被災した場所はどこですか」「ここは津波が来ましたか」「津波で被災した建物はまだありますか」被災地を案内すると必ず聞かれるのがこの質問です。
沿岸部を訪問してまず目にするのが、雑草が生えた土地と大型トラック。被災した場所は雑草が生え、どこまで津波が襲ったのか、震災前は何があったのか、案内しているこちらも資料が手元にないと分からなくなったりします。
被災地を訪問し、生々しい震災の爪痕に触れ、被災地域の広大さを目の当たりにすると、誰もが悲しく沈鬱な思いにとらわれるようです。震災から4年たった今も、復興への道のりは遠く、険しいものであることがわかります。人によっては現地の人と知り合い、元気や希望をもらって帰る人もいますが、そうした縁やきっかけがなく、ともすれば津波の恐ろしさと悲しみの強い印象だけを受け取って帰られる人もいるようです。せっかく現地を訪れるなら、震災について知り慰霊するだけでなく、被災地に暮らす現在の人々の多様な営み、できれば未来への希望などにも触れてもらえたらと思います。
被災地を自分の目で見て、歩いて、震災の記憶と被災地の「今」を心に留めることも大切ですが、地域の宝を観光し、美味しいものを食べて飲んで、泊まって、お土産を買うことも、そこに暮らす人々の営みへの参加であり、広く復興の助けになります。機会があれば地元のイベントに参加し、現地の人の話を聞いたり、帰ってから身近な人に旅の経験を話したり、話した相手とともに被災地を再訪したりするのもオススメです。長期にわたる復興の進み行きを継続してフォローしていく経験は、ご自分の住んでいる地域のまちづくりや防災を考える際に役立てることもできます。
風評被害の問題も、思い込みや無理解を解消し、現地で自分の目で確認し、現状に合わせて認識を見直すことが求められています。東北訪問をそうした学びの機会へとつなげていくことが重要と考えます。
私たちはこうした一連の学びの循環を、記憶の風化をとどめ復興に資するものと考え、「震災復興ツーリズム」と呼んで推進しています。それでは震災復興ツーリズムに関連して、日頃感じていることや課題などを紹介していきたいと思います。
(1)震災の記憶の風化
冒頭で紹介したように、被災した沿岸部を訪問してまず目にするのが、雑草が生い茂る広大な土地と行き交う大型トラックです。津波に押し流された建物などを片付けた後、街を再建するための高台工事などが進んでおり、かつての街の面影を残すものはなくなりつつあります。土台だけ残っている個所を見つけ初めて津波で家屋が流されたことがわかります。しかし、高台工事が進んでいくと、こうした場所を見つけることが難しくなります。地元の人でさえ、少しずつ変わっていく街の変化に見慣れているため、震災前の街の写真と見比べて、大きく様変わりしている様子に驚かれます。
(2)震災遺構の解体
震災後は、震災遺構という、津波の脅威を生々しく残した建物跡が所々に残っており、多くの人々がそうした遺構を訪問してきました。復興工事の進行とともに、徐々にそれらの遺構が解体されています(宮城県気仙沼市の巻き網漁「第18共徳丸」、宮城県女川町の「女川サプリメント」・江島共済会館などは解体されました)。
現在まで解体されずに残っている震災遺構の多くも、津波の脅威を伝えるものとして残すべきか、あるいは解体すべきか、意見がまとまらずに未決のものが多いです(宮城県南三陸町の防災庁舎や石巻市の大川小学校など)。
残存している震災遺構も、その建物についての説明は掲示されておらず、鎮魂のための慰霊碑だけが静かに悲しみを伝えています。4年経ったとはいえ、まだまだ遺族の悲しい記憶はま新しく、場所によっては関係者間で係争中のところもあり、また観光施設ではないということもあって、出来事の詳細な説明を掲示することは難しいようです。
(3)震災ガイドの継続
地道に震災の記憶を伝える活動を続けているのが、地域住民による震災ガイドのボランティア、語り部の人たちです。以前の街の姿や被災当時の様子、復興の現状などを、自らの体験を交えながら訪れる人々に伝えています。
ただ、こうしたガイドは基本的に事前予約した団体向けとなっており、予約のない個人がふらっと立ち寄っても利用することはできません。せっかく訪れてもよく分からなかったり、誤解したりしたまま立ち去る人は少なくないのではないかと思います。
また、語り部さんの活動環境と継続性も課題で、交通費や弁当代などの実費以外、基本的に無報酬のボランティアとして活動している場合が多いので、個人の負担が大きく、活動を継続することが難しい状況にあります。
(4)流動的な現地の状況
復興工事がすすみ、街の風景が大きく変わりつつありますが、人々の生活環境や活動状況も目まぐるしく変化しています。仮設商店街が移転したり、仮設住宅も集約され復興公営住宅に人が移り始めたりしています。道路地図も変わり、以前は通れた道が通れなくなっていることもあります。
そうした流動的な現地の情報を集めて集約し、わかりやすく俯瞰的に見えるようにすることが求められています。
震災前はどんな街だったんだろうか、震災時はどんな状況だったんだろうか、どこまで津波が襲ったのか、震災遺構はどこにあるのか、それぞれにどんなストーリーがあるのか、復興商店街で買い物がしたい、現地で復興に取り組むNPO・企業を知りたい、そうしたニーズを捉え復興現場の今を伝えていくことが必要なのです。
一般社団法人とほくる(非営利型)【東北震災復興ツーリズム協会】では、被災地を訪れる方々のためのガイドブック「復興現場の歩き方」を作る活動をしています。ガイドブックでは、震災前の街の様子と震災時の被害の状況、その後の変化していく現地の姿を写真や地図で伝えるとともに、復興へ向けて頑張っている人々、地域の美味しいもの、訪れて欲しいメモリアルスポットなどを紹介しています。「とほくる」という社名は、「東北に来る」から来ています。多くの人に東北の被災地の復興状況に関心を持ってもらい、刻々と変化していく被災地の「今」を見にきて欲しいと願ってつけました。
現在作成中のガイドブック『復興現場の歩き方 2014-2015』は、被災3県(岩手県、宮城県、福島県)とエリアも広く情報も膨大なため、なかなか編集に苦労しています。震災前後の街の記憶や、人々の多様な営みをバランスよく紹介できるようにすることが課題です。
ガイドブック「復興現場の歩き方」に掲載している「復興現場地図」をGooglemapで公開しています。被災地へ訪問する際には、ぜひお気軽にご利用ください。