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  • 論点

地域政党が政治の醍醐味をよみがえらせる――大阪都構想が問うもの

  • 木村正人 (在ロンドン国際ジャーナリスト)
  • 2015年4月12日

注目の大阪都構想

地方統一選で行われる大阪府・市議選(12日投開票)の最大の争点は、現在の大阪市を廃止して5つの特別区を設ける「大阪都構想」だ。

筆者が生まれ育った大阪市西成区は「中央区」の一部になる。5月17日には大阪市民の住民投票が行われる。

大阪維新の会代表の橋下徹・大阪市長は旧日本軍慰安婦問題の発言で大きく躓いたが、石原慎太郎元東京都知事のグループと袂を分かってから再び勢いを取り戻した。大阪の未来はまさにこの「一選」にかかっている。

各社の世論調査でも賛否が拮抗している。

●朝日新聞と朝日放送(ABC)の世論調査(4月4~5日)

質問:大阪都構想について住民投票で賛成、反対どちらに投票?

賛成39%、反対40%(2月時点では賛成35%、反対44%)

「行くと思う」層は賛成43%、反対44%

「たぶん行くと思う」層は賛成37%、反対28%

「知っている」層は賛成50%、反対41%

「知らない」層は賛成24%、反対38%

5月の住民投票で投票率が上がれば上がるほど、大阪都構想の周知が徹底されればされるほど、可決される可能性が強まりそうだ。ちなみに読売新聞の世論調査では反対派が多いものの、賛成派とほぼ拮抗する結果となっている。

●読売新聞の世論調査(4月3~5日)

大阪都構想に賛成38%、反対39%

二重行政を解消せよ

興味深いのは共同通信の世論調査で判明した都構想賛成派の「理由」だ。

●共同通信の世論調査(3月14~15日)

大阪都構想に賛成43.1%、反対41.2%

橋下市長の説明は「十分でない」70.1%、「十分」22.8%

<賛成理由>

(1)二重行政が解消される 49.8%

(2)思い切った改革が必要 19.3%

(3)大阪の経済成長につながる 13.3%

公明党が大阪都構想案の中身には反対だが、住民投票の実施に協力する方針に転換したことで今年3月、大阪都構想の協定書(設計図)議案が大阪府・市両議会で可決された。これで住民投票実施の道が一気に開けた。

大阪府と大阪市は利権の「伏魔殿」だった

筆者は産経新聞の大阪社会部で昭和62年から平成12年まで勤務していたが、大阪府と大阪市は利権の「伏魔殿」だった。莫大な公共事業が行われる。大阪市幹部の誕生パーティーが高級ホテルで開かれ、業者や北の新地のホステスが集った。

行政当局、労働組合、業者が三位一体でやりたい放題。たまに大阪地検特捜部などの捜査でその一端が垣間見えるぐらいで、大阪府と大阪市は巨大な利権構造を形成していた。慣習化した労働組合のヤミ手当、同和団体の利権、そこに暴力団が絡んで来るとまさにアンタッチャブルだった。

筆者もその後、東京本社に転勤したように日本経済は東京への一極集中化が急速に進んだ。大阪府も大阪市も税収増がそれほど期待できなくなり、公共事業の大盤振る舞いはできなくなった。

そのツケを清算する形で登場したのが既存政党とは明確に一線を画す橋下市長だ。旧日本軍慰安婦をめぐる発言にはまったく同意できないが、橋下市長の登場が淀んだ大阪の政治に風穴を開けたのは間違いない。

それまでは共産党を外したオール与党の府・市議会、非共産党系の労働組合、業界も府知事や市長を支持し、新聞やテレビのベテラン記者もそのサークル内に入っていた。

有権者と政治の距離を縮めよう

脱線しがちな橋下市長だが、その強力な情報発信で府政や市政のオープンさ、透明度は確実に増した。大阪都構想に是非はあるものの、筆者は大阪の顔に大阪府知事と大阪市長の2人は要らないと思う。

大学教授陣の大阪都構想批判を見ても「衰退した大阪を何とかしよう」という熱意がまったく感じられない。要するに府と市の労働組合の既得権益や左派のパワーを守るのが狙いなのかとも疑わせる。

一方、総務省は中央集権こそ一番と考えており、地方分権については「地方には優秀な人材がいない」「財源がなければ地方分権は無理。要するに地方は財源を寄越せという話ばかり」と消極的だ。

本当にそうだろうか。筆者が暮らす英国では今、総選挙の真っ最中だ。人気が沸騰しているのがスコットランド独立を党是に掲げる地域政党・スコットランド民族党(SNP)ニコラ・スタージョン党首だ。

Photo by iStock.com / EdStock

昨年9月のスコットランド独立を問う住民投票で敗北したものの、SNPの党員はその後、2万5600人から10万5000人に膨らんだ。

4月2日の7党首TV討論会ではYouGovの世論調査で2位に8ポイント差をつけてトップ。3位の保守党・キャメロン首相、4位の最大野党・労働党のミリバンド党首を大きく引き離した。

軽いスコットランド訛りと歯切れのよい語り口が耳に心地よく響く。英国内では「私はSNPに投票できる?」という検索がグーグルで6位になり、討論中に11万3000回も「スタージョン」の名前がツィートされた

既存政党や職業政治家がしたり顔で話す手垢がついた言葉は有権者の心にまったく響いていない。

有権者と運命を共有する覚悟

SNPがスコットランド自治政府の政権を担うようになってから、スコットランドの政治は生命力を取り戻した。

「SNPには政権担当能力がない」と批判していたスコットランド労働党やスコットランド自由民主党もロンドンのウェストミンスター(英議会)の操り人形としか地元有権者の目には映っていない。

Photo by iStock.com / EdStock

現実問題としてスコットランド独立は大阪都構想以上に荒唐無稽だ。しかし、その悲願に向かって突き進むSNPはスコットランドの有権者と運命を共有している。いずれスコットランドが独立を宣言する日はかなり高い確率でやってくるかもしれない。

大阪都構想の真の問題は技術論より橋下市長と大阪の有権者に大阪の未来を共有する覚悟があるかどうか

大阪都構想の真の問題は技術論より橋下市長と大阪の有権者に大阪の未来を共有する覚悟があるかどうかだ。大阪府・市議選は大阪都構想をめぐって大阪維新の会VS自民党、公明党、民主党、共産党の構図になっている。

大阪都構想については産経新聞のiZa(イザ)ニュースまとめが詳しい。

大阪都構想に対する反対意見はインターネット上で橋下市長と泥仕合の論戦になった安倍政権内閣官房参与で京都大学大学院工学研究科の藤井聡教授や大阪市労働組合連合会系の大阪市政調査会のサイトに掲載されている。

藤井教授ら反対論者が公開討論に応じなかったため、大阪府・市政の特別顧問を務めた中央大学経済学部の佐々木信夫教授が現代ビジネスで反論している(前編 / 中編 / 後編)。

これまでの既存システムは機能しなくなった。有権者の意思で新しいシステムをつくるかどうかが争点になっている。これぞ民主主義の醍醐味である。あなたの1票が大阪の未来を決めることになるからだ。

Photo by chee.hongCC BY 2.0

著者プロフィール

木村正人
きむら・まさと

在ロンドン国際ジャーナリスト

元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。

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