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  • 論点

もし「2019年統一地方『無投票』選挙」にあなたが立候補するとしたら?

  • 吉田徹 (北海道大学法学研究科教授)
  • 2015年4月12日

面白くない選挙を面白く

統一地方選の告示がされ、投票日も近づいてきた。それでも、どうにもこうにも盛り上がらない――そんな光景が広がっているようにみえます。

そこで、そんな選挙を面白くする方法を提案してみたいと思います。それは、これを読んでいるあなたが、2019414日に行われる次の統一地方選に出馬することを想定し、選挙に参加してみる、という方法です。

議員になるのは大変か?

議員になるために出馬するなんて、いわゆる「地盤・看板・鞄」もないのにそんな大それたことなんてできない、という人もいるかもしれません。でも今回の地方選をよくみてみると、実はそんなに非現実的な話ではないようです(25歳以上でないと被選挙権がないので、2019年に25歳になっていない人は参考にとどめてください)。

この統一地方選では、22%が「無投票選挙」として確定しています。道府県議会の選挙に限っていうと33%が「無投票選挙」でした

立候補の届け出ささえすればあなたも議員になれる可能性がある

「無投票選挙」とは公職選挙法(公選法)第100で定められていますが、要は定数と同等かそれ以下の候補者しかいない場合、選挙を行わず候補者全員を当選させてしまう、という規定のことです。定数に満たない候補者しかいなければ、その候補者全員が当選したこととみなすわけです。つまり今回の統一選をみた場合、地方議員となる約2割は投票の対象とならずに、立候補をしただけで議員になれた、ということです。2割という割合は1951年以降、最多の割合とのことですが、その割合も年々増えていっています。4年も先には、地方の衰退や高齢化もさらに進み、無投票選挙はますます増えることが予想されます。つまり自治体によっては、立候補の届け出ささえすればあなたも議員になれる可能性がある、ということなのです。

田舎の話じゃ気が乗らないし、そんな地縁血縁で動くようなところ(実際にそういうところはたくさんあります)に新人が行っても潰されるだけじゃないか、そんな心配もあるかもしれません。ただ、今回の統一地方選では、千葉県や埼玉県で県議選や市議選の無投票がありました。関東圏でも無投票選は珍しいことではなくなっているのです。さらには定数に満たない立候補者しかいない選挙区もあります。議員が1人位増えたところで、困る人はそうたくさんいないはずです。

意外と何とかなりそう

確かに立候補をするには、それなりの準備が必要になります。詳しい方法や手順は『市民派議員になる本』などを参考にしてもいいかもしれませんが、まず、国政選挙ではないのだから、お金は予想するほどかかりません。よく話題になる「供託金」だって、市議会選では30万円、町議会選では不要です。そもそも、このお金は当選すれば返却されるものですから、心配いりません。後、必要になってくるのが人件費や印刷代ですが、これもボランティアで済ましたり、格安印刷会社を使うなどしたりすれば、いくらでも節約できます。最近では立候補をパッケージで支援してくれる民間会社もありますからそれに頼れば、全て自前で用意するのとトータルではそれほど変わらないかもしれません。

もし運悪く無投票選挙でなくなってしまった場合、突如として選挙費用が掛かる可能性もあります。そういう場合は「選挙公営 」といって、一程度の選挙費用の負担をしてくれる自治体があるので、そこがどこかを見定めておきましょう(なお町村には「選挙公営」は認められていないので注意)。

無投票で議員になるにせよ、政策集くらいは漠然としたものでもいいので作っておきましょう。自分で作るのは大変かもしれませんから、友達やら親やら高校・大学時代の恩師などと話をすれば、いま何が問題で、どう解決するか、大体のことがみえてくるかもしれません。議員になった時、仲間の議員や役所や有権者と話して間違っていることがわかれば、修正していけばいいのです。

地方議員は「美味しい」か?

さて、議員になるとして、気になるのは給料です。政治思想家のマキャヴェリがかつて唱えたように、政治がいかに高貴な生業であるのは確かだとしても、だからといって無給である必要はありません。

議員の給料(正確には「議員報酬」)には自治体によって色々と差がありますが、市区議会の場合は平均約41万円、町村議会の場合は約21万円です。ハードルの上がる都道府県議会では、約80万円まで跳ね上がります。ボーナスもきちんと年2回あります。これに加えてどの議会でも大体、あの「号泣県議」で話題になった「政務活動費」が月数千円から最高数十万円までの間で支弁されています。これに日当が加わることもありますから、それなりに「美味しい」かもしれません(そんな「美味しい」仕事に無投票でありつくなんてけしからん、というのももっともな指摘かもしれません。でもそういうなら、立候補を増やすしか、やはり手立てはありません)。

ちなみに日本で一番安い町議会議員報酬は、東京都の青ヶ島村議会で、10万円だということだそうです。これだけだと確かにちょっときついかもしれません。でも青ヶ島は人口170人の島。そこで10万円以上もいらないような気もしますし、議員さんならひもじい思いをすることはなさそうな気もします。

政治家というのは24時間365日の職業ですから、そう考えると割に合わないかもしれません。でも議会が開会されているのは長くても年の半分くらいです。それ以外の期間は(次の選挙での当落や有権者からの評判を気にしないのであれば)手抜きをすれば、そんなに働かなくても済みそうです。議員の質問がないまま数年が経っているという議会もあるそうなので、会期中に居眠りしていてもいいのかもしれません。そもそも、そういう議会の傍聴席に有権者が来ることもないと予想されます。

なお、立候補する場合、公選法では選挙区に過去3カ月以上居住していた実態があることと定めていますから、選挙区探しは裁定でも選挙の半年前までに済ましておいた方がよさそうです(これの認識の甘かった「美人過ぎる区議」もいました)。

実は高貴な仕事

だから、まだ比較的若くて、就職先も決まっていないか、もしくはどこで働くか困っていて、でも働かないわけにはいかないという人は、是非2019年の統一地方選での立候補を目指してみてはどうでしょうか。「こんな奴が市議かよ!」という知り合いが私にもいますが、立候補して、当選したのだから、文句はいえません。少なくとも、ブラック企業なんかに就職して、心身ともにすり減らすよりは、ずっと楽だし、何よりも意義ある仕事です。議員の任期も通常であれば一期4年、非正規雇用で5年の雇い止めに合うかもしれないことを考えれば、悪くありません。

確かに、政治家も心身をすり減らす職業であることは間違いありません。でもマキャヴェリが言ったことを思い出してください。政治とは高貴な生業なのです。それは、共同体を統治するという、誰しもが面倒くさがってやらないことを、自ら進んでその苦行を引き受ける職業だからです。その心構えさえあれば、多くの人がその政治家の存在に感謝するでしょう。しかも若ければ失敗は大目にみてくれるでしょうし、やりなおしも効きます。

そんな甘いわけないじゃないか、と思われる方には、ぜひ陽太千裕『議会に風穴をあけたやつら―北海道の元気な地方議員たち』という本を読まれるのをお薦めします。何の経験もない、ほとんど素人に近い人たちが何を思って、どのようにして議員になっていったのかのドキュメントになっています(ドラマティックではないからか、残念ながら無投票選の話は出てきません)。

悪くないお金をもらいながら、高貴とされる職業に、他人に感謝されながら、もしかしたら楽々と就くことができる――そうだとしたら立候補しない方がおかしいくらいです。

言い方が微妙かもしれませんが、女性が立候補するのにも追い風が吹いています。日本の議会で女性の比率が少ないことは有名ですが(衆院で9%、参院で16%)、地方議会でも女性は10人に1人くらいの割合でしかいませんし、女性議員が1人もいない議会も2割程度あります。自民党政権が女性の労働力確保をプロモートしているのですから、それを逆手にとって「女性の声を政治の場に」とアピールすることは有利なはずです。

「議会にも産休制度を!」は立派な公約

もっとも、驚くことなかれ、女性議員に出産休暇についての規定がある地方議会はわずかしかありません(最近まで国会にもありませんでした)。女性の仕事と家庭の両立支援はまさに国の政策目標です。「議会にも産休制度を!」と訴えてみれば、それは立派な公約です。

もちろん、会社をリタイアして多少の小金と時間もあるという高齢者の人も、無投票選を目指せば、有意義な定年後の人生を送れるはずです。老後の楽しみとして立候補を画策しておくのも悪くないでしょう。なんといっても、議員は当選していさえすれば、定年のない職業なのです。

地方議員と呼ばれる人々は33416人もいるといいます(20151月時点)。次の選挙でこの33416分の1を目指してみるというのはどうでしょう。そう想像すると、面白くない選挙も関心が出て、色々なことがみえてくるかもしれません。まずは、4年後の立候補の勉強のためと思って、地元の候補者の選挙事務所を覗いてみたり、事務所で暇そうにしているスタッフに声をかけてみたりするのがいいかもしれません。

それをするのに、理由はいりません。なぜなら民主主義での選挙とは、決して他人事ではないのですから。

著者プロフィール

吉田徹
よしだ・とおる

北海道大学法学研究科教授

1975年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。東京大学総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。専攻は比較政治・ヨーロッパ政治。著書に『「野党」論』(ちくま新書)、『感情の政治学』(講談社メチエ)、『ポピュリズムを考える』(NHKブックス)など。

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