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  • Photo by keepon i (CC BY 2.0)

子どもの貧困と生育環境の改善こそ急務である

  • 藤井誠二 (ノンフィクションライター)
  • 2018年9月26日

この9月に上梓した『沖縄アンダーグラウンド 売春街を生きた者たち』というノンフィクションを書くために、沖縄で数十人の性風俗や売春に従事している(していた)女性に取材した。10代から50代まで年齢層は幅広く、昼間は仕事をして夜だけ従事する人もあれば、専業として性風俗で働いている人もいた。10代の女性たちは多くが年齢を偽って働いていたが、当人の周辺から本当の年齢はすぐにわかった。

沖縄には数年前まで、真栄原新町(宜野湾市)と吉原(沖縄市)という二大売買春地帯が存在していた。那覇市には辻という元遊廓だった街もあり、一大性風俗街として今も賑わっている。沖縄のそういった街の多くは米軍基地に寄生するように形成され、米兵相手に商売をしてきたが、復帰後も県内や内地からやってくる者を客にすることで生き延びてきた。復帰後はその大半が自然に廃れていったが、真栄原新町と吉原は2011~2012年をピークにした「浄化運動」により消滅した。拙著はその街で生きてきた者たちの「語り」と戦後史を織りまぜながら、沖縄の戦後の一断面を描き出した。同時にそれは沖縄の「下層」に置かれている女性たちが抱え込まされている現実を目の当たりにすることにもなった。


ゴーストタウン化した現在の真栄原新町:Photo by 藤井誠二

私が取材をした女性たちには、年齢に関係なく共通点があった。それは、夫や恋人から殴る・蹴るなどの暴力を受けていたこと。10代後半で結婚するなどして妊娠し、子どもをもうけていたこと。夫や恋人から経済的に依存され搾取されていたこと。家族や親戚などの共同体からも有効なサポートを受けられず孤立していたこと――などだ。女性たちは頼るところ、助けを求める手段も知らないまま、心身が傷ついたまま生きてきていた。

沖縄の子どもの相対的貧困率が29.9%と、全国平均の倍もあるということが問題視されたのはこの数年のことである。母子家庭出現率も全国の倍近い10代婚姻率と10代出産率も全国1。世代関係なく離婚率も1位だ。ドメスティックバイオレンス相談率も(10万人あたり)も全国で3位。私が取材した女性たちが置かれた(置かれてきた)状況はこうした数字とすべて合致していた。


出典:沖縄県子どもの貧困対策計画


出典:沖縄県子どもの貧困対策計画

故・翁長知事は沖縄の子どもの貧困問題にもっとも取り組みたいと公言していたし、大規模な調査をおこない、子どもの貧困状態をあきらかにし、対策を途につけた。翁長氏の業績だと思う。それを引き継ぎ、さらに拡充していくことを誓う候補者が沖縄の知事にはふさわしいと私は思う。基地問題で表に出にくかった問題を可視化して、重点課題として取り組める姿勢が新知事にあるかどうか。公約に「若年妊婦」の問題も入れている候補もいるが、どういう背景や経緯でそういった状況に至ったのを把握して、具体的な方策を打てるかどうかが問われている。


Photo by津田大介

ただ重要なことは、若年妊娠も、10代の結婚・離婚、母子家庭も責められることではない。蔑まされることでもないという認識を持てるかどうかということだ。私の沖縄の友人でも、10代で子どもを生んだ女性は多い。そしてすぐに離婚をしてしまうケースもきわめて多い。子どもを抱えたまま、女性たちは生きるために昼も夜も働いてきた。かくいう私も母子家庭で育った。その現実を受け入れ、当事者に最善のサービスを提供するのが政治の責務だ。ネガティブな問題と位置づけてはならないと思う。

暴力性は早いうちから芽を摘み取ることが、被害者を生まないためにも男の側を犯罪者にしないためにも重要なことだ

一方で、ドメスティックバイオレンスは犯罪・非行だ。そうした暴力に対して毅然とした態度を取ることが必要だ。そして再発しないような教育を受けられる仕組みも必要だ。加害者である男の側は自分たちの行動が犯罪・非行であるという価値観を持てないまま大人になる。暴力性は早いうちから芽を摘み取ることが、被害者を生まないためにも、男の側を犯罪者にしないためにも重要なことだ。

被害を受ける女性たちが自分から警察や行政に相談することも、とても少ない。警察に暴力を届けても、まともに取り合ってくれるところは少ないし、自分のプライバシーを根掘り葉掘り知られるのではないかと相談することを躊躇してしまう。また、家族にも積極的に関わっていくゆとりがない。私は沖縄で被害者の命が奪われた「少年事件」も多く取材したことがあるが、加害者側にはほとんどこの問題が共通していた。

被害を受ける女性たちが自分から警察や行政に相談することも、とても少ない

こうした子どもたちの諸課題や問題はすべて連鎖をしている。たとえば、根強い先輩絶対主義や男尊女卑的のような歪んだ価値観にしても、若年のときから刷り込まれ、変わることなく、受け継がれてしまう。犠牲になるのは女性か、弱い立場にある者たちだ。

そういったことに疑問を抱き、逃げることができるようなちからは、学校教育や地域の教育、家庭教育、教育NPOのはたらきかけの中でつけてもらうしかない。

子どもたちには、逃げ込める場所こそが必要なのだ。

連鎖をしているからこそ、ワンストップサービスのような窓口を数多く設け、人的資源を養成・投入し、学校や地域で告知を繰り返して、第三者に相談することで事態を少しでも改善につなげ、自身の苦しさを軽減していけるのだという経験を子どもたちに積んでほしいと思う。それをサポートする行政の窓口づくりに県全体で取り組むことが急務だ。

子どもたちには、逃げ込める場所こそが必要なのだ。

現状に対して対策が追いついていないことを有権者は重視してほしいと思う。

著者プロフィール

藤井誠二
ふじい・せいじ

ノンフィクションライター

1965年愛知県生まれ。 『大学生からの取材学』、『アフター・ザ・クライム──犯罪被害者遺族が語る「事件後」のリアル』、『殺された側の論理』、『「壁」を越えていく力』、『体罰はなぜなくならないのか』、最新作「沖縄アンダーグラウンド」など著書・共著書多数。

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