ポリタス

  • 1章
  • 視点
  • Illustration by 中村隆

原発“新設”の是非を問う

  • 津田大介 (ポリタス編集長)
  • 2015年5月23日

にわかに原発“新設”の機運が高まっている。

経済産業省は2015年4月28日、2030年時点における電源構成――総発電量にしめる電源種別の割合(エネルギーミックス)について、原発を20~22%、再生可能エネルギーを22~24%とする原案を発表した。これは同日開催された総合資源エネルギー調査会「長期エネルギー需給見通し小委員会」で事務局案として提示され、出席した有識者らから概ね了承を得て発表されたものだ。

この電源構成案は、需給見通し小委員会と同じ総合資源エネルギー調査会内に設置された「原子力小委員会」で2014年12月に発表された「中間整理」を受けて作成されたものだ。「中間整理」では新しく原発を“新設”することを検討事項として盛り込んでいる。ここでは「廃炉に見合う供給能力の取り扱いを含めた原子力の将来像が明らかでなければ、電力会社や立地自治体が廃炉を判断しにくい」という理屈を持ち出し、寿命が訪れた古い原発を廃炉にした時点で新たな原発を建設するリプレース(建て替え)について触れている。

もともと原発は30~40年の運転を想定していたが、電力会社は設備の一部を新品のものに交換するなど十分な管理をすれば60年程度は運転できると主張してきた。とはいえ、原子炉圧力容器の強度には限界があり、旧式のものを使い続けることで部品から調達コストや維持管理コストも上がる。その結果、廃棄して新たな施設をつくるほうがコストが安くなる。原発には老朽化や高経年化に伴う「寿命」があったため、10年ほど前から新設やリプレースの議論が俎上に上るようになったのだ。


Photo by 新津保建秀

2011年に福島第一原発が事故を起こすまでは関西電力美浜1号機のリプレースや日本原電敦賀原発3、4号機の増設が検討されていたが、現在これらの計画は凍結されている。しかし、事故から4年の時を経て経産省は原発“新設”の方向性を打ち出し始めた。原発政策が新たなフェーズに入ろうとしているのだ。政府が新・増設やリプレースを認めれば、美浜や敦賀の建設計画が動き出す可能性は高い。

とはいえ、新設の議論はまだスタート地点に立ったばかりだ。4月28日の電源構成案を読むと原発の新・増設、リプレースの議論が先送りされていることがわかる。原子力小委員会の「中間整理」でも、新設やリプレースについて賛否両論が併記されている状況だ。電源構成案の内容は今後与党内で調整が行われ、6月までには正式決定する見込みだが、新設やリプレースの議論は当分先送りされることになるだろう。各種の世論調査を見ると、いまだに脱原発を求める国民の声が多いからだ。その状況下で新設の議論を強引に進めるのは政治的に困難を伴う。だからこそ、現政権と経産省は少しずつさまざまな審議会などを通じて原発新設のための「外堀」を埋めていっているのだろう。

3.11後、原発の「新設」問題がこれまでマスメディアでは大きく報じられることはなかった。事故直後には新設議論の現実味がなかったとも言えるが、突然降って湧いた話でもない。安倍首相は、民主党から政権を奪還した直後の2012年12月30日に出演したTBSの番組で「新たにつくっていく原発は40年前の古いもの、事故を起こした東京電力福島第1原発とは全然違う。何が違うのかについて国民的な理解を得ながら、新規につくっていくことになる」と、原発新設に意欲を示し、実際に第2次安倍政権下で策定された2014年のエネルギー基本計画も原発新設に含みを持たせた内容になっている。

安倍政権と歩調を合わせる経済界からも原発の新設を求める声が上がっている。経団連の米倉弘昌会長は2014年2月20日の記者会見で「新規の原子力発電所の建設を認めざるを得ない時期が来る」との見通しを示した。原発を一定の比率で使い続けるのならば新設は避けられないという考えだ。

世界の潮流はどうか。福島第一原発事故を受け、脱原発を決めたドイツやスイスのような国もある一方、事故後に原発新設を決めた国もある。中国には現在17基の原子炉があるが、2020年までに20基以上原発を新設する見込みだという。お隣の韓国も2024年までに11基、その後も2035年までに追加で最大5基新設する計画だ。

英国政府は2013年10月、25年ぶりに英南西部ヒンクリーポイントに新たな原発を建設することを決定、2023年からの稼働を目指している。1979年のスリーマイル島原発事故以来、34年間原発の新設をしてこなかった米国も2012年にボーグル原子力発電所3、4号機VCサマー原子力発電所2、3号機と相次いで原発の増設を決めた。2015年4月30日には新たにフェルミ原子力発電所に新型原子炉「ESBWR」の建設が認可された。


Photo by Nuclear Regulatory CommissionCC BY 2.1

再度確認しよう。原発には「寿命」がある。今後原発を新設しなければ寿命を迎えた原発から廃炉になっていき、自然に稼働する原発の数は減っていく。安全性の高い原発は再稼働し、その間再生可能エネルギーの割合を増やして寿命を迎えた原発を廃炉にしていくことで段階的に原発ゼロを目指すこのやり方は「卒原発」とも言われる。つまり、原発を今後1基もつくらなければ自然に脱原発は達成できるわけだ。しかし、その場合でも電力供給をどうするのかという問題は残る。むしろ、それこそがいま我々に突きつけられた本質的な命題と言えよう。

電力不足、国富の流出、エネルギー安全保障、CO2排出、原発事故リスク、発電コストなどなど、日本の電源構成(エネルギーミックス)を考えるうえで考慮しなければならない要素は無数にある。今回の特集「原発“新設”の是非」では、それらの考慮要素をさまざまなかたちに分解し、賛成・反対それぞれの立場から「原発を新設すること」の意味を専門家たちに論じてもらった。

「ベースロード電源」とは一体どんなものなのか。原発のコストは果たして安いのか高いのか。そもそも脱原発とは本当に可能なのか――。本特集の冒頭では、原発の寿命をわかりやすく時系列で知るためのインフォグラフィックも用意した。いままさに曲がり角に来ている日本のエネルギー政策を知り、今後日本の原発はどうすればいいのか自ら考えて結論を出すための材料として本特集を活用していただければ幸いである。


Photo by 津田大介

著者プロフィール

津田大介
つだ・だいすけ

ポリタス編集長

ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。「ポリタス」編集長。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。大阪経済大学客員教授。京都造形芸術大学客員教授。テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。 J-WAVE「JAM THE WORLD」月曜日ナビゲーター。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。株式会社ナターシャCo-Founder。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。 世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。

広告