合計面積が、沖縄県外の主要米軍基地全ての合計面積の1.7倍ある。(嘉手納=46.3キロ平方メートル⇔ 横田+厚木+三沢+横須賀+佐世保+岩国=27.3キロ平方メートル)さらに、沖縄島(沖縄本島)には、その嘉手納の3倍の面積の海兵隊基地・施設がある。全ての基地が集中する沖縄島の面積は1208平方キロメートルで、浜松、静岡等、日本の13の市は、一つの市だけでこれよりも面積が大きい。また、日本の半分以上の24都道府県は、沖縄島の5倍以上の面積がある。

「過重な負担」の意味がお分かり頂けるだろうか。そのたった一つの航空基地を返還するのに、なぜ新たな基地建設が必要なのか。それも、日本政府・日本国民の期待するような機能を持たない海兵隊とオスプレイのために。

知事選挙結果がどうであれ、日本国民には、辺野古という1兆円の御守りの中には木端しかない「事実」「現実」に、気付いて欲しい。もし、辺野古新基地建設に反対する沖縄県知事が誕生したら、それは沖縄県民の我儘勝手ではないのだ。あなたたちの税金の話なのである。

著者プロフィール

佐藤学
さとう・まなぶ

沖縄国際大学教授

1958年東京生まれ 早稲田大学政治経済学部、同大学院政治学研究科博士前期課程、ピッツバーグ大学政治学大学院を経て政治学博士(中央大学)、ピッツバーグ大学他米国2大学で非常勤講師(1987年ー1998年)、2002年より現職。著書(単著)『米国議会の対日立法活動』『米国型自治の行方』(共著)『沖縄論 平和・環境・自治の島へ』『普天間基地問題から何が見えてきたか』(雑誌)「オスプレイは尖閣には飛べない」(『世界』2013年10月号)「オバマは何を「約束」したか」(『世界』2014年7月号)など。

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