2017年7月2日に投開票日を迎える東京都議会議員選挙において、自民党には強い強い逆風が吹いているようである。
組織犯罪処罰法改正案、いわゆる共謀罪法案を巡る対応や、加計学園問題を巡る迷走、魔の二回生と言われる一部の二期目の衆議院議員による不祥事、さらに稲田防衛大臣の失言というか閣僚としてはありえない迷言も加わった。
一方、都知事選の時から都議会自民党との対決姿勢を露わにしている小池知事と都民ファーストの会は、そうした自民党の窮状を奇貨として、大躍進も予想されている。しかし、自民党への逆風と都民ファーストの会への支持は本来別物であって、自民党への逆風をそっくりそのまま都民ファーストへの追い風にするようなことがあってはならない。自民党への逆風、すなわち反自民票の受け皿を都民ファーストだけにするようことがあってはならない。それは都民の選択肢を狭めることであり、都政の質の低下、停滞につながりかねないのではないか。
最初に断りを入れておくと、本稿ではあえて都民ファーストと自民党にしか触れない。しかしこれは、決して両者の二者択一という構図に当てはめたいわけではない。
あくまでも都民ファーストが躍進した場合の危険性について指摘することが本稿の目的で、むしろ読後、都議選の投票の選択肢を都民ファースト及び自民党以外にも広げるきっかけとなり、幅広く多角的な観点から「最良」を掴んでもらえれば幸いである。
Photo by damon jah (CC BY 2.0)
都民ファーストと「東京大改革」の実態
都民ファーストの会は小池都知事が都知事選の時から掲げる「東京大改革」とその実現を支持する勢力である。それ自体に主義主張があるというより、他人(小池都知事)の主義主張を正しいと信じ、それについて行く、一種の信者団体のようなものと言ったらわかりやすいか(諸手を挙げて安倍政権を礼賛し、擁護するネトウヨも基本的な性格は似たようなもので、毒舌のように聞こえるかもしれないが、毒舌だ)。
では、その都民ファーストの会が標榜する「東京大改革」、これまでに実現できたもの、実績と言えるものは何かと考えれば、筆者の見る限り、情報公開ぐらいではないだろうか。それも小池知事就任以前がひどすぎたので、当たり前のレヴェルにまでやっと引き上げられたといったところ。だからこそ小池知事の悦び組、もとい支持勢力である都民ファーストを躍進させて「東京大改革」の実現をということらしい(ちなみに、例えば、政党復活予算の廃止も実績として挙げられることがあるが、元々決まっていたものをあえて落とした上で復活させ、地元や支援団体への「頑張りました!」とアピールするために設けられた、出来レースのセレモニーであり、これを止めたところで実質的には何も変わらないので、実績と呼ぶにはお粗末過ぎよう)。
二元代表制は大前提であって争点ではない
さて、「東京大改革」とは別枠で、小池知事の「実績」として挙げられると筆者が考えるものとして、地方政治は知事や市長といった首長と議会の二元代表制であると一般有権者に気付かせたことがあるように思う。それまでは二元代表制という言葉がメディアで踊ることはなかった。そしてこの二元代表制に関し自民党は、だからこそ知事と都議会は程よい緊張関係になければならず、都議会が小池知事支持勢力で過半数を占められるようなことはあってはいけないと主張する。一方都民ファーストの会は、だからこそ「東京大改革」の推進・実現のためには小池知事を支持する勢力で過半数を占めなければいけないと主張する。いずれももっともな主張に聞こえるが、これは政策実現の手法をめぐる言い争いであって、都政の在り方と直接関係があるものではない。
地方議会が首長の言うことに何でも賛成の大政翼賛会ではなく、首長と程よい緊張関係にあるというのは、地方自治が首長の独裁に陥ることなく、また議会多数派による多数者の専制に陥ることもなく、両者の抑制均衡(checks and balances)が機能し、健全性を保つためには必要不可欠な要素であることは間違いない。しかし、有権者たる住民の立場からすれば、それは当然の前提として、その結果として一体何をしてくれるのかが問題であり、今回の都議選の最大の関心事であるのであるから、街頭演説でも聞かれることの多い二元代表制をめぐる都民ファーストと自民党の争いというか掛け合いは、都民不在の単なる政争でしかないと言ってしまって差し支えないだろう。ところが今回の都議選ではこうしたことを争点化しようとする発言がしばしば聞かれる。これは大いに問題視されるべきだ。
Photo by Chris Gladis (CC BY 2.0)
寄せ集めで体系性のない都民ファーストの政策
では、一体何をしてくれるのか?ということで、都民ファーストの会の政策を見てみよう。
都民ファーストの会の基本政策は377項目に及ぶ。これは地方議会議員選挙の政党の選挙公約としては異例の数であろう。政策オタクの集まりのようなところもあった「みんなの党」でさえ、前回平成25年(2013年)の都議選の時の「東京アジェンダ」は100項目にも満たなかった。それだけ内容は充実していると思いきや、項目によって濃淡があるばかりでなく、国と地方の役割分担も曖昧なものも散見され、さらには国際金融都市云々のように石原都政ぐらいからずっと言われ続け、検討等が進められている政策の焼き直しまである(ある関係者からの話によれば、小池知事自身が国際金融都市云々について理解できておらず、中身は従前どおりの高層ビルを建てれば国際金融都市といったもののようである。特区推進のための国との共同事務局の設置にしても、国家戦略特区制度の施行を受けて、舛添都政下で検討が始まったものの延長線上の話)。要するに体系を欠いた寄せ集めということ。取りまとめを行うプロジェクトマネージャーがおらず、素人考えや思いつきのものも、ラベルを変えただけのパクリも含めて急揃えで粗製乱造したのであろう。
中身のない「ふるい」か「あたらしい」で印象操作
都民ファーストの会が選挙ポスター等で使っているキャッチコピーは「ふるい都議会を、あらたしく!」である。どこか西の方で聞いたことのあるような「ふるい」と「あたらしい」の二項対立であるが、そうしたものに落とし込んで構図を単純化し、「ふるい」=悪で「あたらしい」=善又は良という根拠なきイメージを植え付け、「ふるい」は自民党、「あたらしい」は都民ファーストであるから都民ファーストへ支持をと、投票を誘導するための殺し文句としか見えない。では、その「ふるい都議会」をどう「あたらしく!」しようとしているのかと政策集を見てみると、議会運営、議会での審議の活性化のための「あたらしい」具体的な方策は、議会改革条例ぐらいしか示されていないし、その中身も不明である。やはり「ふるい」、「あたらしい」は印象操作以上のものではなく、都議選で勝つための方便に過ぎないのではないだろうか(都知事の反問権の導入等といったものも書かれているが、議会の質疑は都政に関し、これを監視し、適正化するために都議が行うものであるから、知事が反問するなどというのはそもそもおかしな話。これを書いた都民ファーストの人間が、都議会とは何かを理解していない証左ということであろう。もし都知事と議会との論戦を活性化したいというのであれば、議会の各会派の代表と都知事との党首討論みたいなものをやろうというのなら、まだ話は分かるが、質問通告なしのガチンコ勝負ではボロが出るからやりたくないということだろうか)。
都民ファーストが躍進した先に待っている嵐
素人考えも含めた寄せ集め政策に印象操作のキャッチコピー、これでは都民ファーストの候補者たちがド素人だとか当選することだけが目的の風見鶏だとかいったこと以前に、都民ファーストが大躍進などすれば、逆風を追い風にどころか、追い風が嵐を巻き起こして、都政も都民も大混乱ということになりかねないのではないだろうか。迷走の末にご自慢の「マニフェスト」もかなぐり捨てて見事に崩れ去った民主党政権。当時の民主党を政権の座に押し上げてしまったことを他山の石に、有権者には冷静なご判断を。
開発事業者ファーストになった豊洲移転
最後に、築地市場の豊洲移転問題について少し触れておくと、小池知事の決定した築地は活かし豊洲に移転というのは、玉虫色の解決ではなく、単なる豊洲移転であり、築地に卸売市場としての機能は残らないし、5年後に復活もしない。つまり当初の移転案と基本的には同じである。都民ファーストの政策集にある「豊洲市場を物流拠点として活用します」とはそういうことである(卸売市場という言葉を使わずに「物流拠点」という言葉を使うとは、なんとも姑息である)。違う点は何かと言えば、現在の築地市場の敷地を都が保有したまま(おそらく中央卸売市場会計に残したまま)開発の旨みだけを民間企業に与えるということ。民間企業からすれば、土地を保有するリスクを負わずに開発ができるわけであるから、こんなに美味しい話はない。そして出来上がるのは、築地の場外を小綺麗にして集めたショッピングモールのようなものを低層部に設けた高層オフィスビルとホテルといったところか。都民にとっては、まさに泰山鳴動してなんとやらである。
繰り返しになるが、本稿読者の投票の選択肢が都民ファースト及び自民党以外に広がり、幅広く多角的な観点から、有意義な一票を選ばれんことを望む。