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特集『3.11から5年――それでも』を開始します

  • 津田大介 (ポリタス編集長)
  • 2016年3月10日

日本中を揺るがした東日本大震災から5年を迎えます。甚大な被害をもたらした津波や福島第一原発事故によってコミュニティが破壊され、新たなまちづくりを余儀なくされた東北の各地域は今、よりリアルに「町の衰退」の危機に直面しています。

震災によるがれきは2年ほどでほぼすべて片付きました。しかし、肝心の被災自治体の復興計画づくりはなかなか進まず、計画が策定できても実行に移す過程で止まってしまうことも少なくありません。そこには国の方針とのバランス、自治体の制度的硬直化、住民同士の意見対立、リーダーシップの欠如などさまざまな要因が横たわっています。

その一方、特にこの1年、被災地域を取材する中でよく耳にしたのは「ようやく具体的な復興に向けて状況が動き出した」という話でした。多くの地域で土地のかさ上げや防潮堤建設の目処がついたことで、新しい町を象徴する施設の建設が具体化し、住民も「新しい町」をようやく実感として意識できるようになったのだと思います。


Photo by 津田大介

とはいえ、いち早く水産業復活のための多機能水産加工センターや、災害公営住宅を整え、2015年12月には駅前に商業エリア「シーパルピア女川」をオープンさせた宮城県女川町と比べると、ほかの被災自治体の歩みの遅さは気になるところです。女川町と同じく過酷な津波の被害を受けた宮城県南三陸町では、現在2012年にオープンした仮設商店街「南三陸さんさん商店街」をかさ上げした土地に移転本設するための工事が始まっており、2016年末にオープンする予定です。そう、南三陸町と女川町では、同じ位置付けの商業施設のオープンがちょうど1年差がついていることになるわけですね。実をいうと南三陸はまだいいほうで、東京オリンピックによる作業員不足や資材高騰、用地確保の難しさなどから「本設」への移行の見通しが立たない仮設商店街が、被災地域には多く見られます。女川や南三陸のようにようやく「復旧」から「復興」のフェーズに入れた自治体と、いまだ「復旧」段階にある自治体の差は年々開いているとも言えますし、それこそが「震災から5年」で見えてきた厳しい現実なのでしょう。

これまでの支援活動を止めたり、リニューアルする団体も増えてきました。メディアで語られる「復興」は、どうしても派手なインフラ建設や、絵になる人物、耳目を集めるストーリーに注目が行きがちです。しかし、復興の現場には多くの人に惜しまれながらさまざまな事情で支援活動を途中で挫折した人もいれば、誰から注目されるわけでもなく淡々と5年間支援を続けている人もいます。なぜ彼らはやめたのか。あるいは続けているのか。この特集は、復興にかかわる活動に携わってこられた方たちの5年間の足跡やその想いに触れ、とりわけ5年という時の流れのなかで「それでも」続ける/「それでも」やめるという決断をしてきたことについて取り上げます。

彼らの「それでも」という思いに触れることで、一筋縄ではいかない「復興」への道筋、そこにたどり着くために必要なものは何か、一緒に考えていただければ幸いです。

特集『3.11から5年――それでも』を始めます。


Photo by 津田大介

著者プロフィール

津田大介
つだ・だいすけ

ポリタス編集長

ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。ポリタス編集長。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学文学学術院教授。大阪経済大学情報社会学部客員教授。テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。J-WAVE「JAM THE WORLD」ニュース・スーパーバイザー。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。 世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2013」選出。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)、『「ポスト真実」の時代』(祥伝社)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。

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