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「築地は守る・豊洲は活かす」が優れている8つの理由

  • 竹内昌義 (東北芸術工科大学教授)
  • 2017年6月30日

私は市場問題PTの委員として、市場のあり方を検討してきた。その上で、小池都知事の今回の築地、豊洲両方を活かすという案を支持する。これはこれでよく考えられた案だ。この市場の問題は、長きにわたって議論され、検討されてきた。その過程で多くの誤解や思い込みが存在する。それを解説することで、なぜこの案が優れていると言い切れるのか、みなさんの理解の助けになれば幸いである。

中央卸売市場の全国的傾向との乖離

議論の前に、市場とは何か考えておく必要がある。そもそも公設の中央卸売市場が求められるようになったのは、明治維新による社会情勢や経済の急変、度重なる戦争の影響による物価の高騰、全国的な米騒動、関東大震災などを経てのことだ。


Photo by urbz (CC BY 2.0)

今の中央卸売市場は第2次世界大戦後の混乱期に、食料の安定供給を目的に再整備された。 闇市ではなく、官が管理し適切に業界を保護するためのものである。しかし、現在、スーパーマーケットや通販における産地直送などの流通の変化、かつては魚を中心としていた食の変化、経済の発展や少子高齢化に伴う嗜好や生活の変化などを経て、卸売市場はその取扱量を急激に減らしている。市場自体を法律で守り、保護すること自体が変化しようとしている。ちなみに築地の取扱量は1989年ころのピークから半分にまで減っている。また、これはまだまだ下げ止まらず、この傾向は続く。豊洲移転を決めた当初から社会が全く変わってしまったのだ。でも、そのことを豊洲は織り込めていない。築地から豊洲へ向けて、延べ床面積1.7倍(売り場自体は1.1〜1.2倍程度、通路ばっかり多いのである)の大きさの施設になってしまっている。そのこと自体、ナンセンスなのである。

築地を売って豊洲を作るという誤解

都の「市場のあり方戦略本部」によれば、「神田市場廃止に伴う跡地の売却益3700億円があるので、豊洲の赤字は問題ないとする」としている。また、今後築地の売却益をこれに加え、豊洲にかかった5884億円に充てると説明してきた。だが、本当に可能であったのか。そもそも市場が土地を持っているわけではない。都の土地をどう使うかは市場が決められるわけではない。

もともと、売却益3700億円の根拠は市場会計から財務局の一般会計への付け替えである。それは帳簿上の付け替えだ。実際、神田市場の跡地はダイビルなどの再開発の際に、400億円で売却された。バブルがあり、再開発によって道路の率が増え、実際に売られる部分が相当減ったためである(この数字自体は問題ないと考える)。だから、都の市場部門が土地の売却益を根拠に、経営の健全であることをいうのはいささか無理がある。3700億円と400億円の差額、3300億円は純粋に都民の税金が投入されているのである。だから、築地がいくらで売れて、それを豊洲に充てるというロジック自体が無理がある。


Photo by Tinou Bao (CC BY 2.0)

豊洲の土壌汚染問題

これも色々な誤解がある。豊洲の土壌汚染対策について、「無害化3条件」すなわち、「土壌はもちろん、地下水中も環境基準以下にする」と2011年2月23日に岡田元中央卸売市場長が答弁していることに則って進められてきたものだ。土の中の地下水も一緒にやりましょうと言ったのは、まずは市場当局であり、議会もこれを決議している。そのために860億円のお金を使ったが、結局は難しいので、土壌汚染対策法の基準でいいようにしよう。というのが今の流れだ。それこそ、都議会マターの話である。

豊洲のランニングコストに関して

私が当初からずっと危惧しているのが、このランニングコストだ。巨大な建物を24時間冷房し続けるという。HACCP対応の閉鎖型市場が売り物の豊洲だが、果たして本当に、この巨大空間を冷やす必要があるのかというのが最大の疑問である。世界にそういう例があるか調べるとどこにもない。あったとしても、ランニングコストがかかりすぎるので、それを止めているという。売上が半分になって、面積が倍になって、今までしていなかった冷房を全部するのだ。当然、家賃は4倍にもなろうかと。ところが、市場当局は家賃を3年間は据え置くという。経営感覚からして滅茶苦茶である。また、HACCPは建物に与えられる認証ではなく、そのプロセスに与えられるものだ。市場全部がHACCPをとる必要がないのである。実際、築地でもHACCP認証を受ける業者が出てきている。おそらく、このままだと経営が立ち行かなくなって、冷蔵庫を止めることになるのではないかと考えられる。魚は氷で冷やしているから問題ないのである。ちなみに現在の築地でも特に低温が必要とされているところは、きちんと温度管理できている。


Photo by Jay Bergesen (CC BY 2.0)

アスベスト対策の嘘

アスベストがあるから工事できないと言われるが、そんなことはない。建設の技術を知らない人が言うことである。すでに築地でもアスベストの対策は行われているし、その方法論、実行まで当たり前になっている。よっぽど建設の現在の技術を知らないか、悪意のあるデマである。

築地改修のトラウマ

1990年に計画された築地改修案がうまくいかなかったから、今回もダメだという意見を伺うがそれも大きく的外れである。前述の通り、そもそも市場規模がすでに半分になっている。また、当時のローリング計画を見ても、相当無理があった。今回、関係者にヒアリングを試みたが、叶わなかった。案自体も2階建てで、規模も大きい。業界団体がまとまらなかったことが問題になっているが、案そのものに問題があったのだろう。

築地再整備は夢物語なのか

小池知事の発表は具体的ではないと言われる。確かに現時点で見えていないことは多い。また、市場を2市場、並存できないのも事実である。ここへきての、逆の誤解もある。築地が更地になるかのような印象を話す人もいる。誰もそんなことは言っていない。築地を食のワンダーランド化するにあたり、築地自体の建物の資源も必要と私は考える。確かに具体的にはまだなっていない部分が多くある。

ただ、今回、求められたのは、豊洲か築地かどちらかはっきりしてほしいという、選挙での考え方の整理だと考えている。その答えはどちらかではなく、どちらも活かす。その役割分担はそれぞれの長所を使おうということである。その際の築地の魅力は、理想とされる未来の中央卸売市場ではないかもしれない。伝統的で人々が行き交う、昔の市場の雰囲気に近い。これを東京都の財産として、活用して残していく。それが求められているのではないか。


Photo by istolethetv (CC BY 2.0)

民間を活用した再開発

世界には色々な市場がある。例えば、リスボンのリベイラ市場。公設市場は郊外に移転して、リスボンの食文化を発信するフードコートになった。それに近隣用の市場機能もついている。そういうあり方やそれの発展形があってもいい。


Photo by Paul Arps (CC BY 2.0)

また、都市開発の事例でいうと、もっと民間活用をする事例が海外には多くある。アメリカの西海岸、特にポートランドの開発などは、民間が出資、開発し、そのエリアの価値を上げ、固定資産税の引き上げを期待している。


Photo by NNECAPA Photo Library (CC BY 2.0)

これが上手くいき、公共の予算を使わず、公的な施設が作られることがある。最初から最後まで、全部を公共でやらなければいけないという時点で様々な可能性を捨てているのである。こういった手法は官民連携(PPP=PublicPrivatePartnership)と言われ、日本でも幾つかの事例が始まりつつある。そういった民間活用も含めて、これからの都政に期待したい。

以下に記したのは報告書のURLである。かなりのページがあるが、様々な検討を重ね、揉んでいるので、ぜひ読んでいただきたい。おそらく、これに基づいてこの先の様々なことが進められるだろう。また、最終案だけではなく、過去の議論も全て公開されている。実はこのことが、小池都政になってからの画期的な変化の最たるものではないだろうか。今まではブラックスボックスだったプロセスが透明化し、アクセス可能になったのだから。

市場問題プロジェクトチーム第1次報告書はこちら

著者プロフィール

竹内昌義
たけうち・まさよし

東北芸術工科大学教授

1962年神奈川県生まれ。建築家。東北芸術工科大学デザイン工学部建築・環境デザイン学科教授。『みかんぐみ』共同代表。1985年東京工業大学工学部建築学科卒業。1988年東京工業大学大学院理工学専攻科建築学専攻修士課程修了。2001年〜東北芸術工科大学デザイン工学部建築・環境デザイン学科助教授。専門は建築デザインとエネルギー。 著書:『未来の住宅/カーボンニュートラルハウスの教科書』(2009年)、『原発と建築家』(2012年)、『図解 エコハウス』(2012年)、『新しい家づくりの教科書』 作品:NHK長野放送会館(1996年)、愛・地球博 トヨタグループ館(2005年)、マルヤガーデンズ(2010年)、マーチエキュート万世橋(2016年)、山形エコハウス(2010年)。HOUSE_M(2012年)、JIA環境建築大賞受賞(2013年)、東北建築賞(2012年)。最上の老人ホーム(2009年)(社会福祉法人 紅梅荘)東北建築賞受賞2013年。紫波町のオガールタウンデザイン会議メンバー。エコタウンの技術指導を行い、57区画の先進事例を誘導。町に新しい産業をおこす。また、オガールセンター(複合施設)、オガール保育園の設計を手掛ける。

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