元衆議院議員の下地幹郎氏、元民主党沖縄県連代表の喜納昌吉氏、元那覇市長の翁長雄志氏、現職の仲井真弘多氏の4氏が立候補している沖縄県知事選挙は、11月16日に投開票が行われます。
今回最大の争点とされるのが、米軍普天間基地(宜野湾市)の移設に伴う辺野古沖(名護市)への基地建設をめぐる対応です。全国的に見ても県民所得が低水準で、生活保護の受給世帯が高水準で推移している沖縄では、経済振興も重要な課題です。しかし地元紙である琉球新報社と沖縄テレビ放送、そして沖縄タイムスと朝日新聞社、琉球朝日放送による世論調査によると、投票の基準となる政策として「基地問題」を挙げた有権者がともに4割を超え、「経済問題」や「教育問題」、「福祉問題」を圧倒的に上回りました。
経済振興政策をおさえて基地問題を重視するというこの結果から、日本の米軍専用施設の74%が沖縄県に集中し、その過重負担が常に言われながらも解消されず、その上で辺野古に新基地を建設することへの沖縄県民の反発が見て取れます。
◆基地問題への各候補のスタンス
その基地問題をめぐっては、立候補した4者それぞれが違うスタンスです。
下地氏は当選後に県民の真意を問うための県民投票を行い、その結果に従って、辺野古移設推進、あるいは移設中止を政府に求める構えです。喜納氏は、行政法に基づき知事が埋め立て承認を取り消すことが可能だとし、埋め立て申請の撤回を訴えています。翁長氏は、基地問題は沖縄県内ではなく県外、国外移設で解決すべきだとしたうえで、辺野古への新基地建設反対、負担の軽減を目指します。そして仲井真氏は普天間基地の危険性を除去することが最優先だと強調、5年以内の運用停止を明言し、辺野古への移設を推進する立場です。
今回の選挙の特徴としては、これまで「基地と経済」を軸に争われてきた「保守 対 革新」の構図が崩れ、「保守分裂」となったことが挙げられます。現職に挑む形となった翁長氏は、現知事の仲井真氏が前回の県知事選挙に臨む際の選対本部長を務めるなど、仲井真氏の右腕と言われていました。当時、仲井真氏は「辺野古への移設は事実上不可能」との見解を示し、政府に県外移設を求める姿勢でしたが、昨年12月に新基地建設のための辺野古海上の埋め立て申請を許可し、移設推進へと転じます。対して翁長氏は仲井真氏との決別を選び、革新勢力とも共闘しながら今回の知事選に臨み、辺野古移設反対を訴えます。ただし、本人もたびたび口にするように、あくまでも政治姿勢は保守としての立場です。討論会等の席上では「私は保守の政治家として」と前置きしたうえで日米安全保障条約に一定の理解を示すなど、革新に転じたわけではないことを強調しています。
◆分裂する経済界
また、県内経済界の有力企業が基地反対を前面に明確に打ち出し、翁長氏を支援していることも印象的です。これまでの沖縄の選挙では、前述したように「保守 対 革新」=「経済界 対 基地反対派」の構図が鮮明でしたが、県内観光業大手かりゆしグループCEOの平良朝敬氏、建設・小売業を中心とした金秀グループ会長の呉屋守将氏の両氏が中心となって、翁長氏の選挙運動を支えています。加えて、建設業大手の大米建設を支持母体に持つ下地氏も立候補したことで、さらに状況は複雑なものとなっています。県建設業協会の政治団体である県建設産業政策推進連盟は仲井真氏を推薦するとともに、下地氏を支持するなど難しい立場にあることがうかがえます。沖縄県の基幹産業である観光、建設の有力者が3分裂することで、経済界からは「正直なところ、誰を応援すればいいのかわからない」など、選挙戦を慎重に注視しながらも、戸惑う声が漏れ聞こえてきています。
◆結果は最後の最後までわからない
選挙戦は最終盤を迎えていますが、4氏の出馬が出そろった当初から変わらず、翁長氏の優勢が報道などで伝えられています。その1つの要因として、公明党の実質的な翁長氏支持があります。公明党沖縄県連は辺野古移設を認めない立場にあり、今回の県知事選と同じく有権者の辺野古移設に関しての判断が問われた、2014年9月に行われた名護市議会議員選挙でも移設反対を通しています。16日の知事選と同日には那覇市長選挙が行われ、自民党が支持する候補者と、翁長市長の後継者である候補者の一騎打ちとなっています。基地問題を争点としないことで、那覇市長選では自公体制が維持されていますが、知事選では辺野古移設に対する是非が明確な争点のため、公明党は自主投票を決めています。仲井真陣営は知事選と市長選とで異なる枠組みとなることから、セット戦略で選挙運動を進める翁長陣営と比べ、不利な状況と言えます。また、辺野古移設反対を全面に打ち出す相手候補と比べ、自民系候補者は仲井真氏と並んで演説をしながらも、公明党の支援を得るための条件として基地問題に触れられないため、有権者の立場からは歯切れの悪さと不自然さが感じられ、マイナスの印象が否めません。県都である那覇市の市長選がどこまで知事選へと影響するのか、注目されます。
しかし2割以上の有権者が投票先が未定と回答している調査結果もあり、翁長氏先行と見られる情勢が、選挙最終盤の動き次第で変化する可能性は小さくありません。沖縄の選挙では序盤圧倒的優位といわれていた候補者が、最後に来て逆転されるというパターンがままあり、自民党は、全国的にも有名な有力議員が続々応援に訪れるなど、仲井真陣営選対の引き締めと、浮動票の獲得を狙っています。
さまざまな課題を抱えながら「基地問題」というシングルイシューで争わなければいけなくなった今回の沖縄県知事選挙。県民の80%近くが辺野古移設に反対するなか、工事は着々と進められていて、選挙の結果次第では沖縄と日米両政府との間に大きな亀裂が走る可能性もあります。有権者はこれからの沖縄、そして知事に何を求めるのか。戦後ずっと続いてきた苦悩の歴史。今回の沖縄県知事選はその解決にむけた入口に立っているのかもしれません。