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諦めとの闘い

  • 山田健太 (専修大学人文・ジャーナリズム学科教授)
  • 2018年9月25日

9月に入り、沖縄県下の各市町村では、統一地方選挙が続く。来たる県知事選挙の争点の1つが、辺野古基地問題であることは間違いないが、その前哨戦といわれた名護市議会選挙では、賛成・反対派の痛み分けに終わっている。2月の市長選挙で、自民・公明・維新が推す渡具知武豊が、基地建設反対の先頭に立つ現職・稲嶺進に大差で勝利した後であっただけに、与党に票が集まるとの見方もある中、結果としては現有議席維持にとどまった。

与党13、野党12、中立1議席となり、数の上ではかろうじて過半数を制してはいるものの、公明党議員2人は、辺野古基地建設反対を表明しており、反対派が過半という議席の数え方も示されているところだ。そしてこの「ヒフティ・ヒフティ(50:50)」が、全県における辺野古移設をめぐる賛否の目安ともいえる。たとえば、地元紙・琉球新報が9月11日に発表した調査結果では、地方選前半の当選者のうち約48%が反対と答えており、まさに約半数だ(沖縄県知事選告示前の選挙ポスター掲示板は、10人の立候補者が噂されたことで急遽、板が付け加えられたが、結局4人が立候補した)。

一般に「民意」を測る手法として、選挙結果(もしくは住民投票)、世論調査、直接的な示威行動(たとえば県民集会など)があるとすれば、沖縄においては2014年以降、極めて明確な形で「辺野古NO」が示され続けている。

具体的には、翁長前知事が選出された前回の知事選挙の結果や、その後の国政選挙である衆議院沖縄選挙区では、いわゆる「オール沖縄」が推す、辺野古新基地建設反対派が勝利をおさめてきた。

沖縄にのみ集中する米軍基地の「多すぎるがゆえの基地問題」の解決は、もはや県民のほぼ一致した思い

また新聞社・テレビ局が実施する世論調査でも、最大8割の県民が基地建設に反対の意思を示している。さらには、県民集会と呼ばれる全県的なシングルイシューの反対集会でも数万人以上が恒常的に集まる状況にある。これらからすると、沖縄にのみ集中する米軍基地の「多すぎるがゆえの基地問題」の解決は、もはや県民のほぼ一致した思いであって、だからこそ普天間基地の移設先についても、本土とは異なり県外・国外を望む声が多数派だ。積極的な辺野古移設ではなく、賛成も苦渋の選択ということになる。

しかし、そうしたなかでも、ここ最近の県内の地方議会・首長選挙では先に触れたとおり、反対派は半数にとどまっているのが現実である。いわば、辺野古だけでは票は取れないことを表しているともいえる。

もともと支持政党をみても、翁長県政の前後もほぼ変化なく2割以上の自民党支持が、他党を大きく引き離しており、さらにこれに加え、自民党や公明党の強固な選挙応援部隊が票固めを行っていることも影響していよう。

その結果、「風」が吹かなければ、結果はどちらに転ぶかわからないということになる。そして実際は、これに「低い投票率」が加わることになる。地方選前半において、27市町村のうち、19市町村が前回2014年を下回り、名護・沖縄・宜野湾など9市町村が過去最低を記録した。そのほかも、近年では最低の投票率だという。沖縄市議選では50%を切っている。これは全国的傾向ではあるが、一般的に若者層を中心とした、政治離れ、選挙無関心が、ここ沖縄でもより顕著になってきているということだ。

こうした無党派層とオーバーラップするとされる一群が、棄権を選択することによって、より固定層の支持が厚い、自公系の候補者に有利な状況が生まれているともいえるだろう。そうなると、最大の選挙のポイントは、米軍基地でもなければ経済振興でもなく、「諦め」や「無関心」ということになる。どんなに県が頑張っても、工事は「粛々」と進んでいくという諦め、国の政策に県が口出ししても仕方がないし、ましてや市町村の議員は「誰でも同じ」という無関心が県民を覆っているということだ。

最大の選挙のポイントは、米軍基地でもなければ経済振興でもなく、「諦め」や「無関心

さらにいえば、いま沖縄は復帰後(あるいは「戦後」)、もっとも景気が良いともいわれており、さらに人口も増加していて消費マーケットも拡大している。まさに、いまのこの経済状況が今後も続くことは、いわば「最低限」の県民の願いということになる。それでなくても、子どもの貧困率は全国でワーストを競う状況だし、最低賃金も全国でビリを争う状況が続いている。観光業関連を中心に求人倍率は高くても、非正規雇用の多さは変わらない。せめて、好景気は続いてもらわなければ困るということだ(伊江島・団結道場、いまに続く基地をめぐる闘いのいわば原点だ)。

だからこそである。やはり問題は一回りして「基地」に戻るのであろう。主要な大手製造業がない沖縄県下で、いかに起業を後押しし、しかも大きな企業に育てていけるか。どのように地場産業、地元企業が外資や本土企業と互角に戦える体力をつけていけるか。それらも結局は、「多すぎる基地」にどう歯止めをかけて、インフラ整備に傾注できるかにかかっていよう。あるいは「米国追従」の政府に「一体化」するのではなく、きちんと対峙し、地方自治を取り戻すことができるかどうかが、いま問われている。

「辺野古が唯一の選択肢」として思考停止に陥っている中央政府に絶対服従するかしないかは、県政の大きな分かれ目

まさにそれが、今回の県知事選の大きなテーマであると言えるのではないか。そうした意味で、「辺野古が唯一の選択肢」として思考停止に陥っている中央政府に絶対服従するかしないかは、県政の大きな分かれ目であって、辺野古移設の是非はやはり最大の争点ということになる。その争点を回避することは、県民に対する誤魔化しそのものであって、うまく隠し通して当選しても結局は政府にモノを言えないのではないかと心配する。

自立なき県運営に自立した経済振興は望めないことになろうし、立ち遅れた教育や福祉の整備もまた、政府の意向次第ということになりかねない。それはいま、本土で進んでいる弱者切り捨ての教育・福祉行政が持ち込まれることに過ぎないのであって、それでは沖縄に明るい展望がみえないではないか。

著者プロフィール

山田健太
やまだ・けんた

専修大学人文・ジャーナリズム学科教授

専門は言論法、ジャーナリズム研究。早稲田大学大学院、明治大学大学院でも情報法を教える。日本ペンクラブ専務理事のほか、放送批評懇談会、自由人権協会、情報公開クリアリングハウスの各理事、世田谷区情報公開・個人情報保護審議会委員などを務める。主な著書に『法とジャーナリズム 第3版』(学陽書房)、『放送法と権力』(田畑書店)、『見張塔からずっと』(田畑書店)、『言論の自由 拡大するメディアと縮むジャーナリズム』(ミネルヴァ書房)、『ジャーナリズムの行方』(三省堂)、『3・11とメディア』(トランスビュー)、『現代ジャーナリズム事典』(三省堂、監修)、『放送制度概論-新・放送法を読みとく』(商事法務、共編)など多数。琉球新報、東京新聞で連載中。10月4日に、ちくま新書から『沖縄報道』を刊行予定。

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