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日本の核燃料サイクル政策が進まない理由

  • 澤昭裕 (国際環境経済研究所所長)
  • 2015年6月11日

1章で公開した前半の原稿では日本が現在置かれている状況を踏まえた上で、当分の間は日本のエネルギー政策にとって原子力を一定比率維持していくことが必要性を述べた。しかし、原子力の事業環境という点では、こうしたフロントエンド(発電)での政策よりも、今後はバックエンド(サイクル~廃棄物処分)を含めた核燃料サイクル政策全体をどのようにするのかが重要になってくる。後半となる本稿ではその点について掘り下げてみたい。

あらためてまとめると、日本のエネルギー政策、電⼒政策において、原子力利用は、

(1)エネルギー安全保障
(2)低廉な電力供給
(3)温暖化対策

という、主要な3つの政策目的をすべて満たすことができるものとして、強く推進されてきた。また特に、化石燃料と異なって、技術革新が成功すれば究極的には燃料供給を自国でほぼ完結させうる可能性をもつ原子力は、エネルギー安全保障の観点から戦略的重要性をもつものとされてきた。この燃料自給を達成するための構想がいわゆる「核燃料サイクル」である。この構想の基本的な利点は、次の図にあるとおり、原子力発電所の使用済燃料を再処理し、取り出したウランとプルトニウムを再利用することによって資源の節約と自給率を高めることにある。


出典:「平成16年度エネルギーに関する年次報告」(エネルギー白書2005)

特に、「消費した量以上に核分裂性物質を生成しながら発電を行うことにより、天然ウランのほとんどすべての利用を可能とし、また、その発電コストも、大幅に低下する可能性を有しており、将来の原子力発電の主力となるべきものである」(1967年原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画、原子力委員会、以下「原子力長計」という)とされた高速増殖炉の開発は、日本の原子力関係者の間では長らく究極の目標となってきた。日本は、天然ウラン全量輸入に頼るしかないが、プルトニウムは軽水炉で生成され、高速増殖炉でそれを活用・更なる生成が可能となるという意味で「国産」の資源とみなすことができるということが、核燃料サイクル政策を推進してきた根本認識にあったといえる。

本提言の目的は、核燃料サイクル政策の歴史を振り返ったり、そのメリットやデメリットを論じたりするものではなく、後述するように、原子力事業を巡るさまざまな事業環境の変化の中で、今後とも原子力を一定程度エネルギー政策・電力政策に位置づけていくために必要となる政策措置を検討するものである。核燃料サイクル政策の見直しも、その文脈と範囲内で提言していくこととしており、核燃料サイクル政策のすべての側面を網羅的に扱うわけではないことを最初に断っておきたい。また、本稿の主要な目的は、政策担当者や事業者など当事者に対して今後の政策企画立案・実施に関して行うものであることから、専門的な用語を避けることはできず、また関係者の共通認識になっている事柄についての詳しい解説は省いたりすることもあるので、その点はご容赦いただきたい。

核燃料サイクル政策の経緯と現状

これまでの核燃料サイクル政策の進捗は、その目指すところとの比較においては、一言でいって芳しくない。関係者の状況認識はその点共通している。筆者が行った関係者のヒアリングや文献調査に基づけば、こうした状況に陥った理由として考えられるのは次のようなものである(核燃料サイクル各段階の現状の詳しい説明については、「核燃料サイクル政策の改革に向けて」21世紀政策研究所、p6〜p10を参照のこと)。

1) 発電を含む核燃料サイクルの各段階について、活動量の定量的計画値(例えば発電量、再処理量、プルトニウム利用量等)が相互にリンクしており、そのうえそのリンクの余裕度が小さいため、どこかの段階で少しでも計画通り事業が進捗しなければ他の段階への悪影響が避けられないこと

2) その活動量計画に、技術開発の不確実性、トラブルや事故の発生とそれを踏まえた規制強化等の政策変更、地元自治体の合意取り付けに係る政治的要素などが影響することは明白であるにもかかわらず、計画に織り込んでこなかったこと(例えば、1967年当時、高速増殖炉は1990年以前には実用化されると見通されていたことなど)

これについては、活動量計画に余裕度がなくなる、いわゆる「せっぱつまった状況」にならないと、政策遂行に関して、地元自治体を含めた関係者が合意しにくいという社会的構図が背景にあった場合も存在するとの関係者の指摘もあり、そうした事情も考慮する必要があろう。

3) 上記1)や2)のような状況が起こった際には、核燃料サイクルの各段階の活動量や資源投入量を調整しつつ、開発利用までの時間軸を整合的に戻すべく、各段階の計画間を強力なリーダーシップの下、トップダウンかつ一元的に関係者間を調整する役割を果たす組織主体が必要である。しかし、関係者間にはそうした組織は存在せず、むしろ政策担当者や事業者の関係部局・部署が分散的・縦割り的に実質的な意思決定を行っており、技術開発の現場、経営の現場、政策の現場での「プロジェクト・マネジメント」機能の不在が常態化していたこと

4) このように、局地的最適化しか視野に入っていない分散的決定でしかないものを、形式的には原子力委員会という合議体の下で「集団的決定」としたことによって、結果として誰が核燃料サイクル政策やその実施に責任を取ることになるのかが判然としなくなったこと

そもそも核燃料サイクル政策については、初期の政策決定時から長年にわたって安全性、経済性等の面からの反対運動 が存在した。そうした運動団体や研究者からの批判的論説は次第に増加して行くが、こうした動きに対して、政策を推進している関係者は反射的に防衛的な姿勢を取ることが通例化し、関係者自身が種々の問題点や不確実性の存在は認識していても、表立って議論することがためらわれるという「空気」があったといえよう。

そのため、必要な抜本的な改革や方向転換が適時適切に行われるためには必須である強力なリーダー不在の中、関係者全員で従来路線の踏襲に向けて「スクラムを組み直す」ことを繰り返すしかない状況に陥ったのではないだろうか。その「スクラムを組み直す」際に、それまでの基本路線を崩さないためには、時間軸の変更(計画達成時期の後ろ倒し)、活動量の変更(規模の縮小や拡大)が必要となったわけだが、その類の変更が数十年にわたって度重なってきたために、現状では政策改革オプションの幅が極めて狭くなってしまっている。

2014年4月に策定されたエネルギー基本計画においては、核燃料サイクル関連の記述のうち、いくつか重要な点を抜き出して「意訳」すれば次のとおりである。

1) 核燃料サイクル政策全体はこれまで通り推進するが、中長期的にはその変更はありうるという考え方を基本方針とする。
2) 既往方針との差は、次の諸点である。

(1) 高速「増殖」炉開発の将来については言及せず、核種転換・廃棄物減容化目的を主軸に据えた「高速炉」開発という意義付けにシフトする。
(2) 高速増殖炉原型炉「もんじゅ」については抜本的に改革する。
(3) 使用済み燃料の「中間貯蔵」に関する核燃料サイクル政策上の位置づけを一層強化する。
(4) 「プルトニウム回収と利用のバランス」への考慮を前面に打ち出し、再処理事業量や時間軸についての柔軟度を確保する。
(5) 高レベル放射性廃棄物関連で、最終処分方法について地層処分を基本とするものの、回収可能性などの柔軟性を付与するとともに、地点選定プロセスの見直しを行う。

原子力事業環境の変化

核燃料サイクル政策は、これまで原子力委員会等で国が基本方針を定める一方、事業主体としては研究開発・実証段階までが旧日本原子力研究所および旧動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)、実用化段階は一般電気事業者が担ってきた。

いわゆる「国策民営」という言葉は原子力発電の開発に関してよく用いられるが、実際には原子力発電は時代が下るごとに商用のものがほとんどとなり、純粋な「民営」に近くなってきていたのが実態である。一方で、核燃料サイクルについては、核兵器不拡散条約上センシティブなプルトニウム利用に係るものであり、再処理工程や濃縮工程などの進め方は、政府との密なコミュニケーションの下で決められてきたため、より「国策」の比重が強い「国策民営」だと言えよう。今後の政策展開を検討する際には、この差異を念頭に置いておく必要がある。


出典:原子力事業環境・体制整備に向けて(21世紀政策研究所)

ここ最近の電力・原子力事業を巡る環境変化の中で最も影響が大きい3つの変化は、下記の通りだ。

(1) エネルギー基本計画における原子力依存度低減を正式決定

(2) 電力システム改革による自由化の進展(総括原価主義による料金規制の廃止、発送配電の法的分離、一般的な会計ルールの適用等)

(3) 安全規制に係る新規制基準によるバックフィット実施


出典:原子力・エネルギー図面集(電気事業連合会)

この3つとも、政府が主導して政策変更したことによって生じた事業環境変化である。その結果、民間原子力事業者がこれまで前提としてきた事業環境において取ってきた経営行動は合理性を失い、新たな環境に順応するための経営改革を行う必要が生じている。これら3つの政策変更が核燃料サイクル全体に及ぼす影響は、要約すれば、

(1) 総括原価主義による料金規制の廃止によって投資回収リスクは高まる結果、新規投資に必要な資金調達が困難になる
(2) これまで既に進めている事業については追加安全対策等によるコストアップが生じる
(3) 原子力による発電量の低下等によって核燃料サイクル事業を支えてきた収益が低下する

ということであり、核燃料サイクル事業の維持が困難に晒されることは確実である。

現在、これらの政策変更が原子力の事業リスクにもたらす影響についての検討が総合資源エネルギー調査会原子力小委員会で行われているが、特に次の3点についてどうような議論がなされ、結論が得られるのかが重要である。

1) これまで既になされた投資に関して、事業者の責めに帰せられないルール変更の結果生じた逸失収益に係る資金回収をどのように行うのか(規制資産化、stranded cost論
2) 今後の新規原子力事業関連投資のリスクをどう軽減し、官民分担するのか
3) 民間原子力事業者の破綻が現実化する可能性を考慮した政策体系をどう構築するのか

核燃料サイクル政策見直しの際の留意点

さて、核燃料サイクルは今後本当に政策的に維持することはできるのか。

核燃料サイクル政策は地層処分による最終処分まで視野に入れると、

①超長期(300年〜400年)
②巨額事業費(10兆円以上)
③コスト、技術面での大きな不確実性

投資回収装置が廃止される競争環境下においては核燃料サイクル政策の抜本的見直しが必要となる

という特徴を持っている。これまで曲がりなりにも民間事業主体がメインとなってこうしたリスクを負いつつ、各段階の実行を担ってこられた理由は、特に総括原価主義による料金規制という制度の存在があったからである。そうした投資回収装置が廃止される競争環境下においては、核燃料サイクル政策の抜本的見直しが必要となるのは当然のことである。

政策見直し、5つのポイント

原子力問題についての総合的な政策見直しを行う際の重要なポイントとして次の5点を挙げておきたい。

第一に、核燃料サイクル政策全体を整合的に進める政策責任の所在を明確化することである。これまでの核燃料サイクル政策は、政府側に強力なリーダーシップが存在しない(原子力委員会という行政委員会でしか過ぎなかった)中、それぞれの工程段階での活動量や技術の進展見通しなどについて精緻に結びつけすぎてきたがゆえに、いずれかの工程段階での進展が予定通りに行かない場合、関係者が鳩首協議(きゅうしゅきょうぎ)を行って互いの計画調整をするという弥縫策(びほうさく)を採るにとどまり、立ち止まって大きな方向転換することができなかった。それは、研究開発段階が科学技術庁、実用化段階が経済産業省(旧通商産業省)と所管が分かれていたことも大きな原因の一つだと考えられる。こうした反省に立って、今後は政府側で核燃料サイクル政策を研究開発から実用化段階、さらに最終処分まで整合的・統一的に担う永続的な組織を設置すべきである。


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第二に、競争環境下で原子力事業を続けるためには、原子力事業の外部経済性(エネルギー安全保障の確保、温暖化対策への貢献)を正当に評価しつつ、原子力事業の外部不経済(放射性廃棄物、直接処分の場合は使用済燃料も)を内部化するために、政府が積極的に政策措置を講ずることが必要となる。今後とも原子力発電部分は民間事業者が主体となって運営していくとすれば、自由化によって生じるファイナンス・リスクや原子力損害賠償法上の賠償責任について、他の電源が抱えるリスクとイコールフッティングを行うべく、政府が信用補完措置を採ったり、賠償責任の分担を行ったりすることが必要である。その際、バックエンドについては、原子力発電を行う民間事業者に対して、その外部不経済の内部化のために適切な額の課金を行うとともに、その課金行為をもってそれ以降の実際の処分責任は公的機関に移行(実際のオペレーションは効率的・効果的な事業遂行が可能な民間事業者が適切)させることが望ましい。

ただし、その場合、次の点に留意した制度設計が重要である。

(1) 適正な課金水準を算出する困難さや適正でない場合における民間事業者のモラルハザード(「勝手な」退出や過剰な投資)を防ぐために、一定の規律・ガバナンスが機能するように民間事業者に対して法的規制をかけておくこと(また、再処理や濃縮に関しては、核不拡散上の観点からも、オペレーションの主体に対する直接的又は間接的な法的規制が必要となる)
(2) 民間事業者の事業・投資計画に対する政府支援には透明性を持たせることで、無限定・無制限な支援に陥らないような制度的歯止めを持たせておくこと
(3) 政府の支援が個別の民間事業者に対してランダムに行われることがないよう、政府支援を一元的に受ける準公的な組織的受け皿を設立すること


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第三に、国際的な説明責任が果たせる状況を創造しておかなければならない。それは受動的、能動的両面においてである。受動的な意味では、「利用目的のない余剰プルトニウムは持たない」という原則を遵守することが、実体的に裏付けられていることが必要である。今後、再処理をどの程度行っていくかについては上記の不確実性が存在するが、少なくとも現状(2012年)においてもプルトニウムは国外に35t、国内に9tの総計44t(うち核分裂性プルトニウムは30t)を保有しており、これらの保有プルニウムについては利用計画が明確になっていなければならない。当面はプルサーマルによる利用(そのためのMOX加工)だが、将来高速炉において消滅処理をするのか、増殖を含めた技術をさらに開発を続けるのか、または両方のオプションを追求するのかについて明確にすることが必要となる。


出典:原子力・エネルギー図面集(電気事業連合会)

また、能動的な意味では、日本が非核兵器国で唯一再処理が認められ続けている国である所以として、IAEA(世界原子力機関)の保障措置を完全に受け入れ、関連の国際的な法的義務を遵守しているという核不拡散のモデル国であるという状況があることを忘れてはならない。今後とも、核不拡散の取組を一層進めるため、保障措置に係る規制・体制を強化する必要がある。その意味で、「核不拡散研究会」の次の提案を十分踏まえた取組みを行う必要がある。「その際、自国が拡散懸念の対象にならないことに専念し、他国・地域での拡散懸念への対応に積極的に貢献しない「一国不拡散主義」に陥ってはならない。また、保障措置の「優等生神話」に捉われることなく、保障措置実施のための規制・体制を一層強化するとともに、特に東アジア各国の保障措置体制の整備や、国際的な保障措置活動に従来以上に貢献すべきである」(核不拡散研究会中間報告書

こうした取組みの経験をパッケージ化することによって、今後原子力の平和利用を積極的に進めようとする新興国や途上国に対して、キャパシティ・ビルディング(政策立案・実行能力構築)協力を行っていくこともできる体制を形成しておくことは、日本の原子力政策経験を活用した国際貢献を行うという観点から非常に重要である。

将来に向かっての展望を描く際には、その歴史を乗り越えなければならない局面にも遭遇する

第四に、政策変更を行う際には、これまでの歴史的な経緯を十分踏まえることが必要であり、地元自治体や住民との関係で築き上げてきた信頼関係に傷が生じないように配慮することが重要である。しかし、一方で将来に向かっての展望を描く際には、その歴史を乗り越えなければならない局面にも遭遇することを覚悟しなければならない。不可逆的な事態の展開を許してきて問題解決を複雑化させたのが最終的には政治の決断であったとするならば、今後それをほぐすための決断も政治的なコストを伴わざるとえない。


出典:原子力・エネルギー図面集(電気事業連合会)

核燃料サイクル政策は、濃縮、再処理、中間貯蔵その他の事業が存在している青森県との関係が最も深いことは当然だが、核燃料サイクル政策は使用済燃料の処理をどうするのかが最大の関門であることを考えれば、その政策の見直しの方向については青森県のみならず、原子力発電所の立地地元自治体の理解を確保していく必要がある。さらに、こうした原子力発電による安定かつ低廉な電力供給を長く享受してきた消費地の自治体や住民も、負担の公平性の観点からは他人事ではありえず、今後の政策コストについては電気料金あるいは税といった形で負担することは当然である。また自由化によって新規参入してくる新たな電気事業者も、原子力発電所から供給される電力を(市場又は相対で)調達しているとみなされる場合には、負担やリスク分担が求められる。

このように、核燃料サイクル政策の変更に伴って生じる将来への負担やリスクの分担については、このように全国的な問題であり、地方地方での議論及び国会における十分な議論を経て決定されるものである。

第五に、核燃料サイクル関連の技術をどのように継承していくかという問題については、慎重な検討を要する。原子力発電を含む核燃料サイクル技術については、いわゆる「自主技術」開発によっていずれは自主技術に基づく事業展開を図っていくことを主軸に置くのか、それとも欧米で既に実績がある技術を導入することを中心にしていくのかという路線対立が導入当初からあったことが、日本の原子力技術開発と継承を難しくしている。

重要なコア技術の部分がブラックボックスになっている導入技術では、いつまでたっても我が国独自の競争力は獲得できない

ここで原子力技術開発の歴史に詳しく踏み込む余裕はないが、一次近似値としては、自主技術開発を志向する旧動力炉・核燃料開発事業団=旧科学技術庁対導入技術による早期の事業化を目指す電力業界=通産省との対立ととらえることができるだろう。特に再処理技術、高速増殖炉等の核燃料サイクル技術の中心を占める技術については、その傾向が強い。それらの技術の所期の研究開発段階において、旧動燃がチャレンジを開始するが、実証段階に行き着くまでには当然ながらさまざまな技術的ハードルが次々と現れ、その克服に四苦八苦する。研究開発に携わっている研究者から見れば、そうした様々な研究課題に取り組む苦労の中で得た独自のデータやノウハウこそが自主技術の基礎となるのであって、重要なコア技術の部分がブラックボックスになっている導入技術では、いつまでたっても我が国独自の競争力は獲得できないと考える。一方、電力業界からすれば、自分たちの事業は民間事業であって、(特に経済成長率が高かった時代には)需要が増大する一方の電力供給を安定的に行うためには、そうした研究開発の紆余曲折を悠長に待っていることはできず、もし所期の計画に間に合わないようであれば、欧米からで商業的に実証されている技術を導入する方が技術的信頼性やコスト面で有利であると考える。


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原子力長計などにおいては、旧動燃が開発した技術を民間に移転することによって再処理等の事業を進めて行くべしとの理想論が掲げられている。しかし、実際にこうしたプロジェクトに携わった民間事業者のエンジニアによれば、同事業団の進め方は民間におけるプロジェクト・マネジメントがしっかり行われているというより、研究者が研究のための研究を行っていたというイメージが強い。一方、逆から見ると、電力会社は電力事業の遂行に必要な技術についてメーカーの提案に依存しすぎており、自らの内部に技術を蓄積・習得していくための組織を維持したり人材を育成したりする点では、軽水炉路線が定着して行くに従ってその意識が徐々に希薄になっていたという印象を持っているのである。

お互いに相手に対してステレオタイプ的なイメージを持ちすぎている感はあるが、核燃料サイクル技術というそもそもは欧米生まれの技術をどのように「国産化」し、どの主体にその技術開発の将来を任せ、どのような研究開発体制を構築しておくのかという問題は、これまでの歴史を踏まえつつも、どの主体がどのようなモチベーションでどのような技術要素をどのような時間軸で研究開発しようとするのかについて冷静に分析したうえで、研究テーマや技術実証プロジェクトの選択、主体の選択、コスト負担のあり方について検討していくべきである。

現時点では、原子力に対する逆風が強く国の財政資金を原子力の研究開発に向けることが難しいうえ、総括原価方式の料金規制撤廃によって電力会社が計上できる研究開発費も節減されていくことは必至である。このように配分できる資源は官民とも限られている状態が続くことが予想される現状では、既得権的な資源配分やこれまでの惰性での主体選択は厳に慎むべきであり、研究開発や技術承継の主体候補である大学、旧国研的研究機関、研究プロジェクト実施機関、電力業界、メーカーからなる研究開発体制の合理化・再編を思い切って進めていくべきである。

より具体的な政策提言については、上記に掲げた21世紀政策研究所の報告書「核燃料サイクル政策の改革に向けて」をご参照いただきたい。

この報告書に安全規制問題、原子力損害賠償問題など、原子力問題の全体像と上記報告書で提言した内容を模式化した図を、ご参考までに最後に示しておく。


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著者プロフィール

澤昭裕
さわ・あきひろ

国際環境経済研究所所長

21世紀政策研究所研究主幹。NPO法人国際環境経済研究所所長。1957年大阪府生まれ。1981年一橋大学経済学部卒業、通商産業省入省。1987年行政学修士(プリンストン大学)。2004年8月〜2008年7月東京大学先端科学技術研究センター教授。2007年5月より21世紀政策研究所研究主幹。2011年4月より国際環境経済研究所所長。

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