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世界中のギークが立ち上がった!――放射線測定プロジェクト「Safecast」

  • 香月啓佑 (「ポリタス」記者/一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)事務局長)
  • 2015年3月21日

東日本大震災、そして福島第一原発事故から4年。原発事故のあと、われわれは日常的に「放射線」という存在と向き合わざるを得なくなった。

シーベルト、ベクレル、グレイ。アルファ線、ベータ線にガンマ線――。原発事故直後、昼夜問わず開かれる記者会見では事故を起こした原子炉から漏れている放射線量が淡々と発表されていた。しかし、なじみのないその単位や数値が危険なのかどうか。それすら、われわれにはわからなかった。

発表されるデータが原発周辺の数値に集中していたことも不安を増大させた。報道される地域以外に住んでいる場合、自分の生活する空間の放射線量がどうなっているのかはまったくわからなかった。震災直後は自分で身の回りの放射線量を計測しようと思っても、ガイガーカウンターを手に入れることすら難しかった。

震災から4年が経過したいまも、約12万人が原発事故による避難生活を余儀なくされ、そのうち約4万7000人は県外で暮らしている。避難区域は現時点での空間放射線量によって「避難指示解除準備区域」「居住制限区域」「帰宅困難区域」と3つに区分されており、これが賠償金額の多寡をももたらしている。放射能は福島第一原発周辺の地域コミュニティをズタズタに分断した。

事故現場では懸命な復旧作業が続いており、いまだ「収束」という言葉を使う段階にはない。日常生活で放射線という厄介なものを意識しなけらばならなくなったわれわれにとって、一番重要なものはなにか。それは放射線に対する正確な知識と、その知識を用いて冷静に判断するための放射線量データだろう。

現在、福島県原子力規制委員会などの行政機関が計測した放射線量データは、それぞれのウェブサイト上で公開されている(福島県放射能測定マップ放射線モニタリング情報)。それらのデータは事故直後に比べ測定ポイントも増え、以前より見やすい形で公開されるようになった。しかしこれらは行政機関が定めた計測地点周辺の数値を示したものにすぎない。われわれが一番欲しいデータ――それは自分たちの身の回り、つまり生活圏の放射線量データだ。

そのような状況をテクノロジーの力で解決しようと立ち上がった集団がある。都内にある「Tokyo HackerSpace」に集うエンジニアたちだ。

彼らが原発事故後、わずか1カ月で立ち上げた「Safecast」は、自分たちで計測した放射線量をインターネット上の地図にマッピングするプロジェクトだ。市民による放射線測定プロジェクトはSafecast以外にもいくつか存在するが、Safecastの特徴は彼らの開発した専用のハードウェアを車に装着して走りながら計測し、GPSデータとともに記録できることだ。これによって高速、かつ大量の放射線量データの収集が可能となる。これまでに計測したポイントは2700万カ所。福島第一原発やチェルノブイリ原発の中も計測された。結果はインターネットブラウザ上ではもちろん、iPhoneやiPadのアプリでも見ることができる。データの見せ方は洗練されており、動作も軽快だ。また測定されたデータは誰もがアクセスでき、エンジニアが活用できるようにAPIも準備されている。

驚くべきことに、Safecastはハードウェアの開発から放射線量の測定まで、すべてボランティアによって運営されている。最近では朝日新聞の連載「プロメテウスの罠」や、NHKの国際放送で特集され、2013年にはグッドデザイン賞も受賞した。日々注目度が上がる一方のSafecastであるが、なぜ短期間でここまでの成功を収めることができたのだろうか。

”Deploy or Die”(実戦投入できなきゃ意味ない)

「4年前の事故があったとき、『あ、何を作ろう?』と考えたんです」

そう語るのはSafecastの共同設立者の一人であるピーテル・フランケン氏だ。オランダ出身で、マネックス証券の最高技術責任者(CTO)としての顔も持ち、マネックス証券の前はシティバンクや新生銀行でキャリアを重ねた金融システムの第一人者だ。幼い頃からプログラミングや電子工作を楽しむ根っからのギークでもある。


撮影:初沢亜利

Safecastを運営するピーテル・フランケン氏(左)とボランティアとして技術的な支援をしているジョー・モロス氏(右)。モロス氏は放射線計測のスペシャリストで独立行政法人「物質・材料研究機構」の直線加速器の放射線安全の責任者だったこともある

原発事故のあと、まずピーテル氏らが取り組んだのは当時の日本の状況をインターネットを通じて海外に発信することだった。それがSafecastの前身となるプロジェクト「RDTN.org」(RDTNは"Radiation"を4文字に略したもの)だ。RDTN.orgは米国オレゴン州に拠点を置くウェブデザイン会社UNCORKED STUDIOSの経営者であるマルセリーノ・アルバレス氏によって立ち上げられたサイトだが、後に現在MIT Media Labの所長も務める伊藤穰一(Joi Ito)氏やピーテル氏も参加することになった。

「日本の放射線に関するデータも、そのままでは海外の人たちは読めませんでした。そこで自分たちがアクセスできるデータを簡単なマップにして、発信しようとしたんです。しかし東京のモニタリングポストのデータは多少あったんですが、福島のデータは何もなかった。だからとりあえず東京のデータを1週間分集めてマップにしました。でもその東京のデータは、たとえば50階建てのビルの屋上に付いているセンサーの数値で、まったく参考になりませんでした」

RDTN.orgのメンバーが一堂に会したのは、原発事故から約1カ月後となる2011年4月16 日。恵比寿で行われた「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2011 Spring」(通称:NCC)だった。同カンファレンスでは通常世界中からITのキーパーソンが集まり、主に未来のインターネットビジネスについて議論が行われるが、この時のNCCでは「日本のために何ができるか」というテーマに絞って議論が行われた。

「そこでRDTN.orgのミーティングもやったんです。たくさんガイガーカウンターを買って、人々に無償で貸してあげよう、という案もあったんですが、原発事故直後なのでガイガーカウンターはどこに行っても売ってない。参照できるデータもない。さて、どうしようと」

そしてNCCの翌日、4月17日に再度開かれたミーティングが転機となった。MicrosoftのCTOを務めたこともあるレイ・オジー氏が、ガイガーカウンターを車の窓の外につけ、車を走らせながらデータを集めるというアイデアを提案し、1週間でそのハードウェアをつくることを目標にしたのだ。

「当時かき集めた10台ほどのガイガーカウンターをうまく使えるアイデアでした。Joiのプリンシプルは”Deploy or Die”――つまり「実戦投入できなきゃ意味がない」というものなんですが、僕も同じプリンシプルを持っています。そしてHackerSpaceのメンバーともそれを共有できていた。そこでまずはHackerSpaceのメンバーと秋葉原に行って、とにかく1台作ろうと決めました。考えすぎるとトライ&エラーがしにくいし、慎重に考えて作るとなると今度は時間がかかってしまう。とにかく迅速に実戦投入することを目指し、1週間で「bGeigie」(ビーガイギー)を作り上げたんです。これはまさにHackingでしたね」

このミーティングを機にRDTN.orgは「Safecast」へと名前を変える。名前には放射線量だけでなく、将来的には天候や風、降雨量なども含めたデータを記録するセンサーネットワークを構築し、安全(safe)を発信(cast)するという願いを込めた。

「bGeigie」――「b」は弁当の「b」

4月23日、予定通り1週間後に組み上がった放射線測定キットは、「bGeigie」と名づけられた。弁当箱のような形のケースに収納されていたことから、bentoの「b」を冠した。bGeigieにはガイガーカウンターに加えて、GPS測位機能、そして放射線量と緯度経度をセットで保存する機能が備わっている。そのデータをGoogleマップの上にかぶせて表示すれば、放射線マップを作れるという仕組みだ。


撮影:初沢亜利

Safecastのオフィスには彼らが作ってきたbGeigieが保存されている

「データをリアルタイムにインターネットに公開するのではなく、ハードウェア内にいったん保存するようにしたのは、当時被災地ではまだ携帯電話回線が十分に復旧していなかったことが理由です。通信回線が復旧していないところでも測定データが保存できるようにする必要がありました。初代のbGeigieはデータの保存をUSBケーブルでつなげたPCで行っていましたが、多くの人に使ってもらうためにはその手間やPCのコストがかかりすぎるという問題がありました。そこでbGeigie本体にデータ記録機能を追加し、PCがなくても直接SDカードにデータを保存できるようにバージョンアップしたんです」

ガイガーカウンターの選定にもこだわった。

「放射線を計測する検出器であるガイガーカウンターのなかでも、大型で精度の高いものが必要でした。ガイガーカウンターによっては計測結果が出るまでに、長いと1分以上かかるものもあります。しかしbGeigieは車を走らせながら計測しますから、そんなに時間がかかっては使えません。bGeigieで採用しているInternational Medcom社のガイガーカウンターは5秒ごとに計測結果を出すことができます。また品質管理が行き届いた米国製で、科学コミュニティーでの実績もあるものなんです」

さらに車を走らせながらの計測以外にも使えるようにした。

「市販のガイガーカウンターはガンマ線のみを測ることができるものが多いですが、ガンマ線だけでなく、減衰しやすいアルファ線やベータ線も計測できるものをbGeigieでは採用しています。さらにケースから取り出して、ガイガーカウンター単独でも使えるようにしてあります。ガンマ線だけを測っても、どこに放射性物質があるか探すことはできません。しかしアルファ線やベータ線も計測できるものであれば、ガイガーカウンターを当てながら放射性物質を探すことができます。車に取り付けて空間放射線量を調べるだけでなく、ケースからガイガーカウンターを取り出してホットスポットを見つける目的でも使えるんです」

bGeigieを使って集められたデータは、SDカード内のデータを電子メールやウェブサイトを通じてSafecastに提出する。しかし提出されたデータがそのままSafecastのマップ上に反映されるわけではない。メンバーによる確認作業の後に初めてマップ上に登録される。故障などによる誤ったデータが登録されるのを防ぐためだ。

「貸し出す」から「自分で作る」へ

1週間のHackingの後に完成した初代bGeigieは、2011年4月24日に郡山で初測定を実施した。そしてその後も測定を重ねる中で、bGeigieは進化を続ける。

2代目の「bGeigie mini」では、データをPCなしでSDカードに記録できるようにしただけでなく、車内からでも放射線量をリアルタイムに確認できる外付けユニット「Ninja Unit」を開発した。PCが必要にならなくなったため、コストは1台あたり10万円程度に押さえることができた。このコストダウンによって量産が可能となり、希望者に貸し出すことが容易になった。しかしこれでも決して安いとは言えず、すべてのボランティアに貸し出すことはできない。製造もSafecastのメンバーが行う必要があった。

KickStarterによるクラウドファンディングが成功したこともあって、このときSafecastは日本以外でも話題になっていました。海外からもbGeigie miniが欲しい、という声も寄せられていたんです。しかし海外にbGeigie mini を送るということは、日本のために集めたお金が海外に流れてしまう。これをなんとかしないといけなかったんです」

そこでSafecastのメンバーが取り組んだのが、ユーザー自身で組み立てることができる3代目の「bGeigie nano」だ。これは米国のAmazon.comで購入することができるbGeigieの製作キットだ。


撮影:初沢亜利

bGeigie nano

「Safecastはあくまでもオープンデザイン、オープンハードウェア。販売はSafecastではなく、別の会社に依頼しています。米国のAmazonを通じて450ドルで購入することができますが、そのほとんどは部品代なので、利益はあまり出ていないのではないかと思います。日本からも購入できますが、日本ではそれとは別に10人くらいの少人数でnanoを組み立てるワークショップを開催しています。東京だけでなく、福島県の郡山や会津でも開催しています。ワークショップ参加に必要なものは部品の実費の4万5000円だけ。これは僕らの経験ですが、『無料であげますよ』というとたくさん手は上がるんです。でもそのあとの計測になかなかつながらず、使われないままになってしまう」

今や500台を超えるbGeigie nanoを使ってボランティアたちが世界中で放射線を測り、データをSafecastに送り続けている。

「500台のbGeigie nanoから毎月100万地点近くのデータが届きます。日本の道路の総延長はおよそ120万kmですが、Safecastでは現在その半分、およそ60万kmの計測を終えました。福島県内の道路のデータはだいたい取り終わっています。しかも複数回計測していますから、時間の経過によってどのように放射線量が変わっていったかを見ることもできます」

オープンなデータとテクノロジー

”Deploy or Die”のプリンシプルのもと、たった1カ月でSafecastが完成できたのは、彼らの活動の自由度とスピードを担保する2つの「オープン」な要素が重要な役割を果たしている。

ひとつはデータをオープンにしていること。福島県が運営する「福島県放射能利用マップ」のページの下には「Copyright (c) Fukushima Prefecture. All rights reserved.」、つまりサイト上のデータの著作権を主張する表記がある。対して原子力規制委員会のウェブサイトで公開されている「放射線モニタリング情報」は、その利用規約の中で、出典を明記すれば、商用利用も含めた自由な利用が許可されている。ただし事故当時からそうであったわけではない。行政や大学などが測定した放射線量データを利用する際には、そのデータの著作権に留意せねばならなかったのだ。

出典さえ明記すればデータを自由に使える――一見簡単にクリアできそうな条件に見えるが、Safecastのような数百人単位のボランティアが関わるプロジェクトではそう簡単にクリアできるものではない。データを利用する際にそのデータの著作権を持つボランティアの名前を全員漏らさずに示すことは大変だ。そこでSafecastではそのデータの著作権者をいちいち表示する必要がないようにした。具体的にはCreative Commons 0(ゼロ)ライセンスでデータを提供してもらうことにしているのだ。これによってデータ利用の柔軟性が格段に向上し、そのデータを用いた新たな分析やビジュアライズをスピーディーに行うことができる。もちろんそのデータの信頼性の検証が損なわれることがないよう、いつ、誰が、どのように測定したデータなのかはSafecastのウェブサイト上ですべて検索できるようになっている。


撮影:初沢亜利

bGeigie nanoのカバーにはクリエイティブ・コモンズのマークが印字されている

もうひとつの「オープン」なポイントはハードウェア開発にもオープンソースの考え方を利用しているところだ。bGeigieのハードウェアは基板図、部品リスト、組み立て方、そしてそのハードウェアを動かすプログラムまでがすべて「GitHub」で公開されており、更新履歴も含めて誰でもアクセスできる。使用しているArduinoというマイコン基板とそれを動かすシステムも、設計情報が無料で公開されている部品だ。説明書を含むSafecastのハードウェアやソフトウェアについての情報もCreative Commons 表示-非営利ライセンス――つまり「Safecast」とクレジットを明記した上で、かつ非営利目的であれば自由に利用できる形式で提供されている。

市民科学とピアレビュー

データはただそこにあるだけでは意味がない。そのデータが活用され、そして解釈されることで意味を持つ。しかし放射線に関するデータの解釈は人によって様々だ。

「Safecastを始めたとき、やはり"Is it safe? or is it not safe?"(安全? 安全ではない?)を追い求めるところからスタートしたんです。Safecastでは最初、グリーンとレッドのマップを作ろうとしてしました。グリーンは安全、レッドは安全じゃない、というように。しかし活動を進める上でその判断をすることは簡単な話ではないということがわかりました。日本でもエキスパートたちの中で安全な数値について多くの議論がありますよね。安全か安全でないかは人によって考え方が違うんです。Safecastは市民科学プロジェクトですから、とにかくデータを集めることに集中しようと考えました。判断はユーザーに任せることが大事なんです。同じ数値で、引っ越した人とそうでない人がいる。その判断の理由を聞くだけでも、困っている人を助けることができるんです」

そうしたセンシティブなデータを、専門家ではない市民科学プロジェクトが扱うことに不安を持つ人もいるかもしれない。その信頼性を保つため、Safecastに盛り込まれているのが「ピアレビュー」の仕組みだ。

ピアレビューとは研究結果や論文の発表の前に、研究者同士でその結果の検証や評価を行う手法のことで、科学コミュニティでは欠かせないプロセスだ。アカデミズムの世界だけでなく、ソフトウェアエンジニアの間でも、そのプログラムを正式にリリースする前に行われる。

「市民科学はその結果やプロセスをそのまま公表することが重要です。インターネットを使えばピアレビューはみんなのレビューになる。日本以外でも読むことができるし、コメントもつけられる。SafecastではGoogleグループやSlackといったコミュニケーションツールを使って議論をしています。その議論のなかで改善点を示してもらったり、誤りを指摘してもらうこともできます。そしてグループには専門家ももちろんいるし、そうでない人もいます。ただしそうでない人も、放射線に関する仕事をしていないかもしれないけど、放射線に関する知識のバックグラウンドを持っていたり、別の専門分野を持っていたりするんです。現代の市民科学プロジェクトでは、インターネットを使って情報を公開していくこと自体がその活動の重要な一部になるべきです。そしてもう一つ大事なことはそのプロジェクトを社会やコミュニティと接続すること。そうでなければそのプロジェクトが影響力を持てませんし、レビューもされにくいんですよね。データがあっても、それを誰も使わないんだったら、じゃあなんでそれをやっているんですか、という話になってしまいます」

2014年2月に開催された国際原子力機関(IAEA)の専門家会議「International Experts Meeting on Radiation Protection after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident」(福島第一原子力発電所事故後の放射線防護に関する専門家会議)にSafecastからメンバーを送り、自分たちの取り組みについて発表した。そしてその発表はIAEAの専門家たちの中でも大きく評価された。Safecastの発表資料はここから見ることができる。


Photo by Safecast (CC BY 4.0)

IAEAで発表するSafecastのアズビー・ブラウン氏

市民自身が設置・運営するリアルタイムモニタリングポスト

Safecastの進化は止まらない。彼らがいま目指しているのは、市民によるリアルタイム放射線量モニタリングネットワークの構築だ。しかもそのシステムを日本だけでなく、世界中をターゲットにしている。すでに日本(東京、福島、千葉、奈良)では11台、米国で11台、スイスで1台が稼働している。

「原発事故現場から出る放射線以外の原因でも空間放射線量は変動します。例えば雪が積もると、その雪が放射性物資を覆ってしまいますから、放射線量が下がります。しかし春になると、その雪によるシールドがなくなってしまいますから、放射線量は数値的に上昇します。継続的に観察することで、そのような季節や気候による変動を見ることができます。そうすれば、その放射線量の上昇が原発で起きた何かによるものか、そうでないのかがわかるようになります。今後原発が再稼働したとして、そのときに向けたベースラインを作りたいんです。何か事故があったときには、その数値が通常時はどれくらいだったのかを振り返ることができるようにしたいんです」

リアルタイムモニタリングに対応したSafecast――その名も「nGeigie」(エヌガイギー)という。頭文字のnはnetwork、つまり「ガイガーカウンターが直接インターネットにつながっている」ことを意味している。


撮影:初沢亜利

nGeigie

オランダ大使館に設置されているnGeigieによるリアルタイムの計測結果

nGeigieのボックスの中には2つの放射線センサーが入っている。ひとつはガンマ線を高精度に計測できるガイガー管、そしてもうひとつはbGeigieと同じように、ガンマ線だけでなくアルファ線もベータ線も計測できるパンケーキ型センサーだ。ただしこのパンケーキ型のセンサーは、表面積が大きくアルファ線等の検出に威力を発揮する反面、ガンマ線の測定限界値が低い。それを補うために測定限界値の高いガンマ線用のガイガー管が同梱されているというわけだ。

「空間放射線量率を計測するときはこのガイガー管の数値を使います。正確な空間放射線量率の計算にはガンマ線のみの数値が必要なんです。でもガンマ線のみの数値では原発で事故が起きた際、すぐに気づけない可能性があります」

原発で事故が起きたときには、ガンマ線だけではない様々な放射線核種が計測される。そのためあらかじめ多種多様な放射線センサーを搭載することで、いち早く事故に気づくことが可能になるのだ。

現在SafecastではこのnGeigieの設置場所を――特に福島第一原発周辺で提供してくれるボランティアを探している。nGeigie本体はSafecastが無料で提供するため、電源コンセントとインターネット回線があればOKだ。ただし事故によって避難している人にはモバイル回線とその通信料金をSafecastが準備するプランもあるそうだ。ボランティアといっても一度設置してしまえばほとんどメンテナンスフリーでリアルタイムの放射線量をネット経由で確認できる。避難区域にある自宅や仕事場などにこのnGeigieを設置してモニタリングポストにすれば、除染の進み具合や現場で異変がないかチェックすることもできる。nGeigieは避難区域にいつか帰還したいと思っている人にとって有益な羅針盤になるかもしれない。

求む! Safecastボランティア!

Safecastは継続的にボランティアを募集している。ボランティアに応募するにはどうすればよいのだろうか。

「まずはウェブサイトにあるメールアドレスにメールを送っていただければと思います。もし東京近郊に住んでいるのであれば、渋谷のオフィスで一回お話しましょう。もちろん東京に住んでいなくても大丈夫です。そのときはSkypeなどを使ってお話したいと思います。その時に必ずお伺いすることは2つ。ひとつは『あなたは何ができますか』ということ。例えばソフトウェアが書けるとか、ハードウェアを設計できるとか、翻訳とか、PRやボランティアのコーディネートができるとか。その人それぞれのスキルを知りたいと思っています。そしてもうひとつが『あなたはSafecastで何をしたいですか』ということ。普段やられている仕事と同じことをやっても面白くないですよね。私が普段仕事で関わっているのは金融システム。金融システムの上で扱われるものばお金、つまり数値なんです。しかしSafecastでは自分の趣味であるハードウェアを作っています。仕事は仕事、ボランティアはボランティアにしないと続けられませんしね。そのうえで誰と何をやっていただくかをご提案したいと思います」

さらにピーテル氏はこう続ける。「もうひとつ大事なことを言っておきたいんです。それはSafecastでもっとも重要なボランティアは『測ってくれる人』だということです。日本にお住まいであればbGeigieを無料でお貸ししています。もちろん自分で所有しておきたいという方は、キットを購入いただいてもいいですし、ワークショップで作ることもできます」

この3月にはSafecastのイベントが東京と郡山で開催される。Safecastのメンバーに加え、早野龍五東京大学教授や国会事故調の委員長を務めた黒川清氏などのゲストを迎え、Safecast、そして市民科学に関するセッションが開催される。米国より伊藤穰一氏も来日し、東京と郡山の両会場に参加する。インターネット経由で申しこめば無料で参加することが可能だ。興味のあるかたはぜひ参加してほしい。

Safecast Conference 2015 – Tokyo

日時:2015/3/22(日)〜3/24(火)12:00 - 18:00
会場:株式会社デジタルガレージ(東京都渋谷区)
イベントの詳細、お申込みはこちら

スーパープレゼンテーション in郡山 福島から始まる“オープンデータの未来”

日時:2015/3/25(水)13:00開場 13:30開演
会場:ビッグパレットふくしま コンベンションホール
イベントの詳細、お申込みはこちら

著者プロフィール

香月啓佑
かつき・けいすけ

「ポリタス」記者/一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)事務局長

1983年福岡県北九州市生まれ。九州大学芸術工学部音響設計学科卒。音響機器メーカーで開発職を経たあと現職。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)ではデジタル世界におけるユーザーの自由を守る活動を行っている。

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