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都知事選とは東京都の知事を選ぶ選挙である

  • 飯田泰之 (エコノミスト)
  • 2014年1月25日

徳洲会からの融資問題による猪瀬直樹知事の辞任を受けて、前回選挙からたった1年にして再度の都知事選挙が行われることになった。人口1000万人、韓国・メキシコに匹敵する経済規模をもつ首都東京の選挙だ。通常であれば、立候補を考える候補者は十二分な準備をもって望むところだろう。候補者だけではない。各党は十分な時間をかけて候補者の選定と準備を行い、各団体共は自分たちの主張・利害を考えながら支持候補を探る。しかし、今回はあまりにも突然なことであって政党・団体・立候補予定者それぞれが明らかに準備不足状態であるというのが一目瞭然な状態になっている。なにせ、立候補を表明したが公約が出せないという候補までいるくらいなのだ。

この混乱に拍車をかけているのが、原発再稼働・脱原発問題の争点化を狙う候補者の存在だ。確かに東京は電力の大消費地であり、東京電力の株主でもある。私自身は環境負荷が小さく、コスト面でも原発と大きな差があるわけではない新型火力発電の増設による原発依存度の順次低下を目指すのが現実的な解決策だと考えている。その意味で、都知事は都内で新型火力発電の建設を用意にするといった方法で脱原発を支援することもできる。コスト面でまだまだ現実的なものとは思われず、財政負担の大きさには見合わないと思うが家庭用太陽光発電への補助金を積み増すといった政策もあり得るだろう(ただし、現時点でも都・区の太陽光発電導入支援金は周辺地域と同レベルかむしろ高い)。

しかし、原発立地地域でもなければ、一国全体のエネルギー政策を決定する権能を持つわけではない都の首長選挙の第一の争点が原発であるという状況には首をかしげるしかない。脱原発への側面支援が公約の一つに入っているというなら理解できる。だが、原発問題は東京都知事のメインの仕事ではないという点を忘れてはならないだろう。

メディアでは、(原発問題以外の)論点・争点がないかのように報道しているが、都には多くの争点となり得る政策課題は多い。

都知事が公選であるメリットは、地域の問題に関する大方針を公約に掲げ、その方針を貫く選挙結果というお墨付きをもって都政に臨むことができるところにある。急ぎ決定しなければならない都の大方針は分散と集中の選択とまとめることができるのではないか。

日本経済の中心地である東京の交通インフラの貧弱さである。首都高の毎度の混雑や通勤ラッシュを引き合いに出すまでもなく、この劣悪な交通環境をどのように解決するかの公論が必要だ。商業地・市街地の分散によって問題解決をはかるのか、中心地へ集中を前提としてアクセスの向上を目指すのかは大きな論点である。防災・減災についても、内陸部への中心街の移動を促進するのか、現在の配置を前提にするのかは議論が必要だろう。このような交通インフラだけではなく、医療・介護、子育て関連設備についても地域的集中を前提に施策を考えるのか、それとも地理的分散をはかるのか。大方針が示される必要がある。

都知事が「できること」は都の仕事——ではあるが、国政に大きな影響を及ぼすことができる課題も多い(繰り返しになるがそれは原発問題ではない)。それが地方分権のありかただ。その善し悪しはさておいて、地方分権の促進に関して大阪府・大阪市の果たした役割は大きい。それは大阪府市が、一県・一市とは比べものにならない規模をもっていためだ。その意味で、東京都知事が国と地方の行政・財政の役割に与える影響は大きいだろう。

都知事選挙においては、ひとつに都の問題である分散と集中いずれを指向しているか、そして地方分権について都道府県の権限を拡大する指向にあるか否かが問われる様になって欲しい。ごく短い選挙期間ではあるが、実態のある政策論争からこれらの論点へのしっかりとした言及のある候補者を選びたいと考えている。

著者プロフィール

飯田泰之
いいだ・やすゆき

エコノミスト

1975年東京生。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。明治大学政治経済学部准教授、財務省財務総合政策研究所上席客員研究員、(株)シノドス・マネージングディレクター。専門は経済政策。近著に『地域再生の失敗学』(共著・光文社新書)など。

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