2014年10月20日 、ひとつの記事が琉球新報で報じられた。
琉球朝日放送のサイトではもう少し細かい記事が掲載されていた(現在はサイトから消えている)。以下引用する。
9日午前、名護市の汀間漁港の近くで男性が浮いているのが見つかり、間もなく死亡が確認されました。
中城海上保安部によりますと19日午前10時ごろ、名護市の汀間漁港で岸壁に片方だけの靴が残されているのを海上保安官が発見し捜索したところ港からおよそ400メートル離れた所に男性が浮いているのを見つけました。男性は那覇市に住む染谷正圀さん(72)で搬送先の病院で死亡が確認されました。
染谷さんは港に係留されている別の船が沖に流されたのを見て助けようと海に入り、溺れたものとみられています。染谷さんは辺野古への基地建設を阻止しようと抗議行動に参加するメンバーの一人でした。
記事に出てくる染谷氏は、私の主宰している「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」の会員として、検察正常化のための告発などにも参加して頂いていたが、当会に入会して間もなく、奥様の郷里沖縄に移住して、普天間・辺野古などの基地闘争に専念し、活動を続けておられた。死亡の前日の10月18日夜も、知人に電話をされ、市民の会活動についても、「会は辞めない。会の目的、理想は沖縄の地に根付かせたい。仲間たちに宜しく」と言っておられたそうだ。
ブログ「海鳴りの島から」によれば、
10月19日午前、辺野古新基地建設に反対する海上行動で、船長を務めていた染谷正国さんが、汀間漁港で事故のため亡くなった。19日は日曜日で船団やカヌー隊による海上行動は休みとなっていた。ただ、辺野古海域・大浦湾を見学する皆さんがあり、その案内のために染谷さんは出港の準備をしていたという。人を乗せて流れた船を追って、船長としての責任感から海に飛び込んだのだろうか。思いもかけない突然の死が、残念でならない。
とある。まさに、同じ思いである。
しかし、悲しみややりきれなさと共に、海を知る船長ともあろう人が、敢えてそのような危険を冒すだろうか、という、一抹の納得のいかなさも残るのは、そこが、辺野古という場所だからだろう。
実際に、——今までにも本土では報道されないが——キャンプ・シュワブ前などで抗議行動をする人たちなどが、不当に怪我を負わされる事件が頻発している。9月15日にもカヌー隊の人たちが海上保安官に、ゴムボートで体当たりされてカヌーをひっくり返され、乗っていた人が水中に首や顔を押さえつけられて沈められ、殺されかけるような信じられない事件(「うちなんちゅの怒りと共に三多摩市民の会」発行の『沖縄の怒りと共に』90号より)が相次いでいるだけに、染谷氏にも何らかの嫌がらせがあったのではないかと、つい思ってしまうのだ。
辺野古移設に頑強に反対しているのは、その多くは「反戦平和系」「環境保護派」の非沖縄県民であり、実際の沖縄の地元では、基地で働く人も多く、実際にはそれほど反対の気運は強いわけではないという論調がある。
一見、説得力を持つように見えるこの論調が、事実を反映しているとは言えないのは、現知事の仲井真弘多氏が、まさしく前回の知事選において、日米合意見直しと基地の県外移設を公約として当選したことと、その後、掌を返して、米軍普天間飛行場の辺野古移設のための埋め立てを承認したという「裏切り」のために、沖縄県議会では、知事の辞任を求める決議までが可決されたこと、今年1月の名護市長選にいたっては自民党の石破幹事長が自民候補当選に500億円もの地方支援金まで出すとしていながら、辺野古移設反対派の稲嶺氏に自民党候補が完敗していることからも明らかだろう。
そして、この知事選においても、最大の争点こそが、その「公約違反」の仲井真弘多氏と前那覇市長で辺野古埋め立て断固反対を唱える翁長雄志氏との、事実上の一騎打ちでありつつ、他の立候補者である下地幹郎氏も喜納昌吉氏が、共に、翁長氏の票狙いであることを明言していることが、まさに、沖縄の実情を現しているように思われる。
辺野古の問題は、単にゲートの前で座り込みをしている人たちだけの問題ではなく、実際に彼らこそが沖縄の民意の代表であり、それを体現している人たちだということだ。
で、あるからこそ、翁長氏は、仲井真氏に大差で勝つ可能性があるわけだが、そうさせてはならない人々としては、なにがなんでも、翁長氏の票を奪いたいというわけだろう。わかりやすい構図である。
しかし、そもそも、辺野古移転を望んでいるのは、米軍ですらない 。 米国は1998年の段階で、すでに、普天間移設非公式協議で、県外移設が可能だとすることを、日本側に伝えていたことが明らかになっている。つまり、沖縄に米軍がいることと、安保条約における「抑止力」とは何の関係もないということだ 。
グアム移設さえ米軍は検討可能としているという内部文書もある中で、ここまでして辺野古移設に固執するのは、日本の中の一部の人たちの、何かよほど大きな利権がかかわっているのであろう。これまた、わかりやすい構図である。
というわけで、仲井真氏の立ち位置の明確さは言うまでもないが、ここに来て、翁長潰しのための立候補にしか見えない下地幹郎氏と喜納昌吉氏も、正体見たりと言われんばかりだ。とりわけ喜納氏は、チャンネル桜沖縄支局の番組「沖縄の声」で、副知事にするなら立候補を取りやめてもいいと翁長氏に申し入れたことまで明かしてしまったので、もはや、すっかりアレな人になってしまった。
泣き笑いがつきまとう選挙とはいえ、かつてはすべての武器を楽器にと唱えていた人が、権力に魅入られるとこうなってしまうのか。花も色あせてしまうというものだ。
むろん、沖縄県民ではない私に投票権はない。しかし、名護市長選で見せてくれた良識を、沖縄の人たちが再び見せてくれることを、私は願っている。沖縄から日本が変わることを祈りたい。