ポリタス

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  • Photo by 岩本室佳

台湾から沖縄を眺めて

  • 宮家邦彦 (外交政策研究所代表)
  • 2018年9月29日

今この原稿は出張先、台湾の台北で書いている。沖縄県知事選挙の実施は2018年9月30日に迫った。県知事の選択は県民が行うものだが、その争点についてはこれまでもポリタス誌上に、県民、非県民を問わず、幾つも詳しい良質の評論が掲載されていると承知する。確かに基地問題の是非も、経済振興の効果も、沖縄の未来を考える上では非常に重要な問題だろう。

しかし、ここで今更筆者がそうしたステレオタイプの議論を繰り返す必要は乏しいと考える。そこで今回は敢えて、日本の沖縄県の県知事選挙を台湾の台北から眺めるという、ある意味では主観的でも客観的でもない、新しい視点を提供しよう。2018年9月末の時点で台北から沖縄を見ると「こうも見える」という一例だと割り切って、以下をお読み頂きたい

台湾は1972年のニクソン訪中以降、その島の安全保障そのものが重大な危機に陥ったが、現在もその状態は基本的に変わっていない。特に近年は、台湾との外交関係を打ち切る国が再び出るなど、この島は中国大陸からの有形無形の強力な圧力に晒されている。先日は台湾の在大阪事務所長(事実上の総領事)が中国からのフェイク情報が原因で自殺に追い込まれるという痛ましい例すら見られた。

この島から見ると、沖縄は国際約束である日米安保条約の下で米軍が駐留するという実に羨ましい存在に見えてくる

 

今この島は米国との関係なしに現状を維持できなくなっている。米中国交正常化までは米華安保条約により米国はこの島を防衛する義務を負っていた。しかし、今米国の台湾防衛義務は、国際合意ではなく、台湾関係法という米国内法により担保されている。逆に言えば、この島から見ると、沖縄は国際約束である日米安保条約の下で米軍が駐留するという実に羨ましい存在に見えてくるから不思議だ。

日本本土の人々も日本全体の対外抑止効果に関する責任を応分に負担せず、沖縄県民だけに負荷がかかっている

今その沖縄では、あろうことか、米軍のプレゼンスがもたらす抑止効果を弱体化させようとする声があり、そうした主張が県知事選挙の争点の一つになっている。台湾から見れば、せっかくの抑止効果を自ら弱値化させることは自殺行為にすら見える。更には、日本本土の人々も日本全体の対外抑止効果に関する責任を応分に負担せず、沖縄県民だけに負荷がかかっているようにも見えてくるのだ。

狭い台湾には「沖縄」も「本土」もない。しかも、距離的に沖縄より圧倒的に中国大陸に近いというハンディを負っている。こうした島の住人が、民主主義の下で、島の将来、特にその安全保障について真剣かつ現実的な議論を繰り返し、総統を選んでいるという事実を知ってほしい。その台湾の置かれた状況の厳しさが理解できれば、沖縄でも、本土でも、より地に足の着いた議論ができるのではないか。


Photo by 岩本室佳

著者プロフィール

宮家邦彦
みやけ・くにひこ

外交政策研究所代表

1978年 東京大学法学部卒業、同年4月外務省 入省。日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、在イラク大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任したのち2005年外交政策研究所代表に就任。

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