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  • 論点

地域の抱える課題なんてわからなくても大丈夫!

  • 春香クリスティーン (タレント)
  • 2015年4月10日

昨年末は、佐村河内さんのゴーストライター問題に並んで、野々村竜太郎元兵庫県議のいわゆる“号泣会見”が2014年を飾るニュースとして飽きるほど流れました。その影響は凄まじく、LINEのスタンプ代わりに号泣会見の写真を面白おかしくコラージュした画像が出回ったりするほど……。母国スイス・チューリッヒの新聞「NZZ」においてはVideo eines weinenden Politikers wird zum Youtube-Hit「泣く政治家のビデオがYouTubeでヒット」やAllein am Donnerstag wurde es mehr als 600 000 Mal abgerufen「木曜だけでも、60万回以上再生された」という見出しが踊るなど、ある意味ひとつのエンターテインメントになっていた気がします。何とも悩ましく、私も一般紙の取材を受けた際に「これが、政治や選挙に興味がない層にも『ちゃんとした人を選ばないと大変なことになる』と思うきっかけになれば良い」とコメントしたものです。

そして迎えた統一地方選挙。野々村元県議のことはもう忘れられ、ネット上では“浪速のエリカ様”こと上西小百合衆議院議員のアイメイクの話題で盛り上がっているようです。残念なことに「号泣県議の反省を生かし、街頭演説を聞いてちゃんと投票しよう」という人は、見る限り皆無です。

自分が地域コミュニティーに積極的に参加しない限り、そこに暮らす人々が何に悩み、何を望んでいるのかを知ることはできない

とはいえ、私自身も地方選挙というものに関して明確な答えがあるわけではありません。もちろん沖縄や福島は対立する2つのオピニオンが存在するので、私たちは自分の意見を投票行動に反映することができます。しかし、それ以外の地域に暮らす大多数の人にとって、たとえ自分の住んでいる地域の市会議員選挙と言われても、候補者の顔も、争点が何なのかもわからないのが実情ではないでしょうか。正直なところ、私も地方選挙について取材すればするほど“争点は結局何なんだろう?”とわからなくなります。国政の場合は「原発」「TPP」「増税」「集団的自衛権」「憲法改正」など自分のオピニオンをはっきりYesかNoで示すことのできる争点を、新聞やテレビがわかりやすく描いてくれるため、少し考えれば自分の考えを明確にすることができます。しかし、市区町村レベルの課題を特集しているメディアはほぼありません。つまり、自分が地域コミュニティーに積極的に参加しない限り、そこに暮らす人々が何に悩み、何を望んでいるのかを知ることはできないのです。これでは、特に実家を離れて独り暮らしをしている若い世代が置いてきぼりになり、そうした層が地域の政治課題に興味を持てなくなるのも仕方ないことであると結論付けてしまいたくなります。

私の暮らす東京の街を歩いていると、23区という土地柄もあってか、若くて美人な女性候補者のポスターで「子育てしやすい環境を」という政策が大きく書かれたものをよく見かけます。確かに日頃「保育園が決まらない」「子供が欲しいけど、産後の仕事復帰が心配」などという声を耳にします。たとえばこうした子供を産み育てるというテーマは、若い人が「政治に何かを望む」として、最も身近なもののひとつです。また、生活に深く影響するテーマでいえば、雇用問題も重要です。子育ても雇用も、人生設計に密接に関わってきます。もしあなたが、自分の住んでいる地域の抱える課題を知らなくても、自身の生活や人生に関わってくるであろうこの辺りのテーマに絞って、候補者一人ひとりがどう考えているのかな? と考えてみるのもひとつの手かもしれません。

また私は名古屋でレギュラー番組が多いため頻繁に訪れるのですが、名古屋は自転車での選挙活動が多く、道行く人々と目線を合わせてしっかりコミュニケーションをとっているように見えます。国政選挙では、有名議員に応援演説に来てもらい人をとにかく集めたい! という雰囲気がありますが、地方選挙ではそういう光景はなかなかありません。裏を返せば、わざわざ街頭演説を見に来る人もいないということですが……実はそれが、候補者の人柄や資質を見極めるにはうってつけなのです。前回の総選挙の際にも、"ヒト"を見て投票することが何より大事だと書きましたが、候補者の“ヒト”自身を真剣に見る際に、横に有名なスター政治家が並んでいるところを想像してください。うっかり目がくらんでしまってもおかしくないですよね。

テレビでは報道されない、自分の住んでいる街の今とこれから――それは自分で積極的に歩み寄って行かなくては何も知ることができないものです。しかし逆に、自分の生活や人生にとって理想的な街とはどんなものなのか――そう考えてみることができるのひとつの機会として、統一地方選挙を利用してみるのはどうでしょうか。号泣会見後の西宮市民の街頭インタビューでは「若くていいと思って投票したんだけどね」「選んだのは市民だから、自分たちにも責任がある」という声が多く聞かれました。今回の統一地方選の中でも、兵庫県議会議員選挙の投票率は個人的に気になるところではあります。号泣会見が、世界のおもしろ動画で終わるのではなく、「自分も地方選挙に投票に行かなきゃ」と思わせる起爆剤になってほしいと願います。

Photo by Chi King(CC BY 2.0

著者プロフィール

春香クリスティーン
はるか・くりすてぃーん

タレント

1992年1月26日生まれ、スイス連邦チューリッヒ市出身。日本語、独語、仏語、英語が堪能。趣味は国会議員の追っかけ。読売テレビ「情報ライブミヤネ屋」、TBS「アッコにおまかせ」レギュラー。

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